2018.07.27

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

魔術師が残したヘリテイジ「R8 GORDINI」

クラシックカーの中には大変なプレミア価格で取引されるものもあるが、親しみやすいポジショニングを崩さず、長年多くのクルマ好きに愛されてきたモデルもある。平凡なセダンに魔術師がふりかけた魔法は、50年が経過した今でもルノー8ゴルディーニを輝かせている。

R&Bは身近なラリーカーだった

1966 RENAULT 8 GORDINI/
初期のルノー8ゴルディーニ1300のラリーカー。当時の競技車輌らしく、ロールパーや太めのタイヤなど、特別なものはほとんど装備していない。これはルノー自身がレストアを手掛け、保存している個体である。

 ブランド・ビジネス全盛の昨今だが、ネーミングの起源は案外軽んじられている。英国が誇る小型車であるミニの場合でも、ミニは「小さな」という形容詞で、クーパーが車名だと思っている人が少なくない。実際にはミニが車名であり、クーパー英国のF1チャンピオン・コンストラクターの名に由来している。ドーバー海峡を隔てたフランスでも似たような例はある。今回の主人公、ルノー8ゴルディーニがそれである。

 鮮やかなブルーで塗られた四角いボディに、白い2本のストライプが入ったこのクルマは、1962年にデビューしたルノー8(ユイット)という平凡な4ドアセダンに、ル・ソルシェ(魔術師)の異名を持つチューナーのアメデ・ゴルディーニが大改造したパワーユニットを載せたモデルである。

 目敏い読者の中には「ゴルディーニ」と聞いて、2011年に登場したルノー・トゥインゴの追加モデル、トゥインゴ・ゴルディーニRSに代表される現代のルノー・ゴルディーニを思い浮かべるかもしれない。

 それは「当たり!」と言っておきたいところだが、ゴルディーニが独立したチューナーとして開発を担当し、ベースモデルとなったマジョールの2倍近いパワーを絞り出した60年代のR8ゴルディーニの確かな価値と同等に比べるわけにはいかない。

 現代のそれはおし並べて、特徴的なフレンチブルーに白いストライプが入れられたボディペイントと、コンピューター・チューンによってエンジンの出力をほどよくアップさせたモデルに過ぎないのである。

ゴルディーニ・カップの語り部

1969 RENAULT R8 GORDINI RALLYE/
1969年シーズンのルノー8ゴルディーニ・カップ用に用意された個体で、当時のモンテカルロ・ラリー等にも出走した記憶が残っている貴重な個体。上の写真は8ゴルディーニのベースになった8マジョールの生産ライン。

 アメデ・ゴルディーニはフィアットやシムカのチューニングによって頭角を現し、その後はF1コンストラクターとしても活動した実績があるビッグネームである。50年代の中頃からルノーとの関係を深めたゴルディーニは、8の前に独自のシリンダーヘッドを組み合わせたドーフィン・ゴルディーニをルノーの純正モデルとしてデビューさせている。

 ドーフィンの後継車として1962年に登場した8に、ゴルディーニ・チューンのエンジンが搭載されるのは時間の問題であり、2年後の1964年に8ゴルディーニは登場している。エンジン・チューニングの手法はまず、ウェッジ型だった燃焼室を半球型に改め、吸気と排気が別の側から行われるクロスフロータイプとしていた。

 そして吸入気の量を左右するバルブ径を最大にするため、副燃焼室まで設けるほどの凝ったシリンダーヘッドを開発し、8マジョール用の1,108ccエンジンの腰下と組み合わせたのである。その効果は絶大で、50psほどしかなかった8マジョールの1,108cc、4気筒OHVユニットは、ゴルディーニ謹製のシリンダーヘッドの恩恵によってオリジナルの2倍近い95psまでパワーアップされたのである。

 現代において、これほどのパワーアップを果たすのはターボチャージャーなどの過給器の存在が不可欠といえる。だがゴルディーニはそれをシリンダーヘッドの吸気率を極限まで上げることによって達成し、同時にロードカーとして実用に耐えうるクオリティもちゃんと確保している点がすばらしい。

伝説のチャンピオンマシーン

1969 RENAULT R8 GORDINI EX MICHEL LECLERE/
1968年と1969年にルノー8ゴルディーニ・カップを制したドライバー、ミシェル・ルクレールがドライブした個体。彼は後にフォーミュラ・ルノーでもタイトルを獲得し、ティレルやウルフでF1グランプリを経験した。

 8ゴルディーニ1100の登場から2年後の1966年、ベースモデルの8に搭載されるエンジンが1,255ccまでスープアップされたことで、8ゴルディーニもまた1300として生まれ変わっている。

 8ゴルディーニの1100と1300の外観上の違いは細かなもので、ヘッドランプの内側にドライビングランプが追加され、4灯のフロントマスクになったことが最大である。機械的にはもともと車体後部のみに搭載していたフューエルタンクを、前後の重量配分を適正化するためフロントフード内にも設置したこと。そして4段だったギアボックスが当時の高性能車らしくフルシンクロの5段クロスタイプになったことが挙げられる。

 8ゴルディーニ1300はモータースポーツに最適なパワーユニットを得たおかげで、ミニ・クーパー等のライバルとして国際的なモータースポーツシーンにも数多く登場するようになっている。特にラリーではツールドコルスをはじめとするフランス国内のあらゆるラリーに参戦し、またハコ車の最長耐久レースであるスパ24時間レースにも出場して非凡なスピードを見せたのである。

幻のツインカム・ゴルディーニ

1969 RENAULT R8 GORDINI DOUBLE ARBRE/
ルノー8ゴルディーニの中でも特に珍しいDOUBLE ARBRE-ツインカム・エンジンを搭載したモデル。ゴルディーニ謹製のエンジンはアルビーヌ製のF2マシーン等に搭載されていたコンペティション・ユニットである。

 この他にR8ゴルディーニは、これからモータースポーツをはじめる初心者のためのリーズナブルな選択肢として人気があり、ほとんどストックの状態の8ゴルディーニによって争われるワンメイク・レース「クープナシオナル・ルノー8ゴルディーニ」も開催され多数のエントリーを集めていた。

 このモータースポーツの新たな試みはラリーやサーキットレースといった様々なステージで争われるもので、後にルノーを代表するようなドライバーたちを数多く輩出している。中でもルノーF1でその才能を開花させたジャン・ピエール・ジャブイーユはゴルディーニ・カップ育ちの代表的なドライバーとして知られている。

 またルノー8のコンポーネンツを利用して作られたスポーツカーであり、世界ラリー選手権で大活躍したルノー・アルビーヌA110の場合も、1,000ccから1,600ccまでモータースポーツのレギュレーションに合致する様々なスペックの4気筒エンジンを搭載していたが、そのほぼ全てがアメデ・ゴルディーニによってチューニングされたものである。

 近年の自動車シーンでチューニングといえば、お手軽なコンピューター・チューンに終始するか、もしくは高級なレーシング・モデルを徹底的にいじるという両極端な手法が一般的となっている。だが、平凡なセダンに本格的なメカニカル・チューンを施したルノー8ゴルディーニのようなスポーツモデルの存在こそ、昔も今も真のクルマ好きを育てる最適なアプローチなのではないだろうか。

Text:Takuo Yoshida

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