2018.05.18

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

C.W.ニコルさん#5『フクロウも住まう、豊かな森』

長野県黒姫高原を拠点に活動するナチュラリストのC.W.ニコルさん。彼が自然再生を目的として保全している「アファンの森」は、数十年かけ豊かな森となった。今回は森のシンボルとなったフクロウを通して、その活動を紹介しよう。

再生の森の頂点に君臨する、愛らしい長。

 植物が太陽に向かって枝を伸ばし、虫たちは忙しなく動き、野鳥がさえずる。ここは青々と緑が茂った夏の黒姫高原・アファンの森。前回はニコルさんが指揮をとる『アファン・ホースプロジェクト』にフォーカスして馬搬のトレーニングの模様をお届けしたが、今回の主役はフクロウ。この愛らしい猛禽は、実はアファンの森再生の象徴ともいうべき存在なのである。象徴というのはもちろん森のマスコットという意味でなく、しっかりとした裏付けがあってのこと。植物、動物、鳥、昆虫など、様々な観点からアファンの森を研究している6名の専門家も、生態系の頂点に君臨するフクロウを、豊かな森のキーマンとして認めているのだという。
 現在、アファンの森財団が保有する森の面積は34  (約10万4千坪)。昨年までのデータによると、その敷地内で90種類の鳥が確認された。この規模の森の中でいうと、生態系の頂点にはワシやタカ、フクロウ等の猛禽類が位置するそうで、その生息数が多いという事は、餌となる小型の哺乳類や、爬虫類、鳥類が多く住む豊かな森だという証拠。また、猛禽類は羽を広げると1m以上にもなるので、飛ぶためにはそれなりに開けた森でないといけない。ひいてはそれだけ明るい森だという事も言えるのである。
「環境省のある方が、アファンはどんな日本の国立公園よりも調査を行っていると仰っていました。私たちは、森がどう変わったか生物の声を聞いて森を見つめているのです」。とはニコルさん。
 アファンの森では研究者による調査結果を森づくりの指標としており、その経過も毎年発表している。調査した末、昨年より動植物の生息数が増える場合もあれば、減る場合もある。仮に森に棲む虫の種類が減った場合は、どの虫が何故いなくなったのか。その原因を明らかにすることで、森の再生に繋げていくのだという。つまるところ、調査をするのは人間であっても、森の良し悪しを評価するのは人間ではなく、あくまで森に住む生物なのだそう。

森を見守る人と動物。

明るく開けた森の一角。アファンの森には、フクロウの狩り場となるこのような場所もあれば、小動物が逃げ込めるようにわざと藪を茂らせている場所もある。バラエティに富んだ森は多くの命を支えているのだ。

 さて、話をフクロウに戻す。今ではすっかりアファンの森の象徴となったフクロウが森に住むようになるまでには16年の歳月を要したが、以降は今年までに30羽以上のフクロウのヒナの巣立ちが確認されている。それはめでたしめでたしなのだが、本来自然界では、木のうろ(木に出来た空洞)を利用して営巣をするところ、アファンの森で繁殖したのは、1回(3羽)を除き人間が設置してあげた巣箱に限られている。手入れを始めて31年、すっかり生物多様性の豊かな森になったアファンの森でも、フクロウが棲めるほどの大木が育っていないのが課題としてあるそう。森の再生は100年規模というのは大げさな話ではないのだ。
 昨今は大木が少なく、大型の猛禽にとっては住宅難の時代。彼らは営巣場所がないと最悪は地上に卵を生んでしまい、他の動物に襲われるリスクが大きくなってしまうという。
「理想としては、枝が折れて腐り落ちて出来たうろや、キツツキが穴を掘って、次にムササビが入って……と、段々広がっていったうろが自然界にあるのが理想なのですが。現実はうろが少ないので巣箱を設置せざるを得ないんです」
 アファンの森で生物調査を行っている川崎公夫さんは、人間が手を入れて森を壊すことに警鐘を鳴らすと共に、人間が森に手をいれ、動物を守る大切さを啓発している。
「ある程度人が手入れをした農耕地や薪炭林など開けた場所が狩りに適していたのでしょう、遠くない昔、フクロウは人の生活圏に近い里山で生活していました。アファンの森のように森林があって近くに畑もあるような変化に富んだ里山は、かつては普通にあったはずなんです」
 日本の絶滅危惧種の55%は里地里山に依存している動植物と言われている。人間と自然は支え合わなければならないという事実が、現実問題としてあるのだ。
 フクロウという愛らしい生き物から少々お利巧な話になってしまったが、アファンの森財団の皆さんがどんな想いで環境を整えているかご理解いただけただろうか。さて、そんなアファンの森だが、森の再生が進むにつれ、人間にとっても有益な場所となるようにと、森の活用にも目を向けているという。
「日本は、本当は世界で一番森と上手に付き合っていたのですが、いつからか間違った方向に行ってしまったんです。これだけ人口がいて、歴史があった国の面積7割が森林。長野にいたっては79%。これはすごい事ですよ。英国全体の森林面積はたった12%しかありません。これだけ恵まれているのに使わないのはおかしい! エコロジー(自然保護活動)とエコノミー(経済)は同じエコです。生きるという事ですから。私は森を大切にしながらも、人間の教育や癒しといった文化システムとして森を役立てていきたいと考えています」

1995年に設置して以来、修復しながらもかけ続けているフクロウの巣箱。

フクロウをはじめ、アファンの森で生物調査をしている川崎さん。2002年から15年間も森を見守り続けている。

サンショウから作られた、 爽やかなジン。

イオンワンパーセントクラブ共催で行っている「福島キッズ森もりプロジェクト」。心のケアを目的にアファンの森に子ども達を招待している。ニコルさんも到着した皆をお出迎え。

 そう語るニコルさんは、森の有益な利用を始めている。物理的な所でいうと、森の手入れの一つとして間伐を行っているのもエコの一つ。針葉樹だけが植えられた〝木の畑”としての森とは違い、環境のバランスを考えた混合林にしてきたからこそ、桜、檜、楢、胡桃などの素晴らしい家具材が間伐の副産物として得られるのである。
 また別の視点でいうと、森は精神的な恵みも与えてくれる。アファンの森では、自然の中で自由に遊んでもらおうと震災の被害を受けた福島の子どもたちを招待する活動も行っている。取材に伺った日はちょうど子どもたちが黒姫にやってきた日で、みんな夢中で遊びまわっていたのが印象的だった。
「今日はガイドの先生と子ども達、合わせて50人程が森に入っていますが、森は何ともありません。人間も動植物も、経験が刺激や癒しになるんです。人が入った事によって花が咲く場合もありますし、木が良く育つ場合だってあります。人も入るし、虫も跳んでいるし、クマも出る。これが我々の目指す里山の森です。生物の多様性と生産性、総合的なバランスが取れた森は、教育とレジャーと癒しが詰まったエコツーリズムの場として人間も利用することが出来ます。お金持ち100人が同じ考えで森を作ってくれれば、きっと日本は変わると思うんですけどね(笑)」

スパイスの一つとしてアファンの森の青山椒を使った『こころGIN』は、ウェールズに暮らすニコルさんの甥、ジェームズさんが蒸留しているお酒。「普通では考えられませんが、このジンは日本食にも合うんですよ」。

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