2018.05.16

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

C.W.ニコルさん#2『“マウンテンサファリ”実現への第一歩』

弊誌前号でC・W・ニコルさんが主宰するアファンの森財団の活動をお伝えさせて頂いたが、動き出したばかりのホースプロジェクトの動向が気になる……。という事で、今号も彼らの活動の一端を取材させて頂いた。

 そもそも何故ニコルさんは馬を飼い始めたのか。そのあらましを話すと、やはり森の再生に行きつく。
 ニコルさんは2012年、アファンの森の再生活動の延長で森に隣接する国有林の管理を林野庁から受託することになった。しかし、隣とはいえ、ニコルさんが32年前から手を入れた森とくらべると違いは一目瞭然。その国有林は高度成長期に植えられた杉や唐松が野放しになっており、地面に光が当たらない暗い森になっていた。そのような鬱蒼とした森は、木も育たず下草も生えないので土壌が悪い状態になってしまっている。そんな状態の森をどうやって健康な森にするのか。その手始めには、木を間引いて、地表に日光を当てるという事を始めなければならない。
 当然切った木は森から出さなければならないのだが、ここからが日本の林業が抱えている問題でもある。道のない森や山の中にはトラックを入れることは不可能だし、その為に道を作るなんてことは自然破壊の最たるもの。木を切るのは容易いが、そこからどう木を運び出すのかは林業家を悩ませる懸案事項なのである。運び出すコストはどうしても材価格に反映され、海外の安価な木材を買われてしまう。そうするとまた日本の林業が衰退し、荒れた森が増えてしまう。という負のサイクルが起こるのだ。

 そこでニコルさんが目を付けたのは、林道のない場所でも活躍できて、化石エネルギーに頼らずに木を運び出せる馬搬であった。現在、日本において馬搬を生業にしているのは岩手県の遠野にいる数名のみ。急峻で道のない山林から木材を運び出してくれるうえ、馬の蹄は地面を傷めず、土壌を程よく耕してくれる。この魅力的な伝統的林業技術を絶やしてはいけない。そんな里山文化継承の意味もあり、ニコルさんはアファンホースプロジェクトを立ち上げた。2年ほどの準備期間を経て、今年7月にはアファンの森の隣にモダンなホースロッジが完成。岩手から2頭の馬を迎え入れたのだ。
 白毛の雪丸は道産子という北海道和種の馬で、栗毛の茶々丸は道産子とクォーターホースのミックス。道産子は足腰が丈夫な種として知られ、200㎏近い荷物も運べると言われている。アファンホースロッジでは、今後数年で馬搬や馬耕といった馬の力を借りて行う山の仕事や、馬と触れ合うことで心を癒す、ホースセラピー、そして地域の復興を見据えた、マウンテンサファリの事業を始める意向だという。現在ホースロッジに入れるのは関係者だけだが、計画がすべて形になってホースロッジに一般の人が入れるようにしたのなら、日本のみならず在来和種を見に外国の方も黒姫を目指してやってくるだろう。

ホースロッジのリビングで本日の行程を確認。ニコルさんのご友人は皆さんアカデミック!

スタッフが敷地内で拾ってきた栃の実。時間があるときに料理しようと置いておくも、手をつけられそうにないとか。

見習うべき里山文化をアファンの森から発信する

「荷物があってもなくても坂を登るのは辛いね(笑)」。愛用の杖を突きつつ目的地へ。

 さて、前回伺った時は、ちょうどホースロッジが完成したてで、2頭の馬もやってきたばかりというタイミングだったが、その後どうなったのだろう。そんなことを思いながら3か月ぶりに黒姫のホースロッジに訪れた。実際、その間に堆肥舎とパドックが新設されたというハード面での変化もあったが、それ以上に雪丸も茶々丸も、日々彼らを世話するスタッフ側もホースロッジでの生活にすっかり馴染んでいた事に驚いた。
 今回の取材はアファンホースプロジェクトの第一章第二節『雪丸と茶々丸、森へ』といった感じであろう、馬と共に森を歩くトレーニングを見せて頂いた。実際問題、間伐材を馬で運び出すという目標を達成するには、馬自身が山歩きになれている必要があるのだ。しかし、今回はどうせ歩くのならマウンテンサファリの実験も兼ねて、雪丸と茶々丸には荷物を背負って歩いて貰った。アファンの森が考えるマウンテンサファリとは、乗馬して山に入るというホーストレッキングとは違い、キャンプ道具や食材など、荷物だけを馬に運んでもらう。目的は参加者に身軽な格好で山歩きを楽しんでもらう事にあるのだ。体力に自信のない方やキャンプに苦手意識のある方も気軽に自然に触れて楽しめるツアーをプロデュースする。それが彼らのゴールのイメージなのだ。

静かな森では、馬が歩く音と野鳥のさえずりだけが聞こえる。馬が一歩進むごとに地面が軽く揺れ、リズミカルに進んでいくと、その振動が心地よくなってくる。

サファリとは探検旅行のこと。それならば食事は豪華でなくちゃ……ってちょっと作りすぎ?

自然保護のこころをアウトドアライフで育てていく

 この日はニコルさんのご友人に参加者となっていただき、マウンテンサファリのトライアルを行った。一頭に一人ホースマンが付き、安全に森を歩けるようサポート。参加者には実際に馬の手綱を引いてもらい、馬に触れてもらうのだ。トレイルコースはアファンの森の中で、ホースマンの森の話を聞きながら奥へと進んでいき、約1時間で目的地に到着。山の中腹を今日のキャンプサイトとした。一般、もしくはアファンの森の会員向けにサービスを開始するのは来年以降の予定。どのようなプランにするかは試行錯誤中だが、取材に伺ったこの日は既にテントやタープが張ってある楽ちんな状態でスタート。参加者は焚火のそばでコーヒーをいただくなり、更に森の奥を散策するなり、それぞれ優雅なひと時を過ごしていた。
 やがて太陽が黒姫山に差し掛かり、いよいよ夕方が近づいてくると、ニコルさんはおもむろに鞄からエプロンを取りだし、ダッジオーブンで調理を開始した。“ハングリーシェフ”が作った地元野菜たっぷりのローストチキンも大好評で楽しい夜は更けていった。
 はたらく馬のいる美しい風景と文化を蘇らせる。楽しい体験を通して森の再生を考え、そして地域創生に繋げる。ホースプロジェクトはまた大きな一歩を踏み出した。

サイモンさんはエコツーリズムの研究者。ホーストレッキングに興味津々で、2頭の馬にカメラを向けて撮影している姿が印象的だった。

友人たちにお酒でおもてなし。『こころ GIN』はニコルさんの甥が蒸留しているジン。日本の山胡椒を使用しているのだとか。

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