2018.09.19

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

創業233年の老舗和竿専門店。「いなり町 東作 本店」

"魚の数だけ竿がある"。釣り人というのはどうも強欲で、本当は竿なんて何でもいいかもしれないのに竿を買い集める……。ここでは、そんな道具好き達に愛される名店を継いだ、若き双子の兄弟のもとを訪ねた。

江戸の伝統を後世に残す、若き職人

 釣りを愛好する人には大きく分けて2種類の人間がいる。ひとつは"釣る"のが好きな人。もう一方は、"釣り"が好きな人。前者は魚を釣り上げる、そのアクティビティに魅了されている者。後者は、釣りという行為が好きで、どう釣るか、どうやって釣るかと考える事に夢中な者。

 どちらも、それはそれで釣りで、ハント&イートの人がいて、キャッチ&リリースの人がいて、そのハイブリッドの人がいるのと同じように、自分の思うように楽しめばいいだけ。なのだが、ここではどちらかと言えば"釣り"が好きで、竿や道具好きが喜ぶであろう、創業233年を数える老舗中の老舗和竿専門店「いなり町 東作本店」を取り上げる。

 紀州徳川家の藩士であった松本東作氏が武士の身分を捨てて開業した同店は、江戸和竿の起源とも言われている。現在その伝統を引き継いでいるのは、若き職人・東亮さん32歳(トップの画像右)。彼は修理や販売を担う双子の弟、松本脩平さん(トップの画像左)と共に、和竿文化を平成の世に伝えている。和竿職人の高齢化が進み、若くて60歳、大体は70歳以上の方が多いという中で、最古参の店を若い職人が継いでいるというのは結構なトピックである。

 「和竿っていうのは、修理やメンテナンスがついて回るものなので、売りっぱなしじゃないんです。だからこそ誰かが継いで後世に残していかないといけません。難しい業界ですが、道具を出している責任上ここはしっかりやらせていただかないと」。

 そう語るのは脩平さん。新しく竿を生み出すというのもそうだが、今までに出してきた和竿をメンテナンスするのも大きな仕事。和竿を長持ちさせたいのなら、小まめに調子を整えたり、漆を塗りなおすことが必要なのである。

 江戸和竿は、東京都の伝統工芸品に指定されているが、それは江戸時代からずっと技術が伝承されてきたからである。東作本店の工房にはその系統が見て取れる逸品が保管されていた。5代目と6代目の東作が合作した鮒竿は、素人が見ただけでも、その凄味が伝わってくる。

 東亮さんの本名は松本亮平。東作では代々、親方のもとで修行して5年で名前の後ろに"作"の銘が与えられ、10年で名前の頭に"東"の銘が与えられて、独立できるという。上の写真で東亮さんがやっているのは、原竹を火であぶり、矯め木(ためぎ)という道具で竹のクセを矯正する作業。基本的にまっすぐな竹は殆どないので、この工程を経て繊細に調整していく。

秋は江戸前でハゼ釣りを愉しむ

 同店ではタナゴ、ハゼ、フナを中心に、和竿とその仕掛け、その他釣り具全般を取り扱っている。店内に並んでいる竿は、大体が東作に師事を受けたお弟子さんの作品。一部昨年亡くなった6代目東作さんが作った竿もまだ並べられている。

 基本的に東亮さんがつくるのはお客さんの希望に合わせて竿を作る、いわゆるオーダーメイド品。注文から3~6か月で納品となるそうだが、好き者達は、そんなのいくらでも待つさと、来たる納品の日を待ちわびる。

 和竿をつくっている職人はさまざまいるが、東作に代々伝わる、そして東亮さんがつくる竿の特徴は何なのだろうか。東亮さんに尋ねた。

 「竹を継いでいくと本数が増えるので重量も増してしまいますが、そこで軽さを重視するのが東作流です。普通、軽さと強さは相反するものですが、竹選びから仕上げまで、竿をどう作るかが腕の見せ所ですね」。

 多くの和竿店では丈夫さを最優先にするあまり、完成した竿が重くなってしまいがち。東作伝統の和竿は、一日中持っていても疲れないように極力軽く作ってあるのだ。ただ、だからこそメンテナンスが必要になってくるわけでもある。それが億劫ならば丈夫さを重視した職人に竿を作ってもらえばいいし、極論カーボン等の化学繊維の方が丈夫で軽いのでそちらを選べばいい。ただ、竹竿らしい繊細さ、和竿で釣る楽しみを求めているのなら一度東作に足を運んでみるべきだ。

 と、ここまで書いたが、読者諸兄が思っているほどその敷居は高くない。東亮さんにオーダーするならハゼ竿で約4万5千円~、継ぎの多いタナゴ竿なら約4万円~。道具と呼ぶのが憚られるほど美しい出で立ちを見ると、決して高いとは思えない。大人の趣味としてはとても崇高な部類に入るだろう。そして、和竿でする釣りは身近で出来るのもいい。仰々しい服を着る必要もなく、船で沖に出る必要もない。気の合う仲間と、普段と同じような格好でただ糸を垂らせばいいのである。

時期が早かったものの小さいサイズのハゼが次から次へと。仕掛けはシンプルなフカセ釣り。最初はアタリをとるのが難しいが、慣れれば簡単。

気張らない、江戸和竿との付き合い方

脩平さんのいつものハゼ釣り道具。おかっぱりからハゼを釣る時は基本的に次々とポイントを探って移動していく為、荷物は全てバックパックに収める。竹澤さんが日本でTOPO DESIGNSのセールスをやっている事もあってTOPO率高め。何かと使える手ぬぐいは東作オリジナルのもの。竿は撮影用に沢山お持ちいただいた。愛用の竿袋は、江戸時代から続く唐桟柄だ。

 江戸和竿が好きな人は、粋なもので季節ごとに釣りの対象を変えていく。東亮さんと脩平さんも実際に定休日には釣りに出かけているという事で、その釣りに同行させていただいた。場所は旧中川の河川敷。気が早いが、もうすぐ秋という事でハゼ釣りにやってきたのだった。スカイツリーが近くに見える、江戸前な場所で小さなハゼを釣る。

 集まったのはいつものメンバーだそうで、昔からの常連さんである青柳さんと、和竿から釣りの世界に入ったという竹澤さん、松本兄弟とそのご友人。ハゼは船に乗り、両手に一本ずつ竿を持って釣る人も多いというが、皆さんはおかっぱりからのんびり糸を垂らしているのが好きなのだという。

 釣れるハゼは大きくても10㎝にも満たない小さなもの。それでも、中通しの竿から伝わる感覚は、それ以上。骨伝導じゃあないが、手元にハゼの躍動が伝わってくる。たかが竹と侮るなかれ、江戸和竿の釣りは思いのほかエキサイティングなのだ!

ウェストバッグの中に入れているポーチの中には、釣り道具が。アメリカのアウトドアブランドがある一方で、和柄の仕掛けケースもあるのが良い。

たまたまお勤め先の近所に東作があり、江戸和竿の魅力にすっかりハマってしまったという竹澤さん。和竿でハゼを釣っているとは思えないスタイリッシュな佇まいで、小継ぎのコンパクトになる中通し竿を振るっていた。

カメラマン:Yoshiro Yamada
テキスト:Junpei Suzuki
媒体:HUNT 13

NEWS of HUNT

ARCHIVES

RANKING

POPULAR TAG

NEWS

SEARCH