2018.06.18

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

緑多きロンドン郊外に佇む、アールデコ調のヴィンテージカー・ショールーム

ダニエル・ドノヴァン氏、こだわりの店

1938 Jaguar SS100 FHC Prototype/1938年にロンドンで開かれたモーターショウでお披露目されたプロトタイプ。残念ながら発売されることはなく、世界にこの1台しか存在しない。当時としては革新的なスタイルで、10年後に登場するXK120が生まれるきっかけを作った。内外装オリジナルの極上コンディションで、ペブルビーチでも優勝を狙えるとドノヴァンさんは太鼓判を押す。価格は要問合。

 キューガーデンと言えば、イギリス好き・ガーデニング好きの日本人、特に女性ならその名前を聞いただけで胸をキューッとときめかせる(失礼!)、ロンドン郊外の裕福なエリアだ。緑の多いこの閑静な住宅街の駅からほど近い場所に、DDクラシックスのショールームはある。

 ショールームの前には、すでにランボルギーニ・エスパーダがいかにもさりげない感じで駐まっている。さらに近づいてアールデコ調のモダンなファサードから中を覗きこんで、思わずため息を漏らしてしまった。写真でしか見たことのないような名車旧車がキラキラとオーラを放っているのだ。中に入って至近距離で確認しても、とにかく程度がよくて美しいものばかり。クルマとはこうもきれいなものなのかとあらためて感じ入ってしまう。

 DDクラシックスのオーナー、ダニエル・ドノヴァンさんはこの道40年のキャリアを持つ、ロンドンのヴィンテージカー界の有名人である。それほどお年には見えないのに40年?と思うが、父親がこのビジネスをしていたので、子どもの頃からクルマの買い付けについていったりしているうちにこの道に入ったからだという。18歳のときにすでにジャガー・マーク2などを買い付けていた。

 70年代、80年代……と現在までの間に石油危機がありニクソン・ショックがあり、ドル安だのユーロ導入だの新興国の興隆だの、景気の波や経済環境の変化を乗り越えてこられたのは、その時々の情勢を読んで、輸出を多くしたり輸入を多くしたり新興国の市場を開拓したり、臨機応変に対応してきたからだという。

 以前は「ストレート・エイト(直列8気筒)」というベントレーやロールス・ロイスなどのスペシャルショップを経営していたが、いまの世界経済を読んでより広いショールーム移動、勝負に出ているようだ。直近はアメリカや香港、シンガポールからの引き合いが多いという。日本も相変わらずいいお客だが、急激な円安もあってか、取引の数は急降下しているそうだ。世界経済を肌で感じる瞬間である。

1939 Bentley MX Series/「え、エンブリコがここにあるの!?」と目を疑ったあなたはベントレー通。ギリシャの海運王エンブリコが特注した伝説の世界最速スポーツカーを、同じ排気量で1年違いのベントレーをベースに、イギリスの名ボディビルダー、ベン・ピーターゼンが完璧にコピーしたボディを載せたもの。レプリカとは呼べない完成度で、4年もの時間を要したという。価格は要問合。

アールデコ様式が似合う店

ロンドンの西の郊外、観光名所でもあるキューガーデンにほど近い場所にあるDDクラシックス。長らく空き店舗だった建物を、往時のアールデコ様式でリノベーションした。

1959 Bentley S1 H.J. Mulliner 2Dr Continental/ミュリナーによる特殊なリアウィングを持った2ドアコンチネンタル。ミッドナイトブルーのボディに栄える赤いウエストラインは、再塗装の際、英国にもたったひとりしかいない、王室の馬車の彩色も手がける職人が入れたもの。インテリアはオリジナル。価格は要問合。

1961 Aston Martin DB4 Zagato Recreation/人類史上最も美しいクルマのひとつ、DB4ザガート。本物はわずか19台という生産数から、現在の価格は2桁億円台とか……それに比べればこのDBS6のシャシーにアストン社公認のコーチビルダーが本物と寸分違わぬボディを架けた「リクリエーション」はだいぶお手頃価格だ。価格は要問合。

極上ラゴンダ、一台いかが?

1982 Aston Martin Lagonda/コンサバな(良識的な?)クラシックカー・ファンがギャッと叫ぶ声が聞こえるようだが、ここはぐっとこらえてよく見ていただきたい。1970年代が夢見たフューチャリスティックな直線とウェッジのデザイン、コンピューター制御の斬新なインパネまわり、1本柱のステアリングホイール。時速230kmでも書斎に座っているかのような静けさ。時間をおいた今だからこそ楽しめるのではないだろうか。売約済。

英国ならではのラインナップ

1974 Triumph TR6 Roadster/イギリスのライトウェイト・スポーツカーを語る上で欠かすことのできないトライアンフ。独立懸架サスペンションが画期的だったTR4のフロントマスクを一新しつつ、6気筒化した。この個体は走行わずか4,300kmの、タイムマシンに乗ってやってきた奇跡の1台!

 このDDクラシックでは、ストレート・エイトのときのように専門性を高めるよりも、珍しいものも含めて幅広いクルマを扱うことにしているという。もともとドノヴァンさんは30〜50年代のロールスやベントレーなどコーチビルダー系のクルマが好きで、しかもそのフィクスト・ヘッド・クーペなど数が少なくヒネリがあるもの目がないとか。エキゾチックなクルマにも積極的だ。

 そしてここでの経営ポリシーは「すぐに乗れるクルマ」である。オリジナルペイントの個体も程度極上のものは扱うが、基本的にはフルレストアやリビルドをかけたものが中心だ。「ただのレストアでなく、最高レベルのレストアですから」とドノヴァンさんは念を押す。厳しい人はコピーとして眉をひそめる「リクリエーション」のものも、クルマとしての中身がよければアリだと考えている。

1970 Citroën DS 21 Pallas EFI/DSの最上級グレード、パラスのフュエルインジェクション仕様でエアコン付きの希少車。内外装ともにこれ以上はないというほどの程度のよさでスタッフも驚いたという逸話付き。パラスにのみ設定があったオリジナルのワインレッドのベロア内装はうっとりものだ。

フランス車が多いもの魅力

キャリア40年。子どもの頃カーディーラーだった父のクルマの買い付けについていき、そのままこの商売に飛び込んだというドノヴァン氏。

 そんなドノヴァンさん自身の所有車はどんなクルマなのだろう?

「しばらく自分が乗って調子を確かめてから販売することも多いので、これだけが愛車というほど顔ぶれが固定しているわけではないのですが……」

と前置きをした上で出てきた名前は、アストンマーチン・V8ヴァンテージ、プジョー504 V6カブリオレ、シトロエンDSサファリ、アルヴィス TE21グレイバーの4台だった。英仏2カ国だけとはいえ、なんともエクレクティックな組み合わせだ。

 もっとも、これだけ共通点が見出しにくい幅の広いチョイスをする人だからこそ、DDクラシックスの魅力も増しているのかもしれない。最近は中国やアラブ諸国からの注文が増えているという。為替相場もどうもきな臭い昨今だが、これからも時代の波を泳ぎきっていきそうなドノヴァンさんである。

1966 Ferrari 330 GTC/「Blue Sera(夜の青)」という名のメタリックブルーにベージュの内装、ワイヤーホイールがスポーティかつエレガントな330GTC。近年にエンジンのリビルドとギアボックスのオーバーホールを受けている。フェラーリ・クラシケ登録申請中。価格は要問合。

text:Yoko Aoki

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