2018.08.02

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

ただキレイに直すだけじゃない、繊細なレストア。「CARROSSERIE LE C...

01「フランスのクラシックカーの主治医的存在」

 新凱旋門とモダンなオフィスビル街で知られるパリ郊外のラ・デファンス地区から、さらに西へ数kmの場所に、「CARROSSERIE LE COQ(カロッスリー・ルコック)」はある。まだこの地に引っ越して1年ほどながら、3,500平米超の広々した社屋は余裕があるだけではなく。最新鋭の設備によって、もはや板金塗装という業態にとどまらない体制が敷かれている。

 カロッスリー・ルコックの仕事はおもに4つに分かれている。

 まず、メカニカル・パートのレストレーションを手がけるガレージ・スペースがひとつ目。ここはボディやシャシーのレストア行程を終えたクルマが、最後にやってくる、あるいはエンジンやサスペンションや駆動系といった、ランニング・シャシーの修理設備だけが必要なクルマが立ち寄るスペースとなっている。

スポーツカーの"艶"を蘇らせる

1959 Asutin Healey Sprite Mk.Ⅰ/
日本ではカニ目、英国圏ではフロッグアイと呼ばれることの多いヒーレー・スプライトMk.Ⅰ。ちょっとフレンチブルー風の深いブルーにボディをペイントし直され、精悍な雰囲気すら漂う。メーターパネルやトノカバーまで、スキなく仕上げられている。

 ふたつ目は、最新のジオメトリーケ計測機器を備え、アルミのような繊細なボディの重設備を手がけるスペース。フェラーリ458イタリアなど、最新のスーパーカーのハイテクなアルミニウムボディを直すには、コンマ数ミリまでを誤差を追い込む必要があるが、ルコックはフェラーリ工場と同じジオメトリー修正の機器を導入している。

 この機器を使いこなすために職人をイタリア本社に送り込んで技術研修も済ませ、フェラーリのボディ修理指定工場の認定を受けているほどだ。ちなみにこの最新機器によるボディ修正と修復スペースには、アルミボディの取扱に加え、今年中にはカーボンボディ用の最新鋭機器を導入し、さらなる拡大を図る予定という。

入り口すぐ、オフィス脇は車両預かり&納車スペース。この日はイタリアン・エキゾチックが大集合。奥のリフトが並ぶ部屋はメカニカル関連のガレージだ。

1968 Triumph TR5/
ミケロッティがデザインした英国のミドル級スポーツカー、トライアンフTR5は欧州大陸側でも人気。いかにもフランス的なイエローバルブもなかなか似合う。新しい塗装と済ませたばかりのモールドは、やはりため息を誘う美しさだ。

 そしてみっつ目は、以上の最新施設とはまったく正反対の、鉄板を叩いて延ばして、まげて溶接していくという、昔ながらの板金加工技術を中心に、ベアボディをレストアしていくスペース。ルコックの業務のもっとも旧い部分でもある。ちなみにこのパートには、鉄板だけでなく、戦前車の木製フレームやウッド内装を蘇らせるための木工加工、さらには内装の内張りなど、コーチビルダーの伝統的ノウハウも含まれる。

 よっつ目は塗装ブースだ。ルコックは最新鋭の塗装ブースを2基を備え、さらに塗装表面チェックのためのライトトンネルも2基、併設している。後者は本来なら自動車メーカーの生産工場にあるような設備で、市井の工場にある例はきわめて珍しい。ここで想定されている仕上げのレベルの高さが、うかがえる設備といえるだろう。

ボディのジオメトリーを正確に測定し、ミリコンマ単位の歪みや捩れチェックを可能とする測定台に載せられたF430。実際、フェラーリのボディ製造にも使われている機器という。

02「手間のかからない板金は存在しない」

1973 Ferrari Dino 246 GTS/
取材日、ボディや機関のストリップ作業が進行中で、ごく最初の板金作業が始まっていた、ディーノ246のタルガボディ。サイドシル周りのデリケートな部分を済んでいたが、その他の周辺部位からも丁寧な作業の様子が垣間見えた。

 カロッスリー・ルコックの名は、じつはヒストリックカー・コレクターの間では有名。ここでレストアされたクルマが、イタリアのヴィラ・デステやアメリカのベブルビーチといった、名だたるコンクール・デレガンスで、最優秀賞を含む活躍をしているからだ。

 あるいはサーキット・イベントなどで走りを楽しむオーナーにも、アクシデントのリスクはつきものだし、例え公道イベントでしか使っていなくても、ボディの状態は年月とともにヤレていくのは当然の成り行きである。いわば「クルマの生涯」があるとすれば、定期的に検診を任せる主治医のような存在がルコックで、それゆえレストアの「指標」とされている。

 ちなみに、ただキレイに直すだけのレストアでは、コンクール・デレガンスのような用途にはそぐわない。旧いものを新しく仕立て直すだけでは整形手術というか、度を過ぎればクローンを作り出すようなものだ。換骨奪胎というよりも、最大限にオリジナルを尊重して肌理を整えて、そのクルマのヒストリーそのものが輝くようなレストアを施さなくてはならない。そういうレストアを50年以上も続ける板金ガレージ、それがルコックの元々の姿なのだ。

全体の作業のイメージを明確にするため、オリジナルの寸法が作業場に張り出されていた。ミリ単位で正確にすすめるための準備である。

 無論、戦前車や’50年代のチューブラフレームのボディなどは、デジタル3D再現で木組みの台から構築して、寸分たがわぬ曲線を実現することもできる。ところが板金スペースで印象的だったのは、フェンダーの後ろ、タイヤからの蹴り上げ部分を、職人が丁寧に平張り溶接して、継いでいる姿だった。

 長く走っていればどんなクルマでもグサグサに悪くなる部分がココだと、職人たちは口を揃える。そしてこうもいう。レストアの動機は、つねに感情的でセンチメンタルだと。理性的に考えれば、お金をかけて旧いクルマを直すのが非合理的なのは、誰にもわかっているとも。それでも直したいという、その気持ちに応えるのが、彼らの仕事だというのだ。

戦前のクルマも多く手がけている。ロールス・ロイスのファントムⅢはつい近年まで最後のV12ユニット搭載のロールスで、高級車のすべての質を備えたモデルとして定評は高い。パリナンバーで黒塗り、そしてイエローバルブをヘッドランプに採用した一台。

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