2018.11.26

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

プライベートアイズで楽しむ「'30年〜'80年代機械式腕時計の変遷」

腕時計の市場規模が懐中時計を追い抜いた時代から、自動巻きの成功による黄金期を経て、大打撃を受けたクォーツショックを迎えるまで、年代別に機械式腕時計の軌跡を辿っていこう。

1930’s:腕時計が文化として開花した時代

左:JAEGER-LECOULTRE/
1930年代製の大変希少なレベルソのファーストモデル。レディスモデル。タバン製ムーブメントを搭載した、資料的にも大変価値のある逸品。文字盤にはブランドロゴはないが、反転ケースやディテールの意匠が自ずと出自を物語る。同世代と思われるコンディション・質感共に良好なバンブーブレスを装着。
39万8,000円(税抜、取材当時)

右:JAEGER-LECOULTRE/
1940年代製のアールデコデザインのレクタンギュラー。ラウンドのレイルトラックの分目盛りにレクタンギュラーを組み合わせたデザイン。ブラックダイアルはこの頃のルクルトならではで味わい深い。現行品ではまず見ることができない、アーチ状になった風防も当時の空気感を伝えてくれる。
38万円(税抜、取材当時)

 1930年代は懐中時計から腕時計に主流が移行し、手巻き式腕時計が発展する時代であった。その背景の一つにケースの品質の向上が挙げられる。

 腕時計は懐中時計と違って、直接外気にさらされるために、ケースに湿気やほこりが侵入し、故障の原因となることが多かった。それを解決したのが、1926年に開発されたロレックスの気密性を高めたオイスターケースや、1933年に発表されたジャガー・ルクルトの反転式ケースレベルソだった。それらが嚆矢となって、腕時計の実用性が飛躍的に上がったのである。

 一方で、1925年にパリで行われた「現代装飾・産業美術国際博覧会」を発端とするアール・デコが腕時計にも影響を与えはじめていた。それ以前のアール・ヌーボーは曲線を基調とした芸術的な工芸品だったのに対し、アール・デコは直線や円などの幾何学的なフォルムが多用された工業的なシンプルなデザインが特徴。先に挙げたジャガー・ルクルトのレベルソは、時計界でまさにそのアール・デコの象徴であった。

 シンプルで洗練されたフォルムはアール・デコの典型でありながら、当時の上流階級で流行していたポロ競技や登山、スキーといったスポーツを行う際に、風防を破損しないようにケースを反転させるアイデアも盛り込まれた。こうして実用面の向上と、アール・デコという時代性がうまくマッチして1930年代、腕時計の時代が開花したのである。

高級クロノグラフムーブメントが持つ美しきメカニズム

TAVANNES/
1930年代製のタバンのクロノグラフ。タキメーターの付いた2カウンタークロノグラフに、ブルースチール針がクラシック感を引き立てる。ゴールドのスクリューバックを開けて眺めるムーブメントは、コラムホイールにチラネジテンプを備えた高級クロノグラフ仕様。ギャランティー付き。
59万8,000円(税抜、取材当時)

1940-50’s:ミリタリー時代の到来

左/LONGINES/1940年代製の英国陸軍に納品されたミリタリーウォッチ。ブランドロゴの下に英国軍で正式に採用されたことを意味する「ブロードアロー」の刻印が刻まれる。ディテールが凝っており、ステップベゼルに、夜光塗料付きのコブラ針、文字盤のレイルウェイトラックとアンティークの魅力が満載されている。手巻き。55万円(税別)
右/ROLEX/1940年代製のロレックス オイスターバブルバックのローズゴールド&ステンレスのコンビモデル。1940年代らしいバブルバックならではのデザインと、光沢のあるアイボリーホワイトカラーが美しく経年変化した、味のある逸品。夜光塗料付きのアプライドインデックスがフェイスの表情を豊かにしている。自動巻き。58万円(税別)

 1939年9月1日に第二次世界大戦が勃発した。機械式腕時計とってミリタリー時代の到来とは、発展と革新の号砲であったのだ。腕時計も多くの工業製品と同じく、度重なる戦争によって進化してきた。すでに戦場では腕時計が不可欠な装備品となっていた。陸・空・海の各軍隊で標準支給品となっていたのである。

 ハミルトンは米軍に要請されてミリタリーウォッチの生産を開始し、1912年には米軍陸軍がいち早く標準支給品として配給された記録が残っている。またロンジンもイギリス陸軍に採用される。ブランドロゴの下に入る矢印のようなマークは「ブロードアロー」と呼ばれ、英国軍への正式採用を示している。

 第一次世界大戦のときには単に頑強であればよかったミリタリーウォッチであるが、その後、急速に状況が変わっていった。その理由のひとつが戦闘機による空中戦の重要性が高まったことだ。その過程で、特にクロノグラフは大きな発展を遂げ、バルジュー23など傑作ムーブメントなどが次々と生まれた。

 1942年には、ブライトリングから速度や燃料消費の計算ができる回転式の計算目盛りを装備した「クロノマット」が発表され、終戦後の1952年には同じくブライトリングから航空用時計「ナビタイマー」が発表された。またチャールズ・リンドバーグのサポートをはじめ、航空時計に取り組んでいたロンジンも、1940年代を代表する名作クロノグラフ「キャリバーCal.30CH」を生み出している。

 さらにクロノグラフ以外にも腕時計としての実用面で革新的な技術が登場する。例えば、コックピットの磁気に耐える耐磁性を持つケースが開発されたり、上空3万フィートで厚い革手袋をしても操作できる大きなリューズを備えた腕時計が開発されるなどだ。このようにして航空機の発達は腕時計に大きな進歩を促したのだ。

 空だけでなく、海で活躍したブランドもある。1941年にエジプト・アレクサンドリア港での戦闘で、戦艦、石油タンカー、駆逐艦が、たった3隻の潜水攻撃艇に乗る6名のイタリア海軍特殊工作員に撃沈された。この作戦を支えたのが、パネライだった。そうした高度な水中ミッションを遂行できるよう、ダイバーズウォッチが生まれたからにほかならない。

 こうして時計業界と各国軍隊は、極めて密接な関係を持つようになった。軍はいっそうのスペックアップを要求し、時計メーカーはそれに応えることで技術的な進化を遂げたのである。

 ミリタリーウォッチは、もともと戦場で使うために作られているので、ヴィンテージモノにしては、丈夫で壊れにくいのが魅力である。また軍に大量に納入するため、価格もリーズナブルなものが多い。実用性や耐久性に優れているために、ヴィンテージウォッチ初心者でも扱いやすいフレンドリーな時計といえるだろう。

 手巻きムーブメントは1940年代で、ほぼ技術的な到達点に行きついたといっても過言ではない。それを1950年代に入り、一気に自動巻きの時代に導いたのがロレックスだ。

 1931年に全回転式ローター自動巻きを搭載する「パーペチュアル」を発表していたが、1953年にダイバーズウォッチのサブマリーナ―と「冒険者」の名前を冠したエクスプローラー、1957年には航空時計のGMTマスター、と立て続けに発表したことで、自動巻きの時代を決定づけたのである。

 ロレックスが巧みだったのは、ヒラリー卿のエベレスト登頂に同行したことや、深海潜水艇トリエステ号で特殊オイスターモデルが1万916メートルまで潜った事実を、広告にうまく取り込んだこと。そうした戦略が今なおステイタス感を人々に植え付けているのだ。このように自動巻きの普及により、機械式腕時計は黄金期を迎えるのである。

50年代の美意識を宿す逸品

ROLEX/
1959年製のロレックス オイスター 18金。オイスターパーペチュアルに回転ベゼルを備えた、通称「サンダーバード」モデル。「R.6609」のセカンドジェネレーションの美品。50年代後半ならではのマットなホワイトダイアルで風合いあるテイストに仕上げた。イエローゴールドブレスレット付き、自動巻き。
265万円(税抜、取材当時)

LONGINES/
1950年代製のスチールケースのクロノグラフ。ムーブメントは傑作キャリバーと名高い「Cal.L30CH」を搭載。先代の「Cal.L13ZN」と同様にフライバック機能を備える。デザインのバランスもよく、ミニッツマーカーの外周には、赤でテレメーターの目盛り、青でタキメーターの目盛りが示されている。手巻き。
150万円(税抜、取材当時)

機械式時計の黄金期

1960’s:スポーツウォッチの時代

ZENITH/
1960年代製のゼニスの3レジスタークロノグラフ。ビンテージゼニスの中でも代表的なユニバーサル社の「cal.285」をベースに、ゼニスがリファインした「146HP」のムーブメントを搭載した貴重なクロノグラフ。ゴールドとブラックの2トーンによる独特な配色も60年代を感じさせる。手巻き、箱付き。
58万円(税抜、取材当時)

 機械式時計を発展させた二度にわたる世界大戦が終結し、人々は平和を謳歌するようになったにもかかわらず、機械式時計はそのままの勢いで黄金期を迎えた。それは、ジェット旅客機の定期就航が始まって海外旅行に気軽に行けるようになったり、レジャーでダイビングが楽しめるようになったためである。つまり、ミリタリーウォッチの役割は終わり、ダイバーズウォッチなどスポーツシーンでの需要が台頭してきたわけである。

 中でもモータースポーツには各社とも競って参入した。レースシーンではFIA(国際自動車連盟)による世界選手権として、1950年に現在のF1グランプリが誕生したのをきっかけに、1964年に「ホイヤーカレラ」を大ヒットさせたホイヤー社はモータースポーツ界の関係をさらに深めていった。

 1969年にはスティーブ・マックイーン主演の映画「栄光のル・マン」で、着用した世界初の角型防水時計、「ホイヤーモナコ」を完成させた。またモータースポーツ以外にも同年に、宇宙では人類が初めて月面に降り立つという歴史的な瞬間に、オメガのスピードマスターが立ち会っていた。

 その後、1969年はほぼ同時にゼニス、セイコー、ブライトリング&ホイヤーといった複数のブランドが自動巻きクロノグラフの開発に成功する。それは機械式時計のひとつの絶頂期を迎えた束の間でもあった。そして1969年12月にセイコーが発表したクォーツ式時計により、スイス時計産業は悪夢を迎えるのである。

UNIVERSAL/
1965年代のユニバーサル"ポールルーターデイト"。ユニバーサルが開発した小型自動巻きマイクロローターを備えた「Cal.69」を搭載したモデル。ほとんど未使用といってもおかしくないほどのミントコンディションの逸品。オリジナルブレス付き。自動巻き。
38万円(税抜、取材当時)

1970-80’s:クォーツ時計が世界を席巻

下:OMEGA/
1970年代製のシーマスター プロプロフ。プロプロフとはフランス語でプロフェッショナルダイバーを意味する。当時では画期的な300メートルという高い防水性能はもちろん、潜水時間を読み取ることを重視したデザインやダイビング中に誤作動を防ぐため、独自の回転ベゼルを備える。自動巻き。
68万円(税抜、取材当時)

上:OMEGA/
1980年代製のスピードマスター ジャーマンモデル。1982年~86年のわずかに期間に販売されたレアピースで、レギュラーモデルとは異なるベゼルや独特なケースフォルムが特徴。スピードマスターのキャリバーとしては2代目となる、「キャリバー861」を搭載。手巻き、未使用品。
38万円(税抜、取材当時)

 水晶(クォーツ)の振動を利用したクォーツ時計は、機械式に比べて圧倒的に誤差が少なく、子どもでも買うことができることができる身近な商品となったため、あっという間に市場を席巻、スイスなどの高級機械式時計ブランドは壊滅的な打撃を受けた。これが「クォーツショック」である。

 そのため1970年代に機械式腕時計の名作は少ない。スイス時計産業の中心にいたロレックス社やホイヤー社までもクォーツ時計を発表していたほどなのだ。その中でもオメガのような体力のあるブランドは、アポロ計画などの時流に乗った話題で着実に力を蓄えていた。そうして時計メーカーは整理統合されながらも80年代に復活を遂げるまで、雌伏の時を過ごすのである。

カメラマン:Yasuhiro YOKOSAWA
テキスト:Katsumi TAKAHASHI
媒体:VINTAGE LIFE 13

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