2018.06.13

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

ヴィンテージ・モーターサイクルの祭典「BANBURY RUN」

1915年から1930年の間に生産された「ヴィンテージ」モーターサイクルが、このバンバリー・ランの主役。初夏のイギリスを舞台に、500台もの希少なモーターサイクルが一同に介する。

ライドアウトには思いがけないドラマも

ニューインペリアルを駆る紳士二人が、カントリーサイドからのライドより会場に戻った際に、はちきれんばかりの笑顔で握手を交わしていた。2台はレザーのベルトで繋がっており、途中から一台が牽引してこのライドを無事に走り切ったと興奮気味に話してくれた。この2台はそれぞれ1915年製と1922年製であり、アーリー・ヴィンテージに区分される。ディアストーカー・ヘルメットに、ニッカーボッカーズが良く似合う。

 ヴィンテージ・モーターサイクルを愛する人々にとって、毎年6月に行われる「バンバリーラン」は、年に一度の晴れ舞台として心待ちにしている一大イベントだ。イングランド中部、ウォリックシャー州のゲイドンという小さな街にある「ブリティッシュ・モーター・ミュージアム」。その敷地に500台ものヴィンテージ・モーターサイクルが所狭しと並べられる。毎年あっという間にエントリーのリミット数に達してしまうという、まさに名物イベントであり、今回で67回目を数える歴史ある催しだ。

 当日の早朝、ロンドンからM40を北上していくと、ヴィンテージバイクを積んだトレーラーを引く車を数台追い越す。その姿を目にするだけでも、バンバリーランへの期待に胸が弾むが、しばらくすると前方をクラシックバイクが走っていることに気が付いた。ジワジワとその距離を縮め、斜め後ろから確認してみると、何と戦前のブラフ・シューペリアではないか!スムースさに定評のあるサイドバルブエンジンを積んだモデルSS80だ。ブラフで気軽に高速道路を走行している姿を目の当たりにする、というレアな経験に興奮しながらゲイドンへと向かった。

 バンバリーランの会場では、出走の番号順にマシンが整然と並べられている。会場で購入できるプログラムには参加者一覧と共に、エントラントからの一言も添えられており、マシンの説明やイングリッシュ・ジョークが散りばめられている。ざっと見た限りでは、今回は国外からの参加者は見受けられなかったが、中にはマン島からのエントラントの姿も見られた。80代の老紳士方も参加しており、高齢のオーナーのマシンを同じ地域の仲間が手分けして走らせることでコンディションを維持している、という話も耳にした。

戦前車には、トラディショナルな装いが良く似合う

1924年製のダグラス Model TS 350ccのオーナーは、毎回バイクを押してサンライジング・ヒルを登っていた。しかし今年は新しいピストンリングに交換したエンジンで挑戦。「去年よりも押す距離を縮められるかも、25mくらいはね」と笑う。

サンビームは「クラシックバイク」という高年式のカテゴリーの中では、シャフトドライブのマシン「S7」などが代表的だが、戦前はもっとスポーティな印象が強かった。このModel 9は初めてサドルタンクが採用されたと言われる1928年製。

1928 Sunbeam Model 2 Sport 350cc/この「ビーム」(サンビームの愛称)のオーナー、ケイター氏は愛車に合わせて戦前のレーサー達が着用していたレザージャケットを自身で復刻させている。まだジッパーが普及する以前のもので、ダブル・ブレステッドのボタン仕様が代表的なディティール。ゴーグル姿も堂に入っている。

1925 Norton Model 18 500cc/ため息の出るほど美しいコンディション。初期のModel 18を操るヘクシャー氏は、オークション・カンパニー「ボナムズ」のヴィンテージ・モーターサイクルのコンサルタント。20年以上このマシンを愛用し、その間に1万マイル以上を走破しているという生粋のモーターサイクリスト。

一台一台に、語られるヒストリー

1929 Velocette KNSS 350cc/タンクのロゴに配された「TT Winner」の文字が誇らしげなOHCエンジンのベロセット。頭文字の「K」はカムシャフト、SSはスーパー・スポーツとされる。このKシリーズには若干の違いにより幾つかのバリエーションがあり、「N」はビッグエントとコンロッドが改良されたものに与えられたそうだ。

1923 DOT Blackburne 350cc/佇まいの美しいこのDOTは、ブラックバーン製のサイドバルブエンジンを抱く。当時はエンジンを含む、他社製のコンポーネンツを組み合わせる手法も一般的だった。1903年に創業したDOTは、1930年代にモーターサイクルの製造を中止したが、後に復活しトライアルやスクランブルでも人気を博した。

特別な思いを胸に、根気良く付き合う

1929 Royal Enfield Model CO 350cc/この戦前マシンは、ある時代のオーナー好みにペイントされたのだろう。レストアを施しカタログのスペックに戻してしまうのではなく、キャラクターとして敢えて残されている。このモデルは、後にミリタリー用としてもアップデート版が開発され、息の長いモデルだったようだ。

1930 BSA Sloper 500cc/大きく傾いたOHVエンジンが特徴のBSA スローパー。オーナーはこのマシンでバンバリーランにエントリーし続け、今回が16回目だという。1927年に登場し、スムースな乗り味が好評を博したモデルで、29年からはこの当時に主流であったツインポートへとアップデートされた。タイミングカバーの形状も、BSAらしさを感じる。

BSA スローパーのエンジンをこの角度から見ると、そのスリムさが良く分かる。ちなみにボアxストロークは80x98mm。2本のエキゾーストパイプとフレームのクリアランスが絶妙だ。丁度隠れているが、バルブスプリングは剥き出し。

タンクの中にはガソリンとオイルが別々に。そのペイントワークもさることながら、ハンドル周りの造形も美しい。イギリスの「ボニクセン」製のスピードメーターは垂涎の一品。2本の針が交互に目盛りを指すという不思議な動きが魅力的だ。

歴史ある街並みの中を、存分に駆ける

BSAのラウンドタンクは一目でそれと分かるキャラクターを持ち、当時のモーターサイクル初心者にも支持された250ccのモデル。前輪にはブレーキを装備せず、後輪ブレーキを右手と、右足で操作するという。

カントリーサイドを快活に走るベテランマシン。一年を通じ両手で事足りる程の回数しか走らせない、というオーナーもいるだろうが、道半ばで止まってしまうマシンは一割にも満たなかった。

モーターサイクルの輝かしい進歩と出会う

アリエルの名車「レッドハンター」や「スクエアフォー」が誕生する数年前のマシン。こちらのOHVエンジンのModel Fは、様々なメーカーで活躍したエンジニア、バレンタイン・ペイジが設計。

 そうこうしているうちに午前10時となり、エントラントは淡々とラリーへと出発していく。500台のヴィンテージマシンのスタートを見届けた後は、会場で併催されているオートジャンブルでの宝探しに精を出す見学者も多い。このバンバリーランには、戦前マシンの愛好家が集うため、出品されるアイテムも自ずとその年代のものがメインとなる。イギリスの古いバイクのパーツは、リプロも多く比較的手に入りやすいが、戦前車になると話は別だ。藁をも掴む思いで、たったひとつのパーツを求めて各地のジャンブルへ足繁く通い、来たるべき奇跡的な出会いを待つ人々は少なくないのだ。インターネットが普及する以前であれば、そのパーツ探しの難度は格段に高かったことだろう。
 このバンバリーランで毎年500台の参加枠が容易く埋まるということは、イギリス全土には一体どれだけの数のヴィンテージバイクが現存するのだろうか。イギリス人の「旧いものを大切にする」という気質がどこから来たのか、ということをつとに考えさせられる一日だった。

AJSのビッグポートより、アップデートされたOHCエンジンが与えられた1929年製のM7。このマシンの最初のオーナーであり、レーサーでもあった人物の戦績が、プレートに誇らしげに書かれている。

バンバリーを目標に、次なる愛機を仕上げる

1930 Dunelt‘S’Riviera 500cc/ブラックとペールグリーンのコンビネーションが美しいドネルト。レストアされたばかりで、77年ぶりに息を吹き返したという。一風変わったメーカー名は2人の創業者の名前から生まれた造語。世界大恐慌の煽りを受け、その翌年にバーミンガムの工場が閉鎖される直前に生まれた一台。

1928 Scott TT 498cc/目を引くマゼンタの水冷のシリンダー。その金属面が透ける半透明な仕上げをはじめ、マシンのレイアウトもユニークなスコット。体を突き抜けるような2ストのサウンドとバイブレーションに病み付きになるエンスージアストも多い。このモーターサイクルは1928年にマン島のTTにエントリーされたワークスマシンだという希少車。

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