2018.05.17

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

C.W.ニコルさん#4『陽春のホースロッジ』を訪ねて

黒姫山に雪が残るものの、山菜が顔を出していたり、花のつぼみが開いていたりと、植物の息吹が感じられるアファンの森。冬の間トレーニングに励んでいた2頭の馬は、この半年で更に逞しくなっていた。

黒姫高原にも春が到来。馬も三浦から帰ってきた。

「雪丸はよく私の手を噛んできましたし、茶々丸もヤンキーボーイでしたが、それも落ち着きましたね。それに体も引き締まった」。手を焼いていたニコルさんも一安心。

 長野県は黒姫高原のふもとに広がるアファンの森。彼の地は、日本に本来あるべき森の姿を取り戻そうと、30年に渡りCWニコルさんが手を加え続けている森だ。そして同時に、失われつつある里山文化を改めて発信している場所でもある。
 「馬が人の役に立つことによって、お互いを生かしていくというのは昔から馬と人間の間で行われてきたこと。このあいだ、北斎の画集を見ていたのですが、そこにも働く馬の姿が沢山描いてありました。昔はそのくらい、人と馬とは密接な関係でした。馬は日本の景色だったんですよ」
 とはニコルさん。昨年夏には、馬を介した人の営みを復興しようと、森の近くに『アファン・ホースロッジ』を設立し、雪丸と茶々丸、2頭の馬を向かえた。ゆくゆくはその活動を一般の方に広めていくべく、現在はその準備をしているのだ。

 ちなみに以前はニコルさんと北極の話を掲載させていただいたのだが、それはホースロッジに馬がいなかった為でもある。というのも、ホースロッジの馬たちは冬の5カ月間、雪深い黒姫から神奈川県の三浦に移り、合宿していたのだ。そこには、浜辺での乗馬体験を行っている会社『ホーストレッキングファーム三浦海岸』があり、2頭の馬はここでみっちりとトレーニング。また、ニコルさんの代わりに馬のお世話やホースロッジの管理をしてるスタッフのアヤさんも、三浦で馬方に必要なスキルを学んでいたのだという。

アファン・ホースプロジェクトとは

黒姫の荒廃した森を30年以上の歳月をかけて再生に導いているCWニコルさんが、2016年始めた新プロジェクト。馬による森の間伐材の運び出し(馬搬)など、馬を介した里山文化の復興・発信を目的としており、現在は2頭の馬をトレーニング中。ゆくゆくは、馬と触れ合うことで癒しを得るホースセラピーや、馬と森に入るホースサファリツアーの事業も行うべく、活動を行っている。

キクザキイチゲやアズマイチゲ、カタクリ、ショウジョウバカマといった可愛らしい花。こごみやタラの芽、行者ニンニク、コシアブラといった春の味覚。麗らかな春の陽気に包まれていたアファンの森は、喜びに満ちている。

馬搬はワーキングホースのファーストステップ。

丸太をこのよう括り、森の中から車の入れる場所まで運んでもらう。馴れた馬なら一気に何本も運べてしまうそうだが、とりあえずはは丸太の大きさを変え徐々にステップアップ。

 「馬と馬方が互いを信頼してないと、阿吽の呼吸で馬を動かす事は出来ません。雪丸も茶々丸も8歳で、本当は働き盛りなんですが、正直三浦に来たての頃は、怠けてて集中力もありませんでした。馬と人が共存していく為には、馬に仕事が必要。僕たちはアヤさんにその大前提を教え、馬たちにも認識してもらうようにしたんです」
 そう語るのは三浦のトレーナー、吉村さん。取材時は黒姫に滞在されていて、ホースロッジに戻った馬たちを馴らす手助けをしている最中だった。三浦では、どうすれば馬が人の言うことを心地良く聞いてくれるかなど、ワーキングホースとして活躍する為に必要なトレーニングを繰り返していたそうで、これからはその実践訓練を行うのだという。
 ホースロッジは、馬搬や馬耕など、今では廃れてしまった仕事の復興と、ホースサファリ、ホースセラピーといった馬と触れ合う機会の提供を目標に設立された。その中で、最も森の再生の近しい活動というのが、実際にアファンの森に入って、間伐した材を運ぶ馬搬である。この日はその仕事の様子を見せていただいた。
 馬搬とは、重機やトラックが入れないような森から、馬の力を借りて間伐材等を運び出す伝統的な輸送法。環境負荷がなく、里山保全にはとても有効だということで、ヨーロッパを中心に見直されている技術でもある。そもそも原野にいるはずの馬が森に馴れるのはそれなりに時間と努力が必要なので、そういった意味でも馬搬は森の仕事の入り口として重要であり、基礎的な練習にもなる。
 「馬搬は、歪な地形での体の動かし方や、荷物を運ぶ際の力加減などを理解する上で、とても良いトレーニングになります。今は森の整備、歩くことを繰り返し、いろんな経験をさせることで自信に変える『馴致』という作業をやっている段階です」
 20代前半のうら若き馬方・アヤさんも、馬方として馴致し、少しづつ自信をつけている様子だった。彼女は未経験のインターンとしてホースロッジで働き始めたが、馬が好きだしセンスもいいと、周囲からの期待も大きい。英国馬搬協会の現会長も女性ということもあり、女性の力でこの文化を守っていって欲しいねと、ニコルさんは笑顔で語っていた。
 麗らかな陽気の春。ホースロッジの活動も、少しずつ、そして確実に芽吹き始めている。

ホースロッジの家具の中には馬搬材で作られたモノも。日常的に使うことで、その尊さを再認識しているのだ。

力強くて癒し系のイケメン、茶々丸の額に桜の花がひらり。ホースセラピーの意味を実感した一コマ。

馬が荷を引くときは主に肩で支える為、「ハモ」と呼ばれる装具を装着する。今ではすんなり付けられるようになったが、アヤさんも始めは嫌がられて、なかなか装着できなかったという。

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