2018.08.02

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

走るヴィンテージと出会える桃源郷『葉山自転車市場』

 神奈川県、葉山。海岸線にほど近いロケーションに佇む「葉山自転車市場」は、ヴィンテージな名車が並ぶ桃源郷だ。中々お目にかかれない通好みのブランドから、直球の王道まで興味深いモデルがずらり。そこは、店主である門脇大作さんの人生を反映したショップなのだ。
 生粋の葉山人である門脇さんは、子供の頃から機械いじりが大好きな少年だった。打ち捨てられたフラッシャー自転車を自己流で改造したりするような「工作少年」は、ある日、近所に住む自転車選手と知り合いになる。そして、実は日本チャンピオンだった彼の競技車両を目にした門脇少年は、後の人生を変える衝撃を受けたのだ。「自分が知っている自転車と違う!」洗練されたデザイン、高い精度と剛性感。チャンピオンのロードレーサーが放つオーラは、少年の心に深く刻み込まれたのである。
 強く感化された門脇少年は、中学生になると本格的に走り始めた。初めてのオーダー車を作ったのもこの頃だ。「フレームを作ってくれる工房に行ったんです。小遣いを一生懸命貯めたんですが、全然足りなくて」。扉をたたいた細山製作所は、ハンドメイド自転車を今なお世に送り出し続けている銘店。なけなしの全財産を握りしめた少年の夢をかなえんと、注文通りのフレームを予算度外視で作ってくれたのだという。そして、フレームで全財産を使い果たした事を知ったショップの常連客がパーツをくれたのだとか。

ロードレーサーから紳士自転車まで

葉山自転車市場と店舗をシェアしているレザー工房「C.C.BAXTER」の看板犬、はるな。旧い自転車と愛くるしいワンコの組み合わせが、和やかな時間を演出してくれる。

 「逗子のトンネルの緩い右カーブ。駆け抜けた先が海。そのまま空が飛べるんじゃないかってくらい速い自転車でした」。
 そんな原体験を持つ門脇さんにとって、旧いクロモリ製自転車は、今でも最高のスポーツバイクなのである。「自転車の商売を始めた当初は、新鋭モデルを海外から輸入していました。ですが、カーボンやアルミのバイクが性能を発揮するのは最初だけなんです。その点、僕が買ったクロモリバイクは、今でも全然かわらない」。
 葉山自転車市場は、“旧い実用品が好きな人のお店”。門脇さんが整備した旧車たちは、乗る一台なのだ。「消耗品は、出来る限りストックするようにしています。ウチのパーツは販売車両の交換のため。パーツだけの販売はやっていないですね」。そんなお店ゆえ、ステータスとして旧車を持っていたい、というお客さんは、見事にいないのだという。
 「旧いお散歩自転車もいいですよ。本気でつくった高級お散歩号なんて、今は作られないですしね」
 旧いから良いのではない。当時のモデルが最高だから、その喜びを分かち合いたい。そんな心意気に賛同される方は、葉山自転車市場の扉を叩いてみる事をお勧めする。

日本では「知る人ぞ知る」通好みの名車たち

Early 70’s ZEUS 2000/スペインの名門、「ゼウス」。全盛期のエディ・メルクスと唯一渡り合えた名選手、ルイス・オスカーニャと共に戦ったロードレーサーである。ゼウスは、フレームだけでなくパーツも自社生産をするメーカーで、チタンボルトを奢ったリアディレイラーをはじめ、フォークのクラウンからエンドまで、「ゼウス2000」の刻印が。まさに「謹製」を貫いた訳だが、残念ながら現在は幻の銘ブランドとなってしまった。

Early 70’s LE JEUNE/ロードにスプリント、パヴェからシクロまで、ジャンルを問わず圧倒的な強さを誇ったフランスの「ル・ジュン」。先曲がりのフォークに描かれたブランド名も誇らしいが、門脇氏曰く「フランス贔屓からすると裏切り者的存在」なのだとか。フランスの強豪ブランドとして、初めてカンパニョーロを採用して勝ちにこだわったかららしい。当時のヌーヴォレコードが、高性能だったという事の証明でもある。

ロードレーサーだけではない魅力的な旧車たち

50’s PEUGEOT/自転車生活が深く根付いているヨーロッパには、「高級お散歩自転車」が存在する。この一台のペイントやメッキも、過ぎ去った歳月を感じさせない艶やかさが残されており、リアの工具箱も素敵。自転車屋さんがおいそれとある訳ではなかったから、パンク修理セットと工具は持ち歩くのだ。リアディレイラーはサンプレックスのリジデックスを装備。

カメラマンテキスト:Yoshiro Yamada
媒体:VINTAGE LIFE
号数:19

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