2018.06.12

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

幻のブランド「Merz b. Schwanen」復活の秘話

ドイツ南西部に構える生地工場の様子。1920~60年代に製造された丸編み機をメンテナンスしながらゆっくりと生地ができていく。

ドイツの老舗カットソーブランド「Merz b. Schwanen」ディレクターに訊く。

 1911年、ベルチャザル・メルツによって設立されたカットソーメーカー『メルツ・ベー・シュバーネン』。
 ドイツ・シュヴァーベン州を含むドイツ南西部では、19世紀半ばごろから農耕にとって代わる産業を生み出そうと政府が介入し、農家に手編みの機械を提供。以来ニットの産地として栄えたという。その大きな流れの中で発足したメルツは、それまで一般的であったリネンよりも着心地が良くて柔らかい、コットン製のアンダーウェアを主力商品として長年製造を続け、人々に親しまれていた。しかし、吊り編み機でゆっくりと編まれ手間をかけて作られたメルツのカットソーは、安価な大量生産品人があふれる時代の波に押され、長い歴史に幕を下ろすこととなった。
 しかし時代が変わっても、メルツのカットソーが良質であったという事実は変わらない。テーラーでありフリーランスのデザイナーであるピーター氏は、幻のブランドと化していたメルツの意志とモノづくりと引継ぎ、現代に製品を送り出している。今回はピーター氏に話を伺い、”今”のメルツについてお話を伺った。

ブランドを再興させた立役者であるディレクター、ピーター・プロトニッキ氏。

―――デザイナーのピーターさんはどうやって終了していた、“メルツ”と出会ったのですか?

2010年、ベルリンのフリーマーケットでヴィンテージのヘンリーネックシャツを見つけました。ブランド名も書かれていないので、そのお店の人に聞いてはじめてメルツ・ベー・シュバーネンの存在を知りました(ブランドがピーター氏に引き継がれる以前、メルツの製品にはブランドタグがなかった)。その後よく調べてみると、メルツの歴史は長くとても優れたカットソーを作っていたものの、ブランド自体の認知度はなくその歴史は途絶えてしまったという事がわかりました。遥か昔にはコットン100%は安価で良かったのですが、現代では安くて丈夫な化繊があり、コットンはけして経済的なものではなくなってきましたのもあるのでしょう。しかし、実際にメルツのカットソーを着てみると着心地も雰囲気も素晴らしかったので、私は購入した店の彼に連絡を取ってメルツ復活に向けて動き始めたのです。

―――時代背景もあって、もっと安価な大量生産品に押されて休止していたブランドという事ですが、ピーターさんが復活に向けて変えたことは何かありますか?

一度休止していたものをリブランディングするというよりも、改めてモノにフォーカスを当て、吊り編み機を使う工場と協力して当時と同じような手間をかけてモノづくりをする事に注力しました。今の時代でこのモノがあれば、必ず欲しがる人がいると思ったのです。それから創業ファミリーと連絡を取って名前を使わせてもらう許可をいただき、当時の資料やアーカイブをもとにして生産、パターンを起こして2011年にメルツが復活しました。

―――メルツのオーナー一家がブランド再開の許可をしてくれたのには、どんな理由があったのでしょうか?

第一に、ブランドが終わっていて生産できていなかったけれども、製品に共感してくれる人がいて、その意思を継いでくれるのは嬉しいと思ってくれたようです。また、私自身がメンズのテーラリングからファッションの世界に入って、スポーツファッションのジャンルでデザイナーとして様々なブランドと関わってきたという実績も、かってくれたのだと思います。

デイリーウェアとしてのカットソー

―――ブランド復活に際しての生産のこだわりは。

ただ幻のブランドを復活したという事実だけでなく、モノとしても以前のように手間をかけた製品であるべきだと考えています。流石に当時の自社工場を復活とはいきませんが、同じ吊り編み機を使用している工場で生地を編み、職人の手によって生産しています。

―――ドイツには有名なモードブランドもありますが、トラディショナルなブランドも多いと感じます。ピーター氏も含め、伝統を重んじるのはドイツの国民性なのでしょうか。

たしかにドイツ人は簡単に流されるような国民ではないですね、ファッションも含めて。色んなものがある中で、堅いモノづくりが多いんですね。メルツは100年以上のブランドなので、過去の資料を紐解いて、素晴らしいディティールを継承しています。しかし一方で、思想を受け継ぎながらも、現代の技術があるからできる”メルツらしい”製品を生み出すことも重要だとも考えています。

―――メルツのカットソーやスウェットシャツはアメリカのアスレチックウェアとしてのスウェットとは違い、繊細で柔らかい感じがしますが、製品づくりで何か心がけていることはあるのでしょうか。

アメリカンなヘヴィーオンスの製品は、基本的にはトップス・アウターとしての使用を考えたもので、しかも乾燥機に入れたり、ハードに着られることを念頭に作られていますが、メルツはそのようなアスレチックウェアというよりもベーシックウェアを目指しています。日常生活で気軽に着てもらえるのが一番です。日本やアメリカで吊り編み機のスウェットと言えば分厚いイメージがありますが、メルツで使う機械は種類が違い、針のピッチが細かく、細い糸で編み上げるので、柔らかいヨーロッパ風な風合いにしあげることができるのです。また、肌に負担がかからないようにケミカルな加工を一切行っていないのもこだわりですね。

上から、クルーネックスウェット¥23,760、ヘンリーネックTシャツ¥12,960、ロゴプリントTシャツ¥●●●、ソックス 各¥4,968

現代だからできるメルツのモノづくり

―――昔の技術を今に再現するという事は、技術者の人材的な問題や、機械のメンテナンス、素材の違いという面でも苦労が多そうですね。

そうですね。特に生地を作る工程が大変です。昔ながらの吊り編み機を使うのですが、やはり正確に動かすのには経験が必要です。熟練の職人が機械を操っていますが、品質を安定させるためにコンピューターで分析することによって振動を見て調整をしています。

―――職人の経験もありつつ、製造工程でも今の技術を取り入れているのですね。同様に製品に関しても新しい取り組みを行っていますか?

ブランドを再生する上で一番の改革はパターンを現代的にした事です。縫製やディティールなどはそのままに、着た時に美しいシルエットとなり、かつ動きやすいように調整しています。また、基本的に、コレクションの7割程度をそのようなベーシックアイテムとしていますが、一部はブランドのあり方を残しながらも、シーズナブルで新しいも展開し始めました。例えば2018年春夏からは、初となるメルツのロゴをハンドステンシルしたカットソーも展開。バンブー混の生地やウール混の生地のアイテムもリリースしました。

――最後に、ピーターさんはどのようにメルツを着こなしてほしいと考えているのでしょうか。

メルツはトラディッショナルでダンディなブランドを扱っているお店からコムデギャルソンのようなモードなお店まで、ボーダーレスに販売されています。メルツは決して主張の激しい、うるさい洋服ではありません。どんなパーソナリティーにも合わせられる、モノとしてベーシックだというのが良いところなので、あなたの個性に合わせて着て欲しいですね。

【商品のお問合せ】
アウターリミッツ
Tel.03-5413-6951
http://www.outerlimits.co.jp/

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