2018.08.16

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

美しい王女の名を持つアグリツーリズモ「PRINCIPESSA PIO」

自然豊かな地で、その地に根差した食や景色を楽しむ——それがアグリツーリズモ最大の魅力だ。市街地に位置しながら、4エーカーの広大な土地に農場と素晴らしい宿泊施設を備えた、真新しいアグリツーリズモを訪ねた。

フェラーラの中心部は、周囲約9kmの城壁に囲まれている。「PRINCIPESSA PIO(プリンチペッサ・ピオ)」から歩いて5分ほどで、その城壁を伝う緑道に辿り着く。

その土地固有の文化や食事を大切にする

これから植えられようとする苗が片隅に置かれていた。訪れたのは5月だったので、今頃は収穫の時期を迎えているかもしれない。

我々が訪れた直前にプリンチペッサ・ピオで行われたイベントのチラシ。宿泊や食事だけでなく様々な形で地元フェラーラの良さを伝えている。

 イタリアにおいて、「アグリツーリズモ」はもはや一時の流行ではなく、旅の一形態として確立されている。アグリ(農業)とツーリズモ(観光)を組み合わせた造語で、農業地帯において宿泊や食を愉しむことを指す。

 その歴史は、1960年代、トスカーナ州のシモーネ侯爵が「アグリツーリスト協会」を設立したことに端を発する。当時トスカーナの小作農の暮らしは貧しく、空き家が目立ち、過疎化が進んでいたという。広大な丘陵地帯、地元のワインや野菜やチーズ、そして都会の喧騒や観光地の賑やかさとは無縁の安らぎを感じられる農村を、何とか元気にできないか──そんな試みだった。

 休暇を過ごす手段のひとつとして定着したのは80年代以降。現在、イタリアのアグリツーリズモは約2万軒、ベッド数約20万床ほどあり、年間300万人近くが利用しているという。

 当初アグリツーリズモは、あくまでも農業が第一で観光は二の次といった副業的な意味合いで取られることが多かったが、美味しい食事や美しい風景が人気を呼び、農業を凌ぐほどの収入を観光業から得る家庭が増えはじめる。すると、都会からのUターンやIターンによる移住者がアグリツーリズモを手掛けるようになった。

 都会に住む人の気持ちがわかる彼らは、より地域に根差した食べ物や、美しい田園風景や、田舎らしいこじんまりとした、だが可愛らしい建物を提供し、アグリツーリズモの人気はさらに高まったのである。

熟れ頃のイチゴ。デザートとして宿泊客に提供されたり、ジャムに加工して販売するという。残念ながら我々の食事に出ることはなかったが。

プリンチペッサ・ピオでウエディングを行うこともできる。1階にあるレストランの緩やかに弧を描く天井はレンガ造りで、伝統に則っている。

比較的素朴な、だが素材本来の味を上手に引き出した料理が並ぶ。ワインは地元エミリア・ロマーニャ州名産のランブルスコ(発泡赤ワイン)が美味!

子供に農業体験を提供し、地元貢献も行う

吾輩はブタである。名前はまだ無い。……コレはホント。雌が2頭で、共に生後3〜4か月。子供たちの農業体験等のために飼い始めたのだという。

 アグリツーリズモの普及は、スローフード、スローシティにも大きな影響を与えた。その土地固有の食べ物や文化、暮らしを大事にするという動きが生まれ、都会より田舎を好む人々が増えたという。アグリツーリズムは、単なる宿泊の一形態ではなくイタリアの社会構造をも変えたといえるのだ。同じようなことが日本でも実現できれば……と思ってしまう。

 前置きが長くなってしまったが、今回我々編集部がイタリアで宿泊したプリンチペッサ・ピオも、そんなアグリツーリズモのひとつ。人口約13万人ほどのコムーネであるフェラーラの中心部にありながら、その敷地は4エーカー(約4,900坪)と広大。しかもそのほとんどは農園や庭で、文字通り緑に囲まれた中に、木と石で造られた端正なホテル(と呼びたくなるほど立派!)が建つ。

 外観同様、室内の仕立てもシンプルかつクリーンなデザインが印象的。華美さや豪華さよりも、居心地のよさを追い求めているのがよくわかる。食事は地産地消にこだわっており、原産地が保障された地元エミリア・ロマーニャ州の伝統的な製品のみを使用。農園では野菜、果物を栽培し、養蜂も行っており、最近はニワトリやブタも飼い始めている。

「地元の幼稚園の子供たちを呼んで農業体験をさせたりといった、社会貢献活動も行っています。フェラーラは大きな都市ではありませんが、ここは中心部ですから、土と触れ合う機会が少ないお子さんもたくさんいるのです。プリンシペッサ・ピオは単なる宿泊施設としてだけではなく、訪れる人には家族と一緒にいるかのような安らぎを感じてほしいと思っています。

また、エミリア・ロマーニャの伝統的な素晴らしさ──ワインやチーズ、ソーセージなど食べ物の美味しさや歴史の深さ、街並みと自然の美しい調和を愉しんでほしいと思っています」

と、ディレクターのディレッタ氏は語ってくれた。

ミツバチの巣箱。採取した蜂蜜は瓶詰にして販売する。元気にブンブン飛んでいたので、あまり近づくのは止めにしておいた。

朝食はパンやパウンドケーキ、フレッシュジュースなど、自家製のものが並ぶ。連泊できたら、のんびりと食事、読書、睡眠などを楽しみたいものだ。

テキスト:Yoichi Sakagami
媒体:HUNT 5

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