2018.07.26

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

ロンドンが美しくなる日。「THE TWEED RUN LONDON」

「世界一おしゃれな自転車イベント」と呼ばれるツイードラン。世界中で開かれているが、その本家本元ロンドン版はやっぱり本格的だ。第8回のレポートをお届けする。

時代劇撮影のエキストラ?

「タリー・ホー!」「ジョリー・グッド!」「ピップピップ、オールドチャップ!」

 ふだんのロンドンでは聞き慣れない挨拶や単語が飛び交う。英国上流階級の時代がかった話し方で、日本語で近い言い回しを探すのは難しいが、「〜にて候」「〜でござる」など大河ドラマの台詞の雰囲気を思ってもらえれば近いだろうか。

 ちなみにそれぞれ「それ行け!」「すばらしい!」「ではごきげんよう!」といった意味である。上流階級の男たちが領地を見回ったりハンティングなどをするときのいわばスポーツウエアだったツイードでしっかり装った人たちがロンドンの街角に溢れ、パイプをくゆらせながらこういった台詞をわざとらしく掛け合って楽しんでいるのを見ると、ああ今年も「THE TWEED RUN LONDON(ツイードラン)」がやってきたと感じる。

 いまや世界何十都市にも広がっているツイードランだが、本家ロンドン版は、2009年に始まったとされている。ロンドンの自転車掲示板の住人たちが、注目され始めていたヴィンテージバイクに昔風の出で立ちで集まり、フラッシュモブ的にロンドン都心を練り走ったのがその始まりらしい。ロンドンの重厚な街並みに似合う時代映画の撮影のような集団に、ロンドンは狂喜した。

ツイードをモダンに着こなしている、小物が特におしゃれだと思ったら、「Standout London」という紳士用アクセサリーショップの人たちだった。

タンデムバイクでマーシャルを努めていたカップル。シートポストにテープを巻くことでお手軽にヴィンテージ感を醸しているのがうまい。

時代がツイードランに追いついてきた

ツイードランでは古い自転車での参加を推奨しているものの、厳しい決まりはない。ブロンプトンはツイードランによく似合う。

 日本やアメリカで開かれているツイードランも楽しそうでよいのだが、さすがツイードの本場は違うと唸らされるのは、やはり男性たちの着こなしだ。

 イギリス人家庭のタンスには、たいていは父親や祖父のツイードかそれもどきのジャケットが眠っている。日本の家庭なら着物や浴衣の1〜2枚は必ずあるようなものだ。中古品を扱うチャリティショップなどで昔の紳士の必需品だった帽子やアクセサリーを見繕えば、それなりに格好良く仕上がってしまう。 

 女性も負けてはいない。コルセット入りスカートにヴィクトリアンなシャツ、盛りに盛ったヘアスタイルに真っ赤な口紅など、さすがはコスプレ好きな英国だと唸らされる。この数年とくに若い世代に人気になっているヴィンテージ・ファッションやピプスター、バーレスクといった流行とも重なっている。時代がツイードランに追いついてきているのだ。

新しめの自転車で参加する人が多いとはいえ、本格的なヴィンテージ自転車で参加している人も少なくない。写真中央の男性が乗っているのは、アイヴァー・ジョンソンが制作したトラスブリッジ式フレーム車かその後に制作されたもので、第一次大戦前のものだろう。

途中の公園で自転車を降りて休憩。おそろいのベレー帽と首から下げたカメラがかわいらしい女性参加者。今年はとくに女性参加者が多くなった印象がある。紅茶がちゃんとヴィンテージなカップでふるまわれ、好きな絵柄を選べるのも気が利いている。

思い思いの工夫が楽しい

この男性が履いているのが、プラスフォーズ、プラスツーズと呼ばれる膝下までのトラウザーズ。19世紀後半からツイードなどで作られ、ゴルフやサイクリングなどのスポーツウエアだった。

ツイードランをさらに華やかにしてくれているのが前輪の大きなオーディナリー(英国ではペニー・ファージングという愛称)乗りの皆さん。その乗り降りの様子は見事なもの。

ツイードとヒゲはセットで

自転車好きなどちょっとオルタナティブな男子の間では、この数年ヒゲが大流行中。

参加者の年齢の幅が広いのもツイードランの特徴。左奥のクルーザーの女性も素敵だ。

タンデムも様になる

けっこう多いのがタンデムでの参加。もちろんロンドンではタンデム禁止のようなことはない。

拍手をしてくれたり喜ぶギャラリーに、帽子をとって優雅に一礼。なんともカッコいい!

ロンドンならではの洒落者たち

ツイードはもともと田舎で猟や釣りなどスポーツをするときのために生まれた布地なので、自転車にも似合う。

 その声援に、年配の参加者がジェントルマンらしく「自転車の上から失礼!」と言って帽子をとって優雅に一礼する。こういうユーモアがイギリス人は本当に上手だ。

 リージェント・ストリート、オックスフォード・ストリートなどロンドンの中でも1900年前後の面影を濃く残すエリアをゆっくりと練り走り、最後は公園でふるまわれる紅茶とサンドイッチのハイティーでピクニックとなる。

 すばらしいのは、これだけ有名で大規模になっても参加費もあまりかからず(前年は抽選の申し込みに£1だった)、いかにも同好の士が集まって自然にマスライドを楽しんでいることだろう。先導車も警察の誘導もなく、街行く人も喜び、ロンドンの魅力アップにつながっている。スケジュールは毎年5月に予定されていて、抽選申し込みも毎年3月中旬となる。

100年前の服装が男性に比べて大きく変化した女性は、レトロをテーマにしたフリースタイルの人が多い。

毎年チケットは即日完売

二人乗り、三人乗りの自転車で参加する人も珍しくない。イギリスではタンデム車はどこでも乗れるので、ふだんから家族やカップルで利用している人が多い。子どもたちも楽しそう。

 8回目の今年はついに700人近くになったツイードランだが、人気はますます高まっている。今年もチケットは即完売だったし、休暇をとってきたというヨーロッパからの人も多かった。女性参加者がさらに増えたのも印象的だ。

 規模が大きくなり、主催者もいまやイベント会社になったが、いまでも集団を安全に誘導するマーシャルは、ツイードランを始めた自転車掲示板のユーザーである地元サイクリストたちがボランティアで請け負っている。ツイードランを自分たちで楽しみ、ロンドンの歴史や文化を豊かにするイベントとしてプライドを持って運営している姿勢には頭が下がる。

 次年の開催予定等、詳細はオフィシャルサイトにて発表される。

集まる人々の、とくに男性たちの思い思いに身に着けてくるおしゃれの幅広さ、カラフルさにはまさに「脱帽」。「世界で一番おしゃれな自転車イベント」というキャッチフレーズは真実だ。

カクテルグラス、サンドイッチを作るためのまな板まで持ち込んでのピクニック。芝生の上でのピクニックは、イギリスの国民的趣味と言っても過言ではない。

Text:Yoko Aoki

http://tweedrun.com/

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