2018.05.11

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

北海道、登別のエゾジカハンター、獲って食べて活用するまで

1990年代以降、北海道全土でエゾシカによる農林業被害や生活環境被害が出ている。各自治体でその対策が取られているなか、登別市では、民間や猟流会と連携しエゾシカの頭数削減を図っている。今回は民間、団体、個人の取材を通して、その活動の一端に触れる。

01『猟友会支部長の美味しいジビエ』

(株)伊奈不動産エゾシカ活用事業部

明治時代に北海道の開拓を支えたエゾシカの利活用を、現代のやり方で。ジビエと向き合う不動産屋の一日を追った。

不動産屋なのにエゾシカ活用とはこれ如何に

 明治維新後、北海道開拓使たちは開拓資金として外貨を得るために、エゾシカを獲り、缶詰や鹿革に加工し、ヨーロッパに輸出した歴史がある。しかし、明治12年とその前後の冬、北海道は大雪に見舞われ、数十万頭規模でエゾシカが餓死してしまい、絶滅が危ぶまれた。これがきっかけとなり、その後、約50年の間は、エゾシカ猟は禁止された。
 しかし、平成も過ぎて28年。気が付けばエゾシカは推定48万頭までに増えてしまい、獣害も方々で出ている。天敵のエゾオオカミを絶滅に追いやってしまった今、人間がエゾシカを捕獲して生態系を守らなければならないのが北海道の実情である。
 だが、彼の地の人々はこの状況を憂うばかりではない。何とか資源として活用しようと考えているのだ。
 伊奈不動産エゾシカ活用事業部は、増えすぎてしまった鹿を捕獲し、安全で美味しいジビエとして処理。飲食店や精肉店に卸す事業。北海道猟友会の室蘭支部長である伊奈信也さんが、登別市から要請を受け、自身が代表を務める不動産屋の一事業部として一昨年に発足したものである。
 「この苛酷な北海道で生き残る賢さ、強さっていうのは、他の野生動物にはないですよね。高タンパクで低脂肪、鉄分豊富。しかも美味しい鹿肉。こんなにも良質な資源を、有効活用しない手はありませんよ」

取材した日の猟場は、知り合いの牧場を含む里山。現場に到着すると、すぐに山の中腹にシカを発見。トランシーバーで後方から指示をし、見事な連携でシカを射止めた。

エゾシカ活用事業部は、肉屋や飲食店への肉の卸のほかに、加工した食品も手掛ける。スジ肉を中心にした缶詰は、カレー煮、味噌煮、大和煮の三種類展開。110g缶は一缶460円で販売中。

シカ肉の美味しさを知ってもらうために

オスジカは単独行動、メスジカは群れる習性がある。仕留めたのがメスだった為、周りを捜索するも二頭目は見つけられず。70キロほどの巨体を二人で引きずり、車を目指す。撮影したのは一月下旬だが、ご覧の通り斜面には雪が少なく草が見え隠れ。シカがよく育つわけである。

 6時58分、日の出の里山に銃声が響き、前方の雌鹿が崩れ落ちた。
 ライフルの弾を放ったのは、エゾジカ活用事業部の業務を担う、伊奈さんのパートナー白川さん。元自衛官で、猟師歴25年のベテランだ。お二人は年間で約200頭のシカを仕留める。全てはシカを適切に処理して、状態の良い肉として流通させる為、スピーディーに処理する必要があるので、自社で食肉処理施設も完備している。他の所では考えられないことだが、基本的にシカの絶命後30分以内に施設まで搬入し、処理をするように努めているという。また、それが叶わない場所に猟に出かける時の為に、一次処理を行える特殊車両も保有している。
 また、鹿を仕留める段階にもポリシーがある。それは必ずネックショットを狙うこと。これにより肉が傷つくのを最小限に抑えられ、頸動脈を破壊することで血がうまく抜けて、シカを苦しませない事にも繋がる。そして、あまり知られていないが、走り回ったシカは肉に血が回る為、味が落ちる。彼らはシカなら何でも撃つという訳ではなく、良い肉を手に入れる為に、リラックスした状態のシカを撃つよう心掛けているのだ。
 「シカ肉は臭いとか、濃い味にしないと食べられないというイメージを持たれる方がいらっしゃいますが、それは適切に処理されていない肉しか知らないだけだと思います。私たちは、本来の鹿肉の美味しさが伝わるお肉を提供して、その偏見を無くしたいと思っています」
 平成26年、国はジビエの安全性を確保する為ガイドラインを制定。これにより、飲食店がジビエを提供する場合は、食肉処理業者から仕入れなければならなくなった。ジビエブームの昨今、伊奈不動産のように意識が高い処理業者が増えることで、一過性でなく正当にジビエが評価され、世に定着することを節に祈る。

02『直径数キロに渡って辺りを包囲』

50人のハンターによる大規模捕獲

弊誌では幾度にわたって狩猟の現場をお伝えしてきたが、自治体の行う駆除の現場は今回が初。森の守り人が集い、獣害の元凶エゾシカを撃つ。

大の大人が、銃を背負ってシカを追う。

 農林水産省が発表した、平成26年の北海道におけるシカの農作物被害は、約44億円にものぼった。北海道には現在推定48万頭のシカが生息しており、一番多かった平成22年の63万頭に比べ改善したものの、もう大丈夫かというと、そうではない。エゾシカの繁殖力は凄まじく、1歳で成熟し、2歳になると、毎年出産する為、単純計算で年率約20%の割合で増加してしまう。このペースでは4年で約二倍になる。もう少し数字の話をすると、昨年のエゾシカ捕獲数は、狩猟(定められた猟期で行う普通の猟)で約4万頭強、許可捕獲(管理捕獲など)で約9万頭強。いかに駆除活動が必要か考えさせられる。
 そんな中、登別市では、今年度初となる有害鳥獣大規模捕獲が行われた。これは毎年1月から2月にかけて数度行っているという、市役所主催の巻狩猟である。巻狩とは、猟場を四方から取り囲んで追い立て、目標の場所に追い込んで獲物を仕留める、複数人で行う猟の事。今回は市内を流れる登別川流域、数㎞程の範囲を猟友会室蘭支部のメンバー50人で包囲する。そして、この会を取り仕切るのは、支部長である先の伊奈さん。全国にいくつも猟友会の支部はあれど、こんなに多くの会員が集まるのは稀で、その団結力が窺い知れる。
 勢子(森に入って獲物を追い込む人)は北、西、南の3班に分かれ、東にある登別川の谷へシカを誘導する。待ち(獲物が追い込まれてくる場所で待ち構えて鉄砲を撃つ人)は、川沿いに数百メートル間隔で待ち構え、銃を構える。

勢子も待ちも、それぞれ自分の持ち場にについて役目を果たす事で、成果を得ることが出来る巻猟。これは、人が集まったからおいそれと出来るものではない。年に数度行われるこの大規模駆除のように、ハンター同士が一緒に猟をしてきたからこそなしえるのだ。この場に集まったハンターの多くは、普段は趣味としてハンティングを嗜んでいる人である。

 各人が身に着けたトランシーバーから支部長の声聞こえて、猟が始まった。「オーイオイオイオイ」と声を出しながら、シカに存在を示しつつ、それぞれ勢子は間隔をあけて、目標地点までねり歩く。。誰が言ったか勢子はほとんど猟という名の登山。原子的な方法であるが、猟は獲物と人間との知恵比べ。ひたすら歩きながらも足跡や獣道を探し、どこにいるのかを推理する。やがて囲い込む範囲が狭まってくると、丘の上から爆竹や、大きな音を出すための爆弾を投げ込み追い込みをかける。
 一方待ちは待ちで、真冬の川辺でじっと待つ。追い立てられてやってきたシカは、危険を察知し警戒しているので、どこから飛び出してくるかわからない。とにかく目を皿のようにして獲物の姿を探すしかない。
 レシーバーに届く声。数秒の沈黙。谷にこだまする銃声。これが何度も繰り返される。かくして今回の捕獲作戦も終わりを告げた。

登別市において、エゾシカによる被害額が大きいのは牧草である。しかし、それは被害届があっただけに過ぎない。実際に山に入ってみると、樹皮や枝葉の食害や、逞しいオスジカによって行われたであろう角擦りの跡が見て取れる。こういった被害を目の当たりにすると、猟師はまだまだ森の守り人として活躍しなければならなそうだと痛感する。今回の大規模捕獲作戦の収穫はいつもより少なめであったが、5頭を仕留めることが出来た。捕獲したものは、一部は各ハンターが自家消費用に持ち帰り、一部は自治体で行うイベントで振る舞う為冷凍保存することになったという。

03『鹿角の活用の先で出会った、最高の釣り道具』

登別市役所職員 志水さん スタッグホーンのランディングネット

市内に多く生息するエゾジカを、どうにか観光に繋げられないか。一人の市役所職員が、自身の趣味からその糸口を導き出した。

ネットに使えるのは二段目の一部のみで、しかもなかなか理想の形状が少ないと志水さんは話す。鹿角も同じようでいて形も色も個体により全然違う。濃い茶色の角にはシャム柿材を合わせ、ネットも同系色にしてシックに仕上げている。また、木と角の継ぎ目をなめらかに繋いでいるのもコダワリの一つ。材料はすべて北海道で手に入れたものだとか。昨年は10本ほど作ったが、その多くは友人に差し上げて、手元に残っているのは僅かだけ。最近は鹿角のマグネットリリーサー作りにも挑戦しているそう。

 志水孝暢さんは、登別市役所で観光地の振興や、登別ブランドの認知拡大に尽力している人物。
「市役所としても、駆除したエゾシカを活用して登別のブランドとして売り出せないかと考えています。食肉に関しては、伊奈さんの事業で良質なジビエを流通することが可能になりました。しかし、鹿角に関しては、そのまま切ってお土産屋で売るか、ペットフードになるばかりで、有効な糸口が見つからず……」
 そんな時、志水さんはインターネットで鹿角のランディングネットを見かけ、早速スタッグハンドルのネットを自作したのだという。彼は30年以上も渓流で竿を振っている、根っからのルアー釣り師で、元々趣味で木のネットを作っていた。
「作ってみると、木とは違った風合いと凹凸があって、驚くほど手に馴染んだんです。それと、不思議なことに、鹿角ネットを持ち始めた一昨年ごろから、尺ヤマベ(ヤマメ)が度々釣れて、37㎝の超大物も釣れたんです。鹿角は水辺の守り神と言われているので、何か良い方向に導いてくれているのかもしれませんね」
 ちなみに北海道のヤマベの多くは海へ下ってサクラマスになるため、渓流で30㎝を超えるのは稀。それが本当なら、是非志水さんのネットを手に入れたい。しかし、それは叶わない。何故なら公務員は副業禁止。読者諸兄におかれては、本件で登別市役所に問い合わせないように。

photo:Daisuke Akita text:Junpei Suzuki

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