2018.10.01

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

旅に関するヴィンテージグッズが得意なショップ。「Arte & Viag...

01「"旅"にこだわるヴィンテージの銘店」

 1841年、トーマス・クックが禁酒運動の大会に信徒を参加させるため、汽車の切符の一括手配を行った。これが世界初の旅行代理店と言われる。1869年、アメリカ大陸横断鉄道が開通。1880年頃、北大西洋航路に使われる船に電燈と冷凍庫が導入され始めた。そして1912年、当時世界一の大きさと豪華さを誇ったタイタニックが就航。

 19世紀後半から20世紀前半、目的を巡礼としない新たな形の旅が急速に広がった。その手段は船か汽車であり、高い費用を払うことができる上流階級だけのものだった。日本からヨーロッパまで10時間で飛べる今とは比べ物にならないほど、旅は長く、貴重な時間だったのだ。それゆえ、旅人は旅の道具にもこだわった。長い時間を共にするからこそ、家にいるのと同等の快適性を求めたのだった。

02「旅が富裕層の特権だった時代の逸品」

自宅の1階にショップ兼事務所があり、19世紀末〜1930年頃までの旅に関わるグッズが所狭しと並んでいる。できるだけ壊れていない状態で、欠品がないものを取り揃えているという。

 ルイ・ヴィトンが世界初の旅行鞄専門店をスタートさせたのは1854年。その頃からイギリスやイタリアでは次々と旅行のためのグッズが作られるようになった。「Arte&Viaggi」は、1930年くらいまでの、旅に関するヴィンテージグッズを得意とするショップである。

 「特に長い時間を要する船旅では、できる限り快適に過ごすため、とても豪華な品を旅行用に設えたのです。船に積む際は手伝ってもらえたし、部屋は広いから荷物は大きさを意識しなくて済みました。造りがしっかりしているから今でも充分使えるものがたくさん残っていますし、魅力は年を経てますます増しているのです」

 そう話してくれたのは、オーナーのパオロさん。船の中ではディナーがあり、時にはパーティもあった。そのための服も船に積まなければならなかったのだ。

 「シルクハットを収める革製の帽子入れや、6足もの革靴を収納できるトランクなど、今よりも様々な道具が作られていたのです」

 やがて時を経て旅が次第に一般的になるにつれ、中流層のための道具も生まれてくる。

 「一見革に見えるけれど、より安価で軽量な紙を使った道具も生まれてきました。紙には紙の良さがあるので、紙のトランク専門のコレクターもいるほどなんですよ」

ひとつひとつに作り手の心が込められている

1930年頃のルイ・ヴィトンのポスター。現在はラインナップされていないが、当時は香水、ブラシなどを予め備えたグルーミングセットを販売していた。今発売してもかなり人気が出そうだが。

コンパクトな革製ケースに水筒と折り畳み式のカトラリー、ランチボックスが収まっている。1935年、グッチ製のピクニックバッグで、金属部分にはニッケルが使われている。

03「時代と共に、旅の道具はコンパクトに、ヴィンテージトランクを愛車に積む」

ヴィンテージのトランク、コート、ハットと共にポーズを取ってくださったパオロさん。作りがしっかりとしたものは、時代を経ても全く色褪せないことがよくわかる。

 さらに時代が進むと、旅の形態は変わっていく。例えば自動車がより快適で速く進化することにより、旅の手段としても用いられるようになった。だが当然船よりも荷物をコンパクトにしなければならないため、道具も携帯性を重視したものが作られていく。

 「1900年ころは、香水やブラシ、靴べら、ピンセットなど、身だしなみを整えるグッズは、ほとんど家で日常的に使うのと同じサイズのものを専用のトランクに収納していました。でも1930年頃には、それらを全てコンパクトサイズにしてポーチに収めたものが出てきました」

 また使われる素材もどんどん変わっていく。

 「たとえば金具だと、1920年頃から錆びない真鍮が使われるようになります。またピクニック用のお皿やコップは、第二次世界大戦後はプラスチック製のものが出てきました。買い付けを行う際、その商品の年代がわからないことも多いのですが、使われる素材やデザインのテイストから、およそいつ頃に作られたものかを推測することはそれほど難しくないんです」

19世紀末にニュージャージーで創業した、L.GOLDSMITH&SON社のNEVERBREAKと呼ばれる、ヴァルカナイズ繊維を表面に用いたトランク。いかにもアメリカらしい武骨なデザインだ。

パオロさんのお母さんが、自宅で我々を迎えてくださった。80歳とは思えぬほどお元気で、家事も完璧にこなされるという。暖炉に貼られているのは、亡くなったお父さん作の、石を使ったモザイク。

ヴィンテージ・トランクは、その国によって素材の使い方やデザインがかなり異なる。ヒストリックカーの室内、もしくはラゲッジ上のラックに置くために購入していく人も多いとか。

04「当時の息吹が感じられる喜び」

1930年頃、フランスで作られたコンフォルマトーレ。その人の頭のサイズに合ったシルクハットを作るための道具。

 パオロさんが特に好むのは、ただ綺麗なだけではなく、持ち主の人となりや旅の様子がうかがい知れる道具なのだという。

 「このトランクに書かれたアルファベットは、持ち主のイニシャルです。こちらのアタッシュケースのような小さなトランクには、当時の名刺が入っています。持ち主のものか、持ち主と知り合った人のものかはわかりませんがね。さらにこのトランクには、19世紀末より運行が始まったオリエント急行のステッカーが貼られています。こんな風に当時の息吹が感じられる道具に、私は特に魅力を感じるのです」

 お父さんもヴィンテージ好きだったが、パオロさんはその中でも特に旅行道具に興味を持ち、現在のショップをオープンさせたのだという。その大きな理由が、こうした「往年の旅の雰囲気を感じられること」なのだろう。

我々が訪れる1週間ほど前に、地元で開催されていたヴィンテージ・フェアのポストカード。年に2回開催される。

靴を6足収納できるトランク。1864年にイタリアで創業したORESTE FRANZI&CO社製。G・Pは持ち主のイニシャルか。

倉庫には、ショップに置ききれない大きなトランクなどがうず高く積まれていた。建物も充分ヴィンテージ!

テキスト: Yoichi SAKAGAMI
媒体:VINTAGE LIFE 10

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