2018.08.25

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

グランピングリゾート「星のや富士」で命と食を学ぶ(後編)

贅沢なだけのキャンプなら一過性のブームとして終わってしまうのでは? と懸念がある中、2015年に本格的なグランピングリゾートとしてオープンした「星のや富士」。彼らが提案する様々なプランが興味深い。昨秋に初めて実施された「命と食を学ぶ狩猟体験ツアー」がHUNT的に気になったので、実際にツアーに参加した。

星のや富士が提案する「命と食を学ぶ狩猟体験ツアー」とは

 星のや富士ではオープン当初より、通年の「湖上の早朝カヌー」、「樹海ネイチャーツアー」他、季節ごとにおすすめのアクティビティが充実している。

 夏は「グラマラス富士登山」「夏の森グランピングリトリート」、秋は「紅葉富士のホーストレッキング」など富士の自然が満喫できる興味深いものばかりだが、一際興味をそそられたのは、「命と食を学ぶ狩猟体験ツアー」だ。猟銃の免許があるなら別だが、一般の宿泊客が体験できる狩猟ツアーとは、一体どんなものなのだろう? 期待に胸を膨らませながら待つことわずか、キャビン近くの待合に迎えの車が到着。想像していたよりずっと若い猟師さん(!?) の案内で、星のや富士から車で30分ほどの本栖湖周辺まで移動する。

野性味溢れるジビエが提供される背景

 星のや富士では、「狩猟肉(ジビエ)ディナー」を通年食べることが出来る。そのメニューも多彩で鹿肉のステーキはもとより、鹿の希少部位を使用したモツ煮や柔らかなロースやモモ肉のしゃぶしゃぶ、猪とキノコを豪快に合わせたすき焼き、昨夜いただいたダッチオーブンディナーなど、他の施設ではなかなか食せないワイルドな味覚が味わえる。その背景には、昨今、全国的に問題になっている鹿・猪の増加による農業、林業への被害が深刻化していることにあったそうだ。

 そこで、ただ闇雲に害獣として駆除するのではなく、鹿肉・猪肉を魅力的な食材として活用することで、捕獲・消費の促進に貢献したいと考え、シェフ自ら狩猟の現場に出向きメニューを開発。地元猟師から美味しい食材へと昇華させるための狩猟や解体技術を学ぶと同時に、その過程で命をいただくことの重みに触れ、少しでも多くの人に知ってほしいとの思いからツアーも発案したのだという。

柔らかな鹿肉のロース、モモ肉を使用した「山麓の鹿しゃぶ鍋」。冬の鹿肉は臭みが少なくシンプルに味わうことで旨味が引き立つという。キャビンのテラスにしつらえられたコタツでいただける。

スギ林における鹿の剥皮被害の状況。

狩猟から解体まで、一流の猟師からこだわりを学ぶ

 富士五湖でもっとも西に位置する本栖湖の周辺は青木ヶ原樹海に隣接し、豊富な食糧があること、人の立ち入りが少ないことから鹿や猪の頭数が特に増え続けているエリアである。

 この辺りは土地も平坦で、身が締まり過ぎず脂がのって柔らかい肉質の鹿や猪が獲れるそうだ。約30分のオリエンテーション後、車で森へ入り午前中は狩猟を見学。実際に鹿を仕留めた際は、その場で血抜きや第一段階の解体作業を行う。昼食後は捕れた鹿の解体作業を見学し、その一部を体験するというのがツアーのスケジュールである。

銃を構える猟師歴40年以上の滝口雅博氏

 このツアーでガイドをしてくれるのは、この道40年以上のベテラン猟師、滝口雅博氏と弟子の古屋永輔氏。滝口氏は猟師だけではなく、山梨県で鹿肉処理加工業第一号である「ジビエ食肉加工施設」の所長であり、星のや富士をはじめとする近隣や都内のレストランへ鹿肉を卸している。自身もレストラン「松風」を経営。まさに狩猟から調理までのエキスパートである。

 ジビエは臭い、まずいという印象を持つ人もいると思うが、狩猟肉の味は、仕留め方や血抜き、温度管理、解体技術、それらに一連の素早さが左右する。滝口氏は鹿・猪の生態を知り尽くし、一貫して自らの手で処理を行う。それら全ての工程に高い技術が注がれる為、全く臭みのない上質な狩猟肉の流通を実現させているのだ。

 このツアーでは、実際に滝口氏の狩猟から解体までの一連の流れを目にすることができ、ツアー後には当日解体された肉が熟成されたのち、後日届けられる。実際に獲ったお肉の上品さ、旨味をリアルに味わえるのだ。

期待を胸に、山に入る

 狩猟体験ツアーで行うのは、主に「わな猟」と「忍び猟」である(猟の方法はその日の状況により変わる)。「わな猟」は前日までに5〜6ヶ所に仕掛けられたわなを確認しながら森を歩き、捕獲物がわなに掛かっていたら仕留める。

 「忍び猟」はオスのテリトリーに忍び込み、猟師同士の緊迫感のある会話を無線で聞きながら、80kg以上の個体を追い詰めて猟銃で仕留める。どちらもいたってシンプル。

狩猟体験ツアーの「わな猟」で主に使用する"足くくり罠"。体重の軽い子鹿は擦り抜けることができるように仕掛けられる。

わなを仕掛ける1番のコツは、獣達がメインで通る道(人間社会でいう国道)に仕掛けること!

 初めての狩猟見学に、不安と期待に胸を膨らませながら森に入る。わなの仕掛け方を教わりながら森の奥へ進んで行くと、先に森に入っていた滝口氏から弟子の古屋氏に連絡が入る。この日は……残念なことに獲物はかかっていなかった。こればかりは仕方がない。そんな今日のツアーは森の探索となった。

 しかしそれも一興。この山は少し歩いただけでも山菜や、どんぐり、キノコなどが見つけられる森の恵みに溢れた山。なるほど鹿や猪が増えるわけである。猟師の仕事は狩ることにあるが、狩る為にはその山の情報収集をする必要もある。

 そんな説明を受けながら、鹿の足跡を見つけたり、獣の通った気配を感じつつ、各所に仕掛けられている罠を一つ一つチェック。次の日の為に新しい罠を仕掛けていく。罠猟は場所の設定が一番難しく、仕掛ける場所は鹿や猪が必ず通るという獣たちの「国道」付近。近くに水場があり、餌も豊富な場所だ。人間の匂いをいかに消すかも重要なので、富士の冷気がと通り人の匂いを飛ばしてくれる場所を見極めるのだ。

猪が体を擦り付けた跡。縄張りの主張や、体が痒かったり、或いはダニなどを洗い落としたり付着するのを避けるために行う。

森のあちこちで立ち止まり、獣の跡や落ち葉などから森の様子を細かくレクチャーする滝口氏。

あちこちで見られる鹿の糞で雌雄の判断ができる。オスは角張っていて、メスは丸みを帯びている。

実際にわなに捕獲物が掛かっていたら

 猪や大きな雄鹿の場合は角もあって危険なため、滝口氏がライフルで撃ち仕留める。1発で脳死させ心臓が動いている状態のまま心臓マッサージをして素早く血抜き。食肉として流通させるものであれば素早く加工場まで移動させてからだが、普通の猟師の場合は、解体の第一段階をこの場で施す。

 モモ肉、前足、背ロース、内ロースに切り分けるのだ。「ハンターカット(インディアンカット)」と呼ばれる木の枝にモモの部分を肉と骨に分けて吊るし、肉の流れに沿ってカットする原始的な解体手法を行うこともあり、80kg〜100kgの個体なら、30分もあれば完了するという。

仕掛けたわなにかかっている雌鹿。

一発で脳死させた後、心臓が動いている状態で心臓マッサージをして素早く血抜きをしている様子。

血抜き後、肉を木の枝に吊るしてインディアンカットを施す滝口氏。

 正しく切り分けられた肉を冷蔵庫で一晩保存すると、翌日には固く張りが出て大きく盛り上がり、庫内で黄金色に輝く。これが最高の肉である。なぜ盛り上がるのか? それは肉が"生きている"からだと滝口氏は言う。こういった高度な技術に裏打ちされた一連の工程から、一流のレストランも認める上品かつ旨味の凝縮された"いい肉"が生まれるのだ。う~む昨夜の「狩猟肉ディナー」が思い起こされる。
 
 肉を外した鹿の個体は基本的には埋めるが、皮をかけて森を去ることもある。人家の側や登山道で罠に掛かっていた場合は捕獲物を持ち帰るが、人里離れた山奥で獲れたものは、命を頂いた分、少しでも無駄にすることのないよう森に返す事で循環させたり、仕掛けてある箱檻の周辺に置き、猪などの捕獲を促すこともあるようだ。

わなを仕掛けたり、鹿革をかけたりする作業の一部を希望があれば同行者も体験することできる。 因みに、参加者が装着している時計はSUUNTO TRAVERSE ALPHA CONCRETE。フィッシングやハンティングに役立つ機能を搭載したGPS/GLONASS対応ミルスペックウォッチ。気圧インジケータや、射撃による振動を感知して自動的に射撃位置を記録する機能、夜間の使用に適したレッドバックライトなど多彩。ダイアリー機能を活用してハンティングのデータを保存することができる。またスタート地点を保存しておけば、万が一道に迷っても来た道を戻ることができるほか、機能満載の優れものである。

こうしておくと骨以外4日で何もなくなるという。肋はカラス、内臓はタヌキやキツネの冬場の餌に。毛皮はヤマガラやシジュウカラの小鳥の巣となる。

 昼食後は捕れた鹿の解体を見学。レクチャーを受けながら実際に解体作業の一部を体験する。この工程は鹿が当日罠に掛かっていなくても、前日迄に捕獲し皮を取り除いてある鹿肉での解体作業を見学できる。鹿の体の構造を知り尽くした滝口氏の作業はあまりにもスムーズかつスピーディで無駄がない。

 わずかな時間で見慣れた肉の部位へと形を変えてゆく。午前の2時間、昼食を挟んで午後2時間ほどのツアーはここで終了。何もかもが新鮮な体験だった。

スムーズかつスピーディーに鹿肉の解体作業を進める滝口氏。

参加者に鹿肉解体及び部位などのレクチャー。

次世代の猟師を育てる

 現在64歳になる滝口さんは、20歳から44年もの間猟師をしている。昔の猟師は若手の育成をしなかった為、今や猟師の世界でも高齢化が進み若手不足が深刻だという。そこで、体力がなくなるであろう70歳になってからでは遅いと一念発起。

 この技術を若い人に伝授すべく昨年から弟子をとっている。他の地域でも希望者がいれば山梨に移住してもらい、捕獲から処理加工、販売までを積極的に指導。その第一号が朝方ピックアップに来てくださった古屋氏というわけである。

 彼は本職はダイバーでキャリアも長く、主に本栖湖でダイビングツアーのガイドをしている。師匠曰く、今年に入ってやっと少しエンジンがかかってきたとのことだが、知識が豊富で職人気質の親方のような師匠と通訳のようなホスピタリティ溢れる弟子との掛け合いを聞くのも、このツアーの楽しみの一つである。

滝口雅博氏は20歳で狩猟免許を取得。狩猟歴44年。北海道遠征を重ねて狩猟、解体技術を習得。平成21年山梨県第1号のジビエ食肉加工施設の所長に就任。現在、若者の育成、ジビエ料理の普及にも尽力を注いでいる。

滝口氏に弟子入りして3年。猟のマナー、捕獲から解体、料理に至るまで英才教育を受け、現在一流の猟師への道を歩んでいる。

星のや富士の提案する、大人の食育

 今回の「命と食を学ぶ狩猟体験ツアー」は、知見からくるものではない "猟"のリアル、管理捕獲により捕らえた鹿を仕留める様子から解体、精肉加工を経て食材になるまでの工程全てを見学し、体験ができる。実際にベテラン猟師に同行することで、今までとは違う視点から森を見、感じ、知ることで、命の重みを身近に捉え、延いてはは自然環境や産業へと思いを巡らせる。今までの価値観を覆されるかも知れない。これはまさに「大人の食育」だ。

 きっかけは、面白そう! という興味本位でも構わない。普段から環境問題など、さほど興味がない人にこそ寧ろ体験してもらいたい。アウトドアの敷居を低く、手間いらずのグランピングで自然の中で快適に過ごし、アクティビティを楽しみ、美味しい食事をいただいているうちに、徐々に五感が研ぎ澄まされていく。
 
 バーチャルではない実体験をすることからイマジネーションが広がり、ルーティンな日常から一瞬立ち止まり、自分を見直し、そうすることで未来をクリエイトしていけるようになるのではないだろうか。小難しいことはいらない。ただ体験することが自身の財産となる。

 このツアーの参加者の中のある子どもは、普段はおとなしい性格で、わなにかかっている鹿を最初はかわいそう、逃がしてあげてと言っていたそうだ。それが、頭を落とすと皮を剥ぐのを手伝い出した。仕留めるのを見せるかは個々の考え方によるが、一通りの工程を体験した後は、元気で明るい性格に変わったという。そして鹿に悪いからと食事を残さず食べるようになったとも。

 星のや富士の取り組みは、上質を極め贅を尽くすのみならず、お仕着せではない"自然と対峙し享受する"ことを大切にとの思いの表れである。グランピングをテーマに自然と共生をと願うリゾートだからこそ実現できるサービス、食事、拘りから生まれる今後のプログラムに注目したい。

●命と食を学ぶ狩猟体験ツアー
 開催期間:2018年10月3日(水)〜12月14日(金) [水・金曜日/全22回]
 時間:8:30〜16:30
 料金:1名35,000円(税・サービス料10%別、宿泊代別)
 定員:1日6名(最小催行人数:2名)
 対象:満13歳以上の宿泊者
 予約方法:公式HPよりWEB予約(当日の7日前までの事前予約制)
 料金に含まれるもの:狩猟への同行、鹿肉解体の見学・体験、昼食、
           長靴レンタル、解体された鹿肉の送付(後日)
 詳細:https://hoshinoya.com/fuji/experience/hunting//

information
 星のや富士
  所在地/山梨県南都留郡富士河口湖町大石1408
  TEL/0570-073-066(星のや総合予約)
  https://hoshinoya.com/

 協力:ホグロフス(アシックスジャパン株式会社 ホグロフス事業部)https://haglofs.jp/
     SUUNTO(アメア スポーツ ジャパン株式会社)https://www.suunto.com/

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