2018.10.10

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

とって食べる 「猪二郎をつくって食べる」

この連載「とって食べる。」は、毎回ワイルドライフ的料理ページでご好評いただいているが、今回はどうしても鋳物の家庭用製麺機が使いたくなって、ラーメン作りのページに相成った。え? とってないじゃないかって? まあまあ、細かいことは置いといて。さあ、ニンニク入れますか?

今回狙うのはこれだ!

イノシシ/
豚のご先祖様であるイノシシは、アジアからヨーロッパにかけて生息。本州、四国、九州、淡路島などにいるニホンイノシシは体長110~150cm、大きいものだと体重は100kgを超える。肉の味が濃く、特に分厚くついた脂肪は旨みの塊。猟師はシカとイノシシがいたら、迷わずイノシシを獲るというくらい、ジビエとしての人気が高い。

二郎風のラーメンをわざわざ野外で作る、"家二郎"ならぬ"外二郎"

 「ニンニク入れますか?」で有名なラーメン二郎をご存知だろうか。

 まだ食べたことのない人の中には、量が多いだけの店だと思っている方もいるだろう。ところがどっこい、ブタの旨味がたっぷりと溶けだしたしょっぱいスープ、ガッシリと噛みごたえのある極太麺、厚く切られた煮豚に富士山の如き野菜という奇跡の組み合わせは、ラーメンではなく二郎という食べ物なのだと語られる逸品であり、数多くのジロリアン(二郎マニア)を生み出してきたのである。

 世の中にはそんな二郎のラーメンに惚れこみ、わざわざ家で再現した「家二郎」を作るファンまで存在するのだが、実は私もその一人。ただし本物の二郎は今までに一度しか食べたことがなく、二郎を食べることよりも二郎っぽいラーメンを作ることに悦びを覚える、インスパイア系自作ファンだったりする。それは本当にファンなのかという自問自答はさておいて、そんな私が今回挑戦するのは、ブタの代わりに野生のイノシシの骨と肉を使って作る二郎風ジビエラーメンである。しかも家ではなくキャンプ場で作る「外二郎」だ。

イノシシの肉と骨を入手したのは、埼玉県飯能市の猟師工房。有害鳥獣を有益鳥獣に変える取り組みをしており、シカやイノシシの捕獲・販売だけでなく、解体を学べるワークショップなども開催中。

 店で食べれば数百円のラーメンを、何倍もの費用と膨大な手間を掛けてわざわざ野外で作るという無駄の極地、これぞ大人の遊びと言えるだろう。アドバイザーは、目黒の二郎に通うライトなジロリアンである編集部の鈴木氏にお願いしよう。

 まずは命ともいえるスープ作りだが、その手順は至ってシンプル。イノシシの骨をきれいに洗って血抜きをしたら、アクをとりながらじっくりと煮込み、そこにタコ糸で縛ったイノシシ肉、香味野菜と加えていくだけ。二郎らしさを出すためには、たっぷりの脂が不可欠なので、肉はなるべく脂肪の多い部位をセレクト。もし手に入れば背脂をたっぷりと追加したいところだ。

 スープに加えるタレは濃口醤油にみりんを少々加えてひと煮立ちさせたもの。ここに化学調味料をドサドサ入れると店の味に近づくが、今回はイノシシの味を楽しむために程々で。これにスープから取り出したイノシシ肉を漬け込んでメインの具とする。野菜は茹でたモヤシとキャベツ、そしてその辺でとってきたノビルを少々。

 "とって食べる"のがノビルだけでは寂しいので、もしかしたらと国産トリュフ(イボセイヨウショウロ)を探してみたものの空振り。豚の大好物だというトリュフだけに、もし見つかればイノシシスープと最高の組み合わせだったのだが。

二郎の薬味といえばニンニクが有名だが、今回はせっかくの野外料理ということで、現地調達したノビルも追加してみた。もし季節が春だったら、行者ニンニクを添えられれば最高だろう。

しっかりとタレが染みた煮豚ならぬ煮猪。二郎風にしてはかなり硬い仕上がりで、薄く切った方が断然食べやすいのだが、ここはあえてヴィジュアル重視の厚切りで攻めていこう。

やりたいからやる製粉機で粉を挽き製麺機で麺を打つ

 ラーメン二郎の麺といえば、パン用の小麦粉を使用した(という噂の)香りの強い極太低加水麺が特徴。さらに今回は野趣溢れるイノシシスープを使用ということで、ありきたりな麺ではまったくの力不足だろう。そこでわざわざ持参したのが、昭和の中頃に使われていたと思われる家庭用の製粉機と製麺機である。

 ヴィンテージというよりは古道具、骨董品という言葉の方が似合う無骨なこの機械達を、大自然の中で使える喜びに乾杯。正直に言えば、最近手に入れたこの製粉機にふさわしい料理を作りたくて、この企画が立ち上がったのだ。

 佐渡島を旅して手に入れた無農薬栽培の小麦を、手動の製粉機に流し入れ、力を込めてゴリゴリとハンドルを回す。この製粉機を調理に使うのは今回が初めてなのだが、「やってられるか!」というのが正直な感想である。小麦を挽く大変さも、粉をふるう面倒臭さも、まさに過酷の一言。

 ということで、力仕事はヤングな鈴木氏にお任せ。市販の真っ白い小麦粉に比べれば、ふすまの混ざった茶色っぽい小麦粉となったが、この風味の強さこそがイノシシで作る二郎風ラーメンにはふさわしいのだ。

手前が田中機械製作所の田中式製麺機、奥が小野機械製造所の小野式製麺機。昭和中期頃、おっきりこみの群馬や、ほうとうの山梨といった小麦粉食文化圏を中心に使われていた。

 ラーメンの麺は水にかんすいを加えて作られた中華麺であり、市販のかんすいは精製された炭酸トリウムや炭酸カリウムが主成分。今回は昔の沖縄そばの製法に習い、木灰を水と混ぜて、その上澄みで麺を作ってみることにチャレンジしたのだが、木灰がちっとも沈殿しない上、かんすいに必要な成分も溶け出してくれなかった。どうやら木灰を使ったかんすいは数日前から仕込まないといけなかったらしく、無理矢理濾して作った麺は、灰色をしたうどんとなった。

 こんなこともあろうかと市販のかんすいをちゃんと用意してきた自分を褒めてあげたい。その前に浅はかだった自分を叱らねばならぬのだが。そんなこんなで本来不要な苦労の積み重ねで特製麺が完成。その麺が茹ったところで鈴木氏から「ニンニク、ノビル、アブラ、野菜マシ、カラメ」とコールが掛かった。丼にスープとタレをかなりしょっぱめでブレンドして茹でた麺を加えたら、野菜を最大積載量まで搭載。厚切りのイノシシ肉、刻みノビル、茹で玉子をトッピング。ニンニクと脂身部分を振りかけて、最後に上からたっぷりとタレを掛けたら完成である。

 普通の二郎だったら外で作る必然性はまったくないが(それはそれでおもしろいが)、このイノシシ二郎は大空の下で作って、大地を感じながら食べてこその味だろう。猪を使ったラーメンなのに、なぜか馬と鹿が頭をよぎったのだった。

text:Yutaka Tamaoki / photo:Yoshiro Yamada

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