2018.08.10

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

天体の動きに従って農業を行う。古き良き、そして最新のオーガニック農園「ONE G...

ロスの太平洋側に面した隣町、マリブ市。著名人たちの別荘もある高級住宅が立つ山の中腹にあるランチ(RANCH。農園)で、大勢の動物が放し飼いにされ、少し変わった農法で野菜を育てているモダンファーマーがいた。

もっとも進んだオーガニック農業

 ここ最近、アメリカではオーガニックが非常に大きな流れとなっている。スーパーやファーマーズマーケットといった朝市等では、オーガニックの文字を必ず目にする。アメリカでは野菜、果物のみならず、食肉、乳製品、加工商品にもオーガニックが浸透している。

 USDA(農務省)や州の衛生局が認定したオーガニックロゴを街のスーパーで見かける事は多くなった。多くはUSDA傘下の全米オーガニックプログラム(NOP:National Organic Program)という制度により、オーガニック食品の認証が行われている。資源の循環を育み、生態系のバランスを整え、生物多様性を保護することが可能な、文化、生物、機械を使用して行う農法を取り入れたもの。合成肥料や下水汚泥、放射線照射、遺伝子操作は使用してはならないなど、基準は非常に厳しい。

 そんなオーガニックを超える土壌と植物、動物の相互作用だけでなく、天体の動きにも着目した農業がある。それは哲学博士ルドルフ・シュタイナーが提唱した、バイオダイナミック農法だ。月やその他の天体の動きが植物に与える作用を重視した農業暦を用いた栽培を行う。さらに肥料も独特。化学肥料は一切使用しないのはもちろんだが、例えば雌牛の角に糞を詰めて冬に土の中に埋め、それを雨水で希釈し散布、特別に調合したコンポスト(堆肥)を使用する。

 その手法を使ってマイクログリーン(発芽しておよそ2週間からひと月ほど経過した新芽と成育した野菜の中間の状態のもの)を作っている農家が、ロスにある。雑誌やネットなどでも取り上げられるほどユニークなアーバンスタイルのファーム、One Gun Ranchである。

ケールやほうれん草、ルッコラ、パクチョイ(広東白菜)、ロメインレタス、バジルのマイクログリーンは、レッドウッドの木箱に入れて栽培している。

"RANCH"とは、農場と牧場両方の意味を持つ言葉だ。まさにOne Gunに相応しいわけだが、販売するのは農作物だけである。

東京ドーム2個分の広大な敷地

ランチには5頭の馬、3匹のヤギ、6匹の羊、3匹のアルパカ、2頭の豚、11匹の犬、そしてドンキー(ロバ)とオオハシがいる。まるで小さな動物園の様だ。

ファームを運営するアリスとアン。彼女達はヴィンテージカー、バイクなど乗り物好き。マスタング、トライアンフを所有しており、撮影のロケ地として使用されることもある。

 太平洋を見下ろすサンタモニカ山の中腹にある、セレブ達も多く住む高級住宅が建ち並ぶマリブ市。中心街から長いワインディングを抜けた先にそのランチはあった。ロスからクルマでわずか30分なのに、そこは自然豊かでのんびりとした山間。携帯電話の電波も入らない。

 エントランスにはOne Gun Ranchの名前が掲げられた大きなアーチ。インターホンから取材に来たことを告げると、木製な大きなゲートは自動で開閉した。そこからオフィスまでの道は、農家というよりも隠れ家やリゾートホテルにでも来た様な雰囲気だ。

 眼下に広がるのは広大な24エーカー(東京ドーム約2個分)の敷地とバイオダイナミックで栽培されているハーブ。ショップ兼オフィスから出迎えてくれたのは、広報を担当しているフェリシアとマックスのお2人、そして犬のウイスキーだ。

 まず最初に、気になっていたOne gunという名前の由来を聞いてみた。その答えは「この牧場をもともと所有していたのが、あのロックバンド『ガンズアンドローゼス』のマット・ソーラムだったから」とのこと。

 現在のオーナーはアリスとパートナーのアン。アリスはボルティモア出身だが、イングランドで育った。アリスの両親はイギリスのグロスターシャーで彼女が生まれる前からオーガニック農場を経営しており、アリス自身も昔から家族の農場を手伝う事は日常茶飯事。映画関係の仕事をしていた時にカリフォルニアに旅をする事も多く、5年前にここマリブに定住することを決めた。

 彼女はこの地で、子供の頃にイギリスで学んだバイオダイナミック農業を行うことを決めた。彼女は細心の注意を払いながら数年をかけ、種を撒いただけで元気に育つほどの素晴らしいコンポスト(堆肥)を作ることができたのだ。

大切なのはコンポストと天体の動きを測ること

WILD EDIBLES SALOON。野生の食べ物について語る部屋、といった意味だろうか。それにしても、いちいち気が利いているから大したもんだ。

至る所に古き良きアメリカの西部開拓時代を彷彿させる農具などが無造作に置かれ、ランチと自然に溶け込んでいる。これらの器具もオーナー自らがハントしてきたモノだ。

馬、豚、羊、ヤギ、ロバ、アルパカ

ランチには5頭の馬を飼っているが、中には競馬で走っていた有名な競走馬もいる。レースに出場できなくなるなど、リタイアした馬を引き取って飼育しているのだ。

 野菜は種から育てているが、畑に植えるのではなく、北カリフォルニア産レッドウッドの木箱に入れて栽培。それには2つの理由がある。ひとつは、せっかくの堆肥と普通の土を混ぜないため。そしてもうひとつは、木箱に入れた方が、使う水を細かく管理できるからだ。カリフォルニアでは干ばつが頻発しており、水不足は深刻な社会問題になっている。One Gunの敷地には井戸もあり、しっかりと節水対策を行っている。

 また彼女らは何も外部に委託せず、自分たちだけで全てを行っている。売却できなかったり消費されなかったマイクログリーンは堆肥にリサイクルされ、動物のえさとなる。その動物のフンは肥料となり、植物の栽培に生かされる。このように全てを事故で賄うサイクルをCLOSED LOOP SYSTEMというが、バイオダイナミック栽培で最も大切な循環過程なのだ。

 One Gunの敷地の中には、馬を飼育する広大な牧場がある。その他に豚、羊、ロバ、さらに飼えなくなった人から引き取ったというアルパカや、レディーガガのPVにも出演したというヤギも放し飼いされていた。そして、無造作に置かれたヴィンテージのエアストリーム。One Gunのオリジナルカラーにペイントさせた1973年製のフォードピックアップも訪れた人の目を引く。

 西部時代を彷彿とさせるキャビンやキャンプもできるティピーなど、どれもそのまま映画の撮影にでも使えそうなセッアップだ。

月やその他の天体の動きと、種まきや苗の植え付けなどが表になった、One Gunオリジナルのポスター。

ここの農作物は地元でしか手に入らない

オフィスのボードには、月や天体の動きが記されている。これに従って種まき、植え付け、収穫などを行うため、農場にとっては重要なインフォメーションとなる。

 ロスに近いこともあり、One Gunは地域社会と密接に関わり、連携に力を入れている。毎週の様に地元の学生グループが牧場で家庭菜園について学び、ヨガのクラスも開催。UCLAなどの大学や地元の慈善団体とプログラムも行っており、社会貢献活動にも積極的だ。

 わずか5年目にして安全基準が特に厳しいDEMETERの認定も取得し、更なる注目度があつまるOne Gun。ここで栽培されたグリーンはローカルのスーパーのみで購入でき、ビバリーヒルズなどにある数軒のレストランで食す事ができる。

 アメリカ=ジャンクフードの観念はもう古いのかもしれない。これからは“究極のローカルメイド”マイクログリーンが、ロスでは主流になって行くだろう。

広報などを担当するフェリシアが持つボックスは、誕生日やクリスマスシーズンなどにギフトとして贈れるファームボックス。種類も豊富で個人でも買えるので人気が高いアイテム。

PHOTO&TEXT:Yas Tsuchiya
媒体:HUNT 8

NEWS of HUNT

ARCHIVES

RANKING

POPULAR TAG

NEWS

SEARCH