2018.10.01

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

日本人名メカニックのこだわり。「BELL45」

 「イギリスはやっぱり英国車が中心で、その中でハーレーは少数派で、さらに僕が扱っているような古いものはほんとうに少数派で。となると、乗っている人はだいたい知り合いっていう感じになってくるんですよ」

と、微笑みながら謙虚な物腰で話す小川 智さん。イギリスのヒストリック・ハーレー乗りの間ではToshiとして知られる名メカニックだ。

 Toshiさんが2014年7月に西ロンドンに開いたワークショップを訪ねたのだが、ほとんどそれらしい看板はない。何度も前を行き過ぎてしまったほどさりげないふつうのタウンハウスの車庫のように外からは見えた。ところが黒い扉をあけて一歩店内に踏み込むと、ヴィンテージな乗り物好きなら必ずやぐっと来る趣味的空間が待っていた。

口コミのお客さんですでに手いっぱいに

日本の長屋にも通ずるロンドンの細長いタウンハウスを使ったワークショップは、歴としたワークショップでありながら、雑然としているようで清潔であたたかく、おしゃれで居心地がいい。

 使い込まれたツールが並び、油の染みこんで埃ひとつない治具、年季の入っていそうな旋盤、出番を待つ塗装の剥がされたタンクなども壁にかかっていて、ワークショップでありながら、油臭そうなのに臭くない。コーヒー片手に粘りたくなる居心地のよさだ。

 「いずれはちゃんとしたお店にしたいんですけどね」

とはにかむToshiさんだが、広告すら一切出さなくても知り合いや口コミでやってくるお客さんの仕事だけですでに手いっぱいなのだそうだ。このワークショップを開く前は、日本で3年、ロンドンの有名なガレージで10年、ハーレーのメカニックとして研鑽を積んだ。「ハーレーならエンジンの底の底まで」知っているという。

友人がアメリカから購入、エンジンはかかったものの白煙モクモクでエンジンオーバーホールとなった1947年式インディアン・チーフ。

インテリアの皮革製品や革小物のプロデュースをしているビル・アンバーグ氏。1930年代のノートン16Hを自分で組み上げ、ハンドルバー幅の調整などの仕上げをToshiさんに依頼していた。

英国のマニアは自分でいじるのが基本

Harley-Davidson WLA/
ローラ・アシュレイの息子でデザイナーのニック・アシュリレイ氏の1947年WLA。今シーズンのダートトラックレースのためにタンクやフェンダー、タイヤ、ナンバープレートなどを更新し、試走をしてセッティングを煮詰めていく予定。現在はタンクもフェンダーもついて試走間近。

 訪問時、先にToshiさんと話していたお客さんはビル・アンバーグ・ストゥディオという革小物やインテリア会社の社長さんで、趣味がヴィンテージ・バイク。今回は自分で組み上げた30年代のノートン16Hを、最後にToshiさんにあちらこちら調整してもらいたいという依頼だったそうだ。

 「日本と違って、イギリスの古いバイク乗りの人たちは基本的に大抵のことは自分でいじるんですよね。特殊工具が必要だったり、自分ではどうしても難しいというところだけ頼んでくる彼のような人が多いんですよ」

 日本のようにクライアントの要望を聞いてすべて仕上げるようなことは少なく、

 「もうお客さんというより友だちみたいな人から"これこれのレースに出たいんだけど"という相談を受けて一緒に考え、アドバイスしたり手助けしながら目標に向かっていく感じですかね」

 そんなToshiさん自身のバイクは? と聞くと、

 「2台とバラバラ状態の1台だけ。いま走るのは1台だけ」

という返事が。いろいろ手を入れないといけないのだが、まさに紺屋の白袴状態で、とても自分のバイクにまで手がまわらないのだそうだ。

古い自転車も好きで手がけているToshiさん。自転車は20〜40年代の英車が多く、これは30年代のBSA。現在につながる世界の自転車の基本形がこの時期の英国で生まれている。

モノが持つ“生き残っている感”

ワークショップの片隅に置かれている、ちょっとした収納にも魅力的な古いものが多い。

 Toshiさんの古い二輪車好きはオートバイだけでなく、自転車にも向かっている。とくに好きなのは20〜40年代のBSAやトライアンフなどの英国車で、これは自分用の所有車だけでも10台ほどあるとか。

 なぜその頃の古い二輪車に惹かれるのかとの問いには、しばらく考えて

「モダンなオートバイや自転車の基本的な形がその頃にほぼ完成しつつあって、そこが見どころだからだと思う」

との答えが返ってきた。それはワークショップの壁に並ぶツールや工作機器などにも通じていて、70年前のものでも手を入れれば十分に使え、ヘタすれば今の製品よりもいい金属で作られていたりする。そういうモノは手にとるだけでも満足感がある。機能美、用の美がある。

 「モノが持つ"生き残っている感"が好きなんだと思います。最近の製品には、今から70年後も手入れして使われているだろうと思えるものが少ないですから」

というToshiさんの言葉は、まさにヴィンテージライフをきわめる醍醐味に触れているのではないだろうか。

昔の顔のビバンダム、オイルランプの前照灯などもヴィンテージ。ちなみに「Bell45」の名前は、ハーレー乗りなどが事故避けにつけるお守りのベルと、排気量の45立方インチから。

テキスト:Yoko AOKI
媒体:VINTAGE LIFE 13

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