2018.09.26

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

ボタンのある人生。STEFANO CANNARA氏の情熱と愛情と愛着と。

 ボタンのデザインをし、それを商品にしてお客様に納品する。それがここで紹介するステーファノの仕事。

 彼は高校を卒業後、ボタン会社へ就職し、ボタンの製造に関するノウハウ、工程を徹底的に学んだ。得意とするのは真珠貝。貝の切り出し方、仕上げの仕方など、その知識を活かしてデザインをしながら完成品を頭の中で構築して行く。その他、角、木の実など常に自然の材料を使ってボタンを製作。1990年に独立し、現在ではボタンのデザイン・製造、シャツの生地販売、ハンガーなどを北イタリアのクライアントに提供している。

 一見、もの静かな印象を受けるステーファノだが、話し始めると彼のボタンへの情熱が伝わって来る。朝起きてからずっとボタンのことを考えているらしい。話の途中で「今考えているデザインはどうだい?」と、スマホの中の写真を見せてくれた。それも1回では終わらない。新デザインの話は永遠に続く。

 彼の手帳を開くと、ブルーのボールペンを使った細かい字で毎日の予定がびっしりと書かれていて、それが片づくと横線がひとつずつ入れてある。まるでブルーのノートのよう。そして空間にはボタンの絵がたくさん描かれていた。まさにボタンのある人生である。携帯電話がPC代わりとなり、携帯電話を手帳代わりに使うのは性に合わないということで「自分の予定はしっかりペンを使い、手帳に手書きで記すのが一番!」と語ってくれた。

 ちなみに、1972年からの自分の手帳は全部保管してあるのだそうだ。

手作り=愛情ですね

1940年代のボタン。広い模様は1つずつ手描きをしている。色ごとにまとまっていて、閉店したショップから在庫を購入するなどして集めている。

 さて、ここからは彼のヴィンテージ話。両親が若いうち亡くなったステーファノは、幼い頃によく遊びに行っていた祖父母の家を相続する。その家は1800年後半に建てられ、家の中には戦前の物と彼らが亡くなった1960年代の時代の物で時間が止まっていた。彼はその時が止まったような「匂い」を今でも守っており、中でもハガキや手紙から1930年代に母親が読んでいた漫画など"紙物"に興味があるのだそうだ。

 そんな古い物に囲まれて育ったせいかヴィンテージの世界は彼にとって日常になっている。「ヴィンテージアイテムには愛情を感じます。まだ手作りでモノを作っていた時代には作り手の愛情がふんだんに注がれていました。手作り=愛情ですね」とはステーファノ氏。ある程度の歳になり少しのお金を持てるようになると、今度は愛情のある時代のものを探すようになった。

 それらを手に入れるとそのときの時代背景、彼らがどんな生活をしていたのかというイメージまで運んでくれるということだ。'80年代に入ると、徐々に電子製品の物が増えてくる。指先一つで何でもできるが、そこには人の手が介在しなくなってしまった。そこに愛情は運ばれて来ないのである。

 ボタンや布を扱うステーファノの倉庫に行くと、仕事関係の物ではなく古い物がいろいろなところに置かれている。正体不明の大きなガラクタのような物もある。が、彼にとっては愛情が感じられる大切な物だ。金額でもなく、ブランドでもなく、完璧さでもない。

 重要なのはステーファノの心に中にスーッと入ってくる何かがあるかどうからしい。

初めてのクルマはFIAT500

大きなBERKELの計り。「この倉庫にはなくてはならないものだよ。生地の重さを測るにはやっぱりヴィンテージの計りを使わなくちゃね。もちろん現役、生涯の相棒だよ」

ステーファノが初めて購入したクルマがフィアット500ということで、オブジェとしてフロントマスクを装飾。下は1925年製の教会の鐘楼の時計の機械。

イタリアのお菓子屋さんがかつてスイーツに使っていたロゴの型。全部で1240個あるとのことだが、今見ても新鮮に感じるデザインだ。真鍮の型は1800年末からのもので、アルミニウムの型は1920年代のもの。

古くて愛着のあるものたち。

1870年代から1930年頃まで使われていたという石のリトグラフィ(Pietra litografia)。写真は1900年初頭のものでかなり重い。

 中でも彼のお気に入りは教会の時計台に使われていた大きな機械だ。単体で置いてあっても、素人には何だかわからないが、聞くところによると当時の時計職人さんから譲ってもらったものらしい。1977年からの付き合いで、その方が亡くなるまでの35年間で、1830年、1902年、1925年に製造された3つの機械を譲ってもらったとのこと。

 「時計職人さんから教会の話、時計の仕組みなどいろいろなことを教えてもらった。この機械を側に置いておくことでその頃の時代を感じるんだ。教会は街の象徴、そしてヴィンテージは時代の象徴です」

 時計台の機械以外にも、倉庫にはステーファノの心にスーッと入ってくる物なら何でもある。アルプスの山々がイラストで描かれたブリキ製クッキーの箱。お菓子屋さんで使っていたロゴの型に、うさぎの形をした穴あけ機。サビたものでも、なぜかまわりには暖かさがある。古いモノの魅力はこの温かさなのであろう。

野うさぎというニックネームがある穴あけ機。うしろは昔のアイロン。錆びているが、どこか愛らしさがある。

テキスト:Yuko Noguchi
媒体:VINTAGE LIFE 18

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