2018.07.24

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

路地裏に広がる極上のクラシック車世界「CLASSIC AUTOMOBILES」

 本当にこの奥にお店があるのだろうかと訝しがりつつ路地に歩を進めていくと、平べったい黄色い姿が見えてきた。まぎれもない、ロータス・エスプリS1である。左手には輝かんばかりにレストアされたレトロなハシゴ車とトラック。奥にはロールスロイスらしきシルエットの大型車が多数見え、つなぎ姿の気難しそうな白髪まじりの男性が、教会の身廊のように巨大な縦置きエンジンに取り付いている。

 ロンドン都心南西部、東京でいうなら山手通りのような交通量の多い一角にあるクラシック・オートモビルズは、ロールスロイスとベントレーに特化したクラシック車専門店であった。私たちの飛び込みの取材依頼に快く応じてくださったのは、二代目のその名もアンソニー・ベントレー氏。とはいってもベントレーとは関係はないという。

今、リアルに存在するボンドカー

 「そのエスプリはじつは売り物ではなくて、僕個人のクルマなんですよ」

とアンソニーさん。前日に雨の中を走って少し水が入ってしまい、ドアなどを開け放して干しているところだという。エスプリが生産開始になった1976年型、プロダクションナンバー46という、ごくごく初期の貴重な個体だ。ジウジアーロが発表したプロトタイプが履いていたのと同じウルフレース社製の14インチアルミホイールは、サイドのエアインテークがないこととあわせ、外見で78年以降のS2と区別する大きなポイントになっている。

 『VINTAGE LIFE』誌の読者なら、007に出てきたボンドカーとしての記憶が鮮やかな方も多いだろう。1977年の『007 私を愛したスパイ』でロジャー・ムーア演じるボンドが駆るマルチカーだ。ミサイルはぶっぱなすは、翼が出てきて潜水艦になるは、の変身ぶりに夢中になった多くの少年のひとりが、アンソニーさんだった。

 いつかはこのボンドのエスプリに乗るぞと、子どもの頃から大切にしていたという潜水艦仕様のミニカーをオフィスのデスクから出して見せてくれた。

 映画で使われたのもS1なので、自分の物として手に入れるからにはS1にこだわったという。このエスプリは内装も完全にオリジナルで、あの有名なな赤いタータンチェックのシートや揃い布のドアトリムもそのままだ。モダンきわまりない、緑色フェイスのヴェリア社製インスツルメンツ・クラスターも品格をたたえている。

緑色のダイヤルが印象的なヴェリア社製インスツルメンツ・クラスター。フラットな一枚の面になっている。1978年に登場するS2以降ではスミス社製の一般的な個別のゲージになってしまう。

アンソニーさんが気に入っているのがこのタータンチェックのファブリック。切れ味鋭いイタリアンデザインに実を包んでいるのにインテリアはどこか素朴な英国風というのが興味深い。

親子2代、スペシャリストとして

オフィスで、左が父親のロバート・ベントレー氏、右が次男で家業を継いでいるアンソニー氏。ロバートさんは80年代にはプレスリーが所有していたファントムVを落札したこともあるという。

 クラシック・オートモビルズは1975年に父親のロバート・ベントレー氏が起業。次男のアンソニーさんは物心つく頃からロールスロイスやベントレー、アストン・マーチンなどの名車に囲まれて育った。なんと運転免許をとれる年齢(英は17歳)になる前にフィアット・チンクエチェントを自分のクルマとして与えられていじっていたという。

 「やっぱり70年代や80年代のクルマに愛着があります。自分が子ども時代に憧れていたからでしょうね」

というアンソニーさん、いまは8台のヴィンテージカーを持っている。

 「クルマ好きにとってこの仕事は最高ですよ(笑)。自分の夢のクルマに出会える機会が多いですから」。

美しくレストアされた、2台のトラックを持って、ヴィンテージコマーシャルカーのイベントにも毎年参加する、ベントレー親子。イベントの記念トロフィーやカードもズラリ!

顧客にはロイヤルファミリーも名を連ねる

1964年型のベントレーS3 アダプテーション。4ドアサルーンしか生産されていないが、それを後年2ドアコンバーチブルに「アダプテーション」したもの。この時代まではこのようなカスタマイズが盛んに行われていた。

 ロールスロイス、ベントレーのクラシックカー・スペシャリストとしての同社の評判は非常に高いようで、顧客には英ロイヤルファミリー、タイの副首相、俳優のピーター・セラーズ、ドルフ・ラングレンなど数多くの著名人が名前をつらねている。

 この日店頭で見せてもらった中にも、本に載るような名車が何台もあった。下記画像の赤いベントレーS1コンチネンタル(1959年)は、熱烈なコレクターとして知られるピーター・セラーズが以前所有していたもので、コーチビルダーのH.J.マリナーが手がけたこのクーペボディは世界に4台しかない。マグノリア(クリーム)にボディと同じリーガルレッドのパイピングをほどこされた内装も極上のコンディションだ。

 さりげなくうずくまっているようだったくすんだ水色のジャガーCタイプ(1952年)は、1951年と1953年のルマンでスターリング・モスらが乗ったCタイプと同型で、1953年のミッレ・ミリアを走っている。クラシック・オートもビルズでは基本的にすぐに走れるレストアをほどこしたものを販売するスタンスで、さきほどのS1コンチネンタルもこのCタイプもすぐに日常ユースに耐えられるという。とくにCタイプはレースも可能な状態にあるというから驚く。

大柄なロールスロイス/ベントレーの間にちょこんと座っているような風情だったフォルクスワーゲン・ビートル(1965年)。ディズニー映画の主人公「ハービー」として人気になったことから、今もファンの間では「ハービー」と呼ばれる。アンソニーさんも子どもの頃ハービーが大好きだったし、初めてのクルマでもあったこのビートルは特別な存在だという。

ショールームに置かれている在庫の大半は1950年代以降のロールスロイス/ベントレーだが、1926年のシルバーゴーストも(写真左奥)。イベントなどに貸し出すこともあるという。

Text:Yoko Aoki

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