2018.08.02

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

カセットテープカルチャー第二章の旗手『Waltz』

 「カセットテープ」。音源が録音されたテープを、カセットなボディにおさめた音楽メディアである。
 一昔前、確かにカセットが我々の生活の一部だった時代があったのである。LPをコピーすればいちいち針を落とす手間いらず、傷つける心配も無用。ドライブには編集した一本が必需品で、湘南はサザンとTUBE、苗場ならユーミンと広瀬香美だった。そしてウォークマンの登場。音楽が持ち出せる神機の誕生は、リスニングスタイル自体を変える黒船来航だったのである。
 ……書き連ねていくと、アナログ的オーディオシステムたちがその役割を終えた理由がよくわかる。今や、何度コピーしても劣化無しというデジタル様の台頭で、いつでも高音質が堪能できるパーソナルオーディオ時代。今時レコードや、まして「カセットテープ」を喜び勇んで使うのは、オーディオマニアに残された密かな楽しみと言っても間違いではない……。
 だからこそ、あえて断言したい。
 「今、カセットテープが面白い」。
 2016年現在、最もエッジーなメディアはカセットであり、それは過去に遡る事しかできない一方方向のタイムマシンではないのだ。

「カセットヘヴン」へようこそ

いわゆる中古カセットも、美しい状態を保っている。丁寧なメンテナンスに角田氏のカセット愛が感じられるのだ。細かい文字びっしりのPOPはライナーノーツ気分で。女性が一人で立ち寄る事も少なくない、居心地のよい空間である。

 東京は中目黒、「waltz」。居心地の良いカフェのごとき空間に癒されている場合ではない。店舗に足を一歩踏み入れると、目の前に広がるカセットテープの圧倒的物量。全盛期ですらこれほどカセットテープ推しのショップがあっただろうか? ここは、世界で唯一無二の「カセットヘヴン」なのである。
 それにしても、よくぞこれだけの数を集めたものだ……と感心する在庫量だが、オープン当初は、代表の角田太郎さんのコレクションでまかなったのだという。
 「元々、レコードショップのバイヤーをやったり、アマゾンの音楽事業を立ち上げたりと、仕事自体が『音楽』でした。そして、個人的にも大量のレコードやカセットを所有していて。それで始めたのがwaltzなんです」
 無論、音楽のプロである角田さんが流行やファッションで開業するワケもない。カセットの世界的再評価の上昇。時流を読んだ上での、彼自身の自己表現だったのだろう。
 「カセットって、レコードを作るよりも簡単だしお金もかからない。だから、新進のミュージシャンが新譜を作りやすいんですよ」
 新世代のアーティストが発表の場として求める桃源郷。それが、カセットテープなのである。

カセットを楽しむ「すべて」がある

店内の一角に設けられた「視聴室」。waltzの店内にあるすべての音楽、そして映像ソフトは、申し出れば誰でも視聴する事が出来るのもうれしい。

今やネットで高騰中のウォークマンがずらり。防水のスポーツモデルのポップな姿が目にしみるのだ。全て整備済みの完動品である。感動。

「カセット」はラジカセで聴きたい

1979 Hitachi TRK-8180/家電メーカーもこぞってラジカセを作っていた時代。日立パディスコは優等生的立ち位置のモデルで、V字アンテナも誇らしいスペーシーデザインにしびれるのだ。16cmウーハーが迫力の中低音、5cmツイーターがきらめく高音を再生するパワフルな10Wモデルは、当時6万9800円という超高級機。waltzなら整備済みが5万4800円で手に入る。

上/Sony WALKMAN WM-24/遡る事数十年、ソニーの井深名誉会長は、出張の度に電池も含めて1.7kgもあるデンスケを持ち歩いていたという。そこで試作された、スピーカー無しの再生専用機がウォークマンの元祖となったのだとか。WM-24は80年代半ばの銘機。
下左/Sony WALKMAN WM-33/最短距離で設計した超小型基盤を、クリーン電源である電池で駆動し、外的要因から切り離されたヘッドフォンで聴く。ウォークマンが高音質たる理由である。WM-33は、3ウェイのグライコで音が作れる。楽しい一台。
下右/Sony WALKMAN FM/AMモデル/ウォークマンで火がついたコンパクトカセットデッキ戦争は、各社のバリエーション競争へ。防水機能を装備したスポーツモデルは、ランナーからも人気だった。こちらは、FM/AMのチューナーを装備したマルチな一台だ。

テープの好音質に最注目したいのだ

「あの時代」を思い起こすなら、マガジンというタイムマシンがある。ポパイやan•anなど、時代を彩った雑誌たちには我々の憧れが詰まっていたのだ。その他、洋書のラジカセ本なども並ぶ本棚には、思わず時を忘れるタイトルがズラリ。

 カセットは、『懐かしのメディア』ではない。それは、waltzに並ぶ新譜が物語っている。そして、過去に発表された名作の数々もまた、聴き直す価値おおありなのである。
 「80年代は、録音のカルチャーでしたね。コピーを重ねれば、アナログは劣化します。ですが、ミュージックテープとして販売されていた『音』はいいですよ」。
 LPとカセットの値段は同じ。まずはLPを買ってテープに落として……という手順が一般的だった。それが、『テープは音質で劣る』という定説を生んだのだ。そもそも、レコーディングスタジオのマスターとして『テープ』に録音していた事を考えても、その実力は計り知れないのである。ぜひ、昔聴いたあの一枚をミュージックテープで体験していただきたい。磁性体に刻み込まれたアナログならではの生々しい再生音。それを聴いてなお、「懐かしい」とは言えないハズである。
 活発に発表される新譜。かつて発売された名作。「waltz」の棚にならぶカセットには、未だ体験した事のない驚きが詰まっている。ネオ・カセットムーブメントが更なる飛躍を遂げる時、waltzの名はパイオニアとして輝いているに違いない。

角田太郎氏。カセットテープカルチャーの第二章において、牽引役の一人としてその名があがる重要人物である。「waltz」を訪れた某有名ミュージシャンは、今まで苦労して世界中から集めていたカセットが、中目黒に集結していた事実にあぜんとしたとか。

カメラマンテキスト:Yoshiro Yamada
媒体:VINTAGE LIFE
号数:19

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