2018.09.14

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

英国とアンティークについて考える「KENT STORE」

 東京都目黒と言えば、目黒通り沿いに立ち並ぶインテリアショップを思い浮かべる方も多いだろう。

 この度ご紹介するケント・ストアは、その通りから少し外れたところにある英国のアンティークを取り扱うお店。2002年にアンティーク家具の卸として静岡に創業し、今では日本最大級のアンティーク卸業社となったケントが、東京の拠点として4年前にオープンした店だ。

 同社は長い間小売店のみに向けて販売を行っていたが、「その商品の魅力を店には伝えているけれど、末端のお客さんには伝わっていないのでは?」との思いがあって店を構えるようになったのだという。本社のある静岡に次いでオープンした目黒店は、同社の在庫の中でも選りすぐったものを展示販売しているのだ。

 店は3つのフロアから構成されており、1階はセレクトした英国の雑貨や家具のリペア用品。2階にはアンティーク家具。そして店舗奥にはアンティークの什器や装飾品のコーナーとなっている。

 今回はケントの商品を通して、改めて英国家具の魅力と、アンティークとの正しい付き合い方について考えていきたい。

きっかけはロンドンタクシー

 ケントでは修理を前提として考えているので、様々なパーツも用意している。ドアノブやローラー、電灯のスイッチ、蝶番など、希少なアンティークのものから、当時モノとまったく同じ鋳型で作られた家具用の金属パーツまで幅広く取り扱いがある。

 一代で日本一のアンティーク卸の会社を築き上げたケント。同社が今に至るまでの話を代表の樋口貴典さんに伺った。

 「特段イギリスの事が好きだったわけではないのですが、学生の頃に東京の中野でロンドンタクシー(Austin FX4)に出会って以来、それが大好きになったんです。昔、芝浦とか勝どきがウォーターフロントって呼ばれてて、倉庫が改装されたレストランとかディスコがありました。

 社会人になって遊びに行ったとき、レンガ造りの倉庫にロンドンタクシーが横付けされているのを見つけたんです。何だここは? と思って入ってみると、古い家具が山積みにになっていました。そこは設立前のアンティーク関連会社だったんです。するとオーナーが出てきて、流れで一緒にこのビジネスをやらないかという話になりました。これはロンドンタクシーに乗れるぞと、アンティークなんてわからないままこの世界に入ったんです(笑)」

 そう話してくれた樋口さんは、その会社で創業メンバーとして立ち上げと運営基盤を築いた後、世紀をまたぐ2000年という区切りの年に、"アンティーク家具本来の英国的価値観を引き継ぎながらも、多くの日本のお客様が安心して親しまれる、修理の行き届いた今までにないアンティーク家具ビジネスをしよう"と一念発起。それまでの経験と知識を生かし、2年の歳月を基盤作りに費やした末、2002年に株式会社ケントを設立した。

インテリアとしても人気が高いというアンティークの工具たち。長年使用されて塗装が剥げ、刃が減ってしまっているこの雰囲気は唯一無二。価格も安く、工具集めが好きなガレージ趣味の方ならついつい食指が伸びることだろう。

家具以外にも、気軽に購入できる英国雑貨も充実の品揃え。コースターやアッシュトレイでブリティッシュパブに想いを馳せるのもまた一興。

高い天井で開放感のある1階には、アンティークショップにありがちな物憂げな雰囲気は全くない。家具の手入れや修理に使う道具も丁寧に陳列。年代物の看板が華を添える。

メンテナンス用品も英国製

1884年創業の老舗塗料メーカー「マイランズ」は、ロイヤルワラントの認定を受けており、ウィンザー城や博物館での補修にも使用されるほど英国で絶大な信頼を得ている。ケントは同社の総代理店となっており、すべての商品が並ぶ。

 ケントの本業は卸。日本の真ん中である静岡をベースにしているのは物流の効率を考えての事だ。土地も東京と比べて安いし、港もある。だから手ごろな売価を実現出来るのだ。更に、静岡でなければならない重要な理由が他にもある。

 「静岡は徳川家光が浅間神社を造営した時に全国から職人を集めたそうです。以来、定住した人達がいたので家具産業が盛んな土地になったんです。ですが、私が会社を始める頃は、各メーカーが中国に工場を作って、日本の職人さんの仕事が減ってしまった時期でした。それならばと、その職人さん達に来てもらって家具の修理をしてもらうことにしたんです」

 静岡のファクトリーでは、買い付けてきた家具を日本の職人技術を用いて丁寧に手直し、"世界一クオリティーの高いアンティーク家具"に昇華しているという。

 「昔、"行ったら最後、二度と英国には戻ってこないから、日本はアンティークの墓場だね"と言われたことがありました。英国ではアンティークとはトレードするもので、循環させるものと考えられています。確かに日本の同業の中には、売るけれど修理はしたがらない店があるのも事実です。イギリスに戻すのも距離があるので難しい。

 その代わり、長く使ってもらう為、次に直す時のことも考えて手直しをすることで、我々の販売した商品が日本でリサイクルされる仕組みを作っているんです」

次に直す時のことを考えてリペアする

代表の樋口さん。社名のケントは、小難しくなく、呼びやすい名前が無いものかと、英国の内装設計の第一人者、ウィリアム・ケントからとったもの。樋口さんの愛称というわけではない。

店のショーウィンドウには修理前の椅子と、周りには工具。雰囲気作りであると同時に、家具は直しながら大切に使うモノだというメッセージが込められている。

世界一クオリティーの高いアンティーク家具

1930's Chesterfield Sofa/
トラディッショナルなチェスターフィールドソファ。日本の住宅にもマッチする二人掛け。ケントでは永久修理サポートを宣言しているので、安心して購入することができる。

1930's Ibex Arm Chair/
背のトップレイルがアイベックス(ヤギ)の角をモチーフにデザインされたのが名前の由来。ウィンザースタイルのキッチンチェア。英国の代表的な家具である。

自分だけのアンティークを探しに

「DECO」の看板が掲げられた店舗奥のフロアには、什器やディスプレイ雑貨が集約されている。今夏オープンに向けて改装中とのことだったが、一足先に中をのぞかせて頂いた。

 同社で扱う家具の多くは1930年代頃のもの。当時の英国では、内需拡大の為に国もお金を出して中流階級向けの住宅が建設され、それに伴い家具も数多く作られたのだという。その時に建てられた家はそんなに大きなものではなかったので、現代の日本の住宅にで使うのにちょうど良いサイズなのだ。

「英国では早くから産業革命が進み、大英帝国の時代を経て素晴らしいものが溢れていた時代。戦後、世界的に物資が不足するまでの間に作られた家具は、価値ある良いものが多いんです。

 当時はデザイナーが前面に出ることもなく、工房が個々に家具を制作していた為、同じような様式の椅子だとしても微妙に趣が違います。そういう所に面白味が見いだせるのがその頃の家具の魅力ですね」

倉庫のように雑然と置いてある感じが、野趣にあふれている。雑貨類も物によっては磨いて店頭に並べる。その磨き方も研究していて、最良の姿にすることを心がけているのだとか。

ダイヤル式の電話と言えば黒電話を思い浮かべるが、さらに遡るとこんなスタイリッシュなものもあった。1890年頃に発明された初期のダイヤル式電話のレプリカ。

カメラ:Soichi Kageyama
テキスト:Junpei Suzuki
媒体:VINTAGE LIFE 14

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