2018.08.01

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

南カリフォルニアでしか造れない、美味い酒。「VENTURA SPIRITS」

酒好きが高じて酒を造りはじめた4人が、南カリフォルニアにいる。 彼らが造るのは、ローカルの原材料を取り入れた自然派蒸留酒。梱包する箱すらもハンドメイドだ。

オフィスから数キロの場所まで、愛車のトヨタ・タコマでドライブ。仕事というよりピクニックにでも行く雰囲気。

 スーパーへ買い物に行くと必ずチェックしてしまうのがリカーコーナー、そうお酒だ。

 アメリカは日本とは比べ物にならないほど品揃えが豊富。ビールを始め、ワイン、スピリッツなど、ローカルメイドから輸入された世界のあらゆるお酒を扱っている店が多く、一つ一つのパッケージを見ているだけでも面白い。

 「お酒=体に良くない」というイメージもあるが、それは飲み過ぎてしまった場合の話。昔から日本でも酒は百薬の長と言われているのと同様、アメリカでも適量をたしなむなら身体にいいとされている。

 しかし他の食べ物と比べ、ラベルに掲載されている原材料の情報が少なく、特に遺伝子組み換えされた原材料が使用されていないかなど、不安を持つ人も多い。

 そこで最近ではNO GMO(遺伝子組み替えされてない)の自然派や、オーガニック系アルコール飲料も多く販売され注目を集めている。

 中にはローカルの農家や企業を支持している人も多く、店頭での商品説明ポップには"Made in California"、"Local Made"などの言葉が添えられている。要するに「Buy Local=地元の物を買いなさい」という地域密着形スーパーが増えてきているのだ。地元活性化と輸送エネルギーの削減を図れるというわけだ。

 製品が何処で作られているか? どのように作られたのか? 使用された成分はなんなのか? 以前はそんなことを大して気にしなかったアメリカ人が多かった。だがここ10年で劇的に変わった。最近では日本以上に食品の安全性やトレーサビリティを知りたがる人たちが多くなったように感じられる。

オフィスでもハーブハントでも、愛犬とはいつも一緒。こんな山やファームで自由に走り回れるとは幸せ者だ。

オーガニックというより、野生そのまま

ジンに使うハーブは、自ら山の奥深くまで入って採取する。近所とはいえ手間のかかる作業だが、この情熱がジンの品質を保っている。業者から出自のわからないハーブを仕入れるのとはワケが違う。

 そんな人々が通う自然派を多く取り扱う大型スーパー「Whole Foods」で酒をハントしていると、パッケージだけでビビっと来るジンに出会った。それが「Ventura Spirits」との出会いだった。

 熊と人間が放浪しているようなパッケージラベルのイラストを見た瞬間に虜になってしまい、ジャケ買いをしてしまった。一口飲んでみると、今までに飲んだ事の無いハーブが効いたジンの薫り。しかもラベルの説明書きには"not the Queen’s gin, it's Wilder."の言葉。要するに、イギリスのジンとは違ってワイルドなんだぜ! と言ってる訳だ。なんだか作っている人たちに会いたくなり、すぐさまコンタクトをとった。

 ベンチュラは地名で、ロスからクルマで約1時間北にいったところにある。農業が盛んで、イチゴなどの果物の産地としても有名だ。メールを一発送ると、マーケティング担当のジェイムスがすぐにOKと返信をくれた。べンチュラの市街地を抜け、山間の方へと向かう。石油を掘る掘削機があちらこちらで稼働しており、ロスとは全く違う雰囲気だ。出迎えてくれたのは、会社の壁に大きな社ロゴをペイント中のアーティスト、エリックとわんちゃんだった。

 2011年にスタートしたベンチュラ・スピリッツ。主要メンバーは、お酒を造るノウハウがあったアンソニーと兄弟のアンドリュー。そしてヘンリーとジェームスの4人組。集まってお酒を飲んでいる時にしていた、ハンドメイドで自然派の蒸留酒を作ってみようか!? なんて話が現実になったというわけだ。彼らは大量生産の既製の酒には飽き飽きしていたという。

 コンセプトは、ローカルの風味を入れて他には無いお酒をつくること。普段嗅ぎ慣れた香りを効かせようとした。その結果生まれたのがジン・ワイルダーだ。南カリフォルニアの山に生えているハーブの香りを取り入れたのだった。

 またある時、毎日クルマで通り過ぎるイチゴ畑の脇に、熟れ過ぎたイチゴが大量に捨てられているのを見つけた。それを再利用できないかと思いついて作られたのが、ウォッカ・カリフォルニアだ。とは言ってもイチゴの味はしない。香りにイチゴのエッセンスを取り入れたのだ。ほんのり甘く酸味薫るイチゴには、飲む人を飽きさせない魅力がある。

普段トレイルを歩いていればよく嗅いでいる匂いだが、改めて真剣に確認してみると、一段と深い香りが鼻の奥まで漂ってくる。パープルセージ、セージブラシなど、群生している新鮮な植物は最高だ。

大量生産の酒には飽き飽きしていた

ジンに使用されている主なハーブは、パープルセージ、セージブラシ、サンタ草、マンダリンの皮など。南カリフォルニアならではのローカルセレクションだ。

ウォッカを作る為にしぼったイチゴのかす。これらは農家に運ばれ、肥料や餌として使われる。

 ほかに、サボテン科のオプンチアになる実を使った蒸留酒もある。こちらはテキーラとはまた違った味で、カクテルなどには格別だ。

 ジンに使うハーブなどの原料は、ジェームズ自らがハントする。そこは会社から一山越えた、キャシタスバレーファームの山だ。以前は何も無い山だったが、数年前彼の友人がオーガニックファームを設立。 豚、鳥などの家畜を飼育し、アボカド、リンゴ、ベリーなど果物を有機栽培している。

 急斜面のトレイルを愛犬と共に登る。山から滑り落ちそうになりながらハーブを選りすぐる。オーガニックというより、野生そのままだ。

「こんなにワイルドだから、ワイルダーってネーミングにしたんだよ!」

とジェームズは笑った。

 キャシタスバレーファームは、すべてオーガニック栽培をモットーとしている。それには良い土壌が必要となるため、ミミズ繁殖すらも行って良質なコンポストを作っている。そこでジェームズは、ウォッカ・カリフォルニアを作るために使用したイチゴの搾りカスを提供している。市場に出せないイチゴを使って酒をつくり、その廃棄物を肥料にする。美味いジンやウォッカを作ることで循環型農業が実践されていることに驚きを隠せなかった。

地元では一般的なハーブに目を付けた

山から採取してきたハーブ類は、工場内できれいにつり下げてよく乾燥させる。一枚一枚広げて行くのは面倒な作業だが、いい酒を作るための大切な行程だ。

新商品開発の為にハーブなどの原料配合、調整テストを行う。ボトルには調合した内容の%が書かれている。

極上のカリファルニア・スピリッツ

この宇宙船のような形をした270ガロン用スティル(蒸留機)は、一度に750mlボトル約400〜500本ほどのスピリッツを造りだせる。

オーガニックの高濃度アルコールと使用するハーブ類全てをタンクで混ぜ合わせ、一晩寝かせる。

箱、印、全てがハンドメイド

現在販売されているジン、ウォッカ、Prickly pear(サボテンのから出来たお酒)の他にも、開発中のウイスキーが樽の中で目下熟成中。4年の歳月を必要とし、商品化できるのは今から2〜3年後とのこと。

配送用箱のプリントもすべて手作業で行われる。一箱ずつ微妙に異なる印刷の高さや擦れが絶妙の雰囲気を醸し出している。

地域に根ざしたローカルなファームスタンド

CASTITAS VALLEY FARMの敷地内。ぐらぐら揺れる吊り橋を渡ると、週末にオープンしているファームスタンドへと続いている。

自家製ソーセージも販売している。スパイシー味やスイートイタリアン風味など、どれも格別に美味。

 ここまで読んだ皆さんは、きっとベンチュラ・スピリッツのお酒を飲みたくなったことだろう。だが現在これらのお酒を扱っているのは南カリフォルニアでも限られたお店やバーのみで、これからも製品管理重視の為、大量に生産する事は考えていないという。

 なにしろ彼らは、瓶詰め、ラベル張り、コルクの焼き印、段ボールのパッケージプリントなどを自分たちだけで行っているのだ。いいものを作りたい。自分たちもおいしく飲める本物のお酒を造りたいという情熱が、ベンチュラ・スピリッツにはギッシリ詰まっているのだ。

 現在はウイスキーとブランデーを製造だが、出来るまでに計4年の年月を要し、まだ2〜3年はかかるとのことだ。他にも海藻を使ったお酒なども開発中とのことだから楽しみだ。もしあなたが今後、南カリフォルニアを訪れることがあるなら、「ベンチュラ・スピリッツを飲ませる店を教えてくれ」とあちこちで聞いて回ることをオススメする。

こんなに愛おしい子達を目の当たりにすると食するのをためらってしまう。我々は日々動物の命をいただいて生きている事に感謝しなければいけない。

白黒のしま模様が特徴でアメリカ原産のニワトリ「プリマスロック」。広い敷地内で放し飼いされ、豚と共存して暮らしている。

PHOTO&TEXT:Yas Tsuchiya
媒体:HUNT 8

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