2018.06.20

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

ファナティックの究極の1台 ~レーシングE-TYPEの軌跡~

1961年のジュネーブショーにジャガーEタイプ・クーペが舞い降りた時、人々は滑らかなボディに見惚れ、同時にジャガーのル・マン・レーサーに思いを馳せた。生産車と同時に開発されたレーシングEタイプは今なおファナティックの究極の1台であり続けている。

ワイン界のヴィンテージに倣えば、それは良いブドウが採れた年ということになる

E2A/ジャガーEタイプ誕生の礎であり、1960年のル・マン24時間レースで305km/hの最高速を記録したE2A。白地にネイビーのストライプが入れられたカラーリングはこのクルマをル・マンに持ち込んだブリッグス・カニンガム・チームのもの。製作されたE2Aはもちろんこの1台のみだが、現在でも多くのヒストリックカー・イベントに顔を出すジ・オリジンである。

 自動車の世界は、作られた年代によって「ヴィンテージ」や「クラシック」といった杓子定規的カテゴライズが存在しているが、ワイン界のヴィンテージに倣うならば、それは良いブドウが採れた年ということになる。

 ではここ1世紀と少しあまりの自動車の歴史において、ワイン的「ヴィンテージ」はいつなのか? その答えには諸説あるだろうが、ことイギリスを例にとるならば、スウィンギング・ロンドン、’60sを真っ先に挙げない御仁はいるまい。あらゆる工業製品の例に洩れず、自動車は生産国の気候風土や地勢、民族性のみならず、景気や経済や流行を強く反映したものだからである。’60sのイギリスには「ヴィンテージ」を育む土壌が確かにあったのである。

 1961年に誕生したジャガーの2ドア・スポーツカーであるEタイプは、’60sを代表するイギリス車といえる。今なお少しも古さを感じさせないその流麗なボディは、往時にはまるで宇宙船を思い起こさせたという銘車である。

49FXN/往時にジェントルマン・レーサー(ハイアマチュア)として知られたピーター・サージェントとピーター・ラムズデンのペアが走らせたライトウェイトEタイプ"49FXN"。軽いクラッシュを契機にしてボディをより空気抵抗の少ない"ロードラッグ・クーペ"に作り変えたことで有名な個体である。ボディの改良はサミール・クラッツ博士が、ボディ全体に毛糸を貼り付けて行なったという逸話が残る。

 Eタイプのデビューは1961年。まさに戦後の復興を急激に成し遂げた’50年代に培った技術と勢いが結実した時だった。イギリスという国はとかく"伝統的"とか時に"保守的"というように形容されることが多いが、これは半分しか当たっていない。

 築200~300年という比較的新しい(!)家屋のレンガひとつ替えてはいけないという、我が国では信じられないような厳しい法律を遵守する国民であるが故に、その対極として、既存の何かを壊して革新的なものを作り上げる、といった考え方は常に彼らの心の内に宿っているのである。

 ロールス・ロイス、ベントレー、アストン・マーティンなどの歴史と伝統ある貴族的な自動車メーカーに追いつけ、追い越せとばかりに誕生したジャガー(アメリカ豹の意)なるメーカーなど、存在自体が革新的だったのである。

 ジャガーEタイプを例に取れば、かのジェームス・ボンド海軍中佐が好んで乗ったアストン・マーティンよりもはるかにスタイリッシュで、しかし価格はハーフプライスといった具合だったのである。そんな彼等は、Eタイプの精神的前身となるレーシングカー、CタイプとDタイプでル・マン24時間レースを制し、スタイリッシュで安いだけではないことを証明したばかり。多くのファンが、このスタイリッシュなEタイプにもスピードの証明を求めたのは、必然だったといえるだろう。

 自動車の世界には、生産型の前の試作車の存在が珍しくない。Eタイプの場合はE1A、E2Aと呼ばれる2台のプロトタイプが有名で、E2Aは実際に熱心なレーシングカー・チーム・オーナーの目にとまり、ル・マンに駆り出されている。

 かつてル・マンを制したDタイプと同じくフロント・ガラスより前がクローム・モリブデン鋼管によるチューブラーフレームで、それより後ろがモノコック・シェルというレーシーなスペックを誇るE2Aは、ル・マンの有名なユーノディエールのストレートで、あっさりと305km/hの最高速を記録して見せたのだった。

 デビュー以前から、すでにル・マンに"ちょっかい"を出していたEタイプは、デビュー後すぐに多くのプライベーターたちによってサーキットへ持ち込まれることになる。ジャガー・ディーラーのジョン・クームズ、ジャガーで熱心にレースを戦ってきたディック・プロテローなど錚々たる面々である。

スタイル、ポテンシャル、ヒストリー、全てが揃った自動車世界のヴィンテージ。

4WPD/ロンドンの南西、ギルフォードでジャガーの販売店を営んでいたジョン・クームズの元にデリバリーされた生産型初期のEタイプ"4WPD"。元々鉄モノコックだったこのクルマがベースとなって、総アルミ製の軽量なライトウェイトEタイプが誕生した。ロイ・サルヴァドーリなど当代一流のドライバーによって幾多の勝利を重ね、今なおヒストリックカーレースで現役を続行している。

 実際に、Eタイプの初レースを経験した翌日の新聞の見出しは"新型ジャガーが、ダブルプライスのスペシャル・アストンを破った!"というものだった。これでジャガー本社としても引っ込みがつかなくなったのか、そこからEタイプはさらなるスピードを追求していくことになる。

 そう、有名な"ライトウェイトEタイプ"の登場である。有力なレーサー、チームだけにデリバリーされることになったスペシャルEタイプは、ル・マンカー譲りのハイパワーなストレート6エンジンはもちろんだが、それだけでは飽きたらず、元来スチールでできていたモノコック・シェルを全てアルミニウムで作り直すという、当時のレーシング界の常識をも覆すような、なりふり構わぬ荒業が特に有名である。

 本来、自動車メーカーのレース活動というものは、生産車を売るための宣伝活動に過ぎない。しかしジャガーEタイプの場合は先にレーシングありきという熱い血統が、レーサーたちの気持ちを昂ぶらせたというのが本当のところだろう。スタイル、ポテンシャル、そしてヒストリー、三拍子全てが揃った自動車世界のヴィンテージ。21世紀以降、その価格は上昇の一途を辿っている。だがそれこそ世のエンスージァストたちがEタイプに与えた絶対的な評価なのだから、それも頷ける話である。

Photo:JAGUAR LAND ROVER

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