2018.11.05

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

ON BONNEVILLE SALT FLATS 2017

Southern California Timing Associationが 毎年8月に開催する「ボンネビル・スピードウィーク」は 2/4輪を問わず"地上最速"を競うスピードトライアルだ。 今回、Bratstyle USAの高嶺 剛とFreewheelersの安井 篤がIndianを持ち込んで初出走をメイク。ここでは1937年式の Sport Scoutに跨り、どこまでも続く塩平原を全開で走り抜けた安井の声に耳を傾けてみたい。

Team Bratstyleで挑んだボンネビル初陣。

ボンネビルに初参戦したTeam Bratstyle。ゼッケン750/M-VG 9550が、高嶺の1939 Indian Sport Scout。ゼッケン750/M-VG 9666は、安井の新たな愛機1937Indian Sport Scout。

 米国東海岸のニュージャージー州ワイルドウッドで開催される、ヴィンテージバイクとホットロッドのビーチレースThe Race of Gentlmenにエントリーし、その運営にも深く携わる安井 篤は、その豪快な走りっぷりから本場アメリカのレーサーにCrazyと言わしめるスピード狂だ。そんな安井が長年夢見ていた聖地ボンネビル巡礼を実現させたのは、2017年8月だった。

 「実はこのSport Scout、Bratstyleの高嶺さんにオーダーした当初はダートトラックレーサーに仕上げるプランでしたが、ヨーロッパ遠征など高嶺さんの多忙もあり、完成予定が大幅にズレ込んでしまい。2017年6月のTROGのタイミングもエンジンが組み上がらず。その後のBorn-Freeでお披露目したのですが走らせるまでには至らずで。その時に高嶺さんともう一度話し合って、2か月後のボンネビルに標準を定めた」

 急遽スピードトライアルの挑戦が決まると、安井はまず長年ホットロッドでボンネビルに挑む友人で、Old Crow Speed Shopを営むBobby Greenに連絡し、二輪でのライセンスの取得方法やエントリーの手続き、レギュレーションなどをリサーチ。一方高嶺も、ダートレーサーとしてほぼ完成していた1937 Sport Scoutを、ソルトフラッツ仕様に軌道修正する。

 Born-Free直後に決まったボンネビル遠征。与えられた時間は実質ひと月足らず。それでもレースのサポートを買って出てくれた高嶺 剛に安井はこう提言した。

「またとない機会です。一緒にソルトフラッツを走りませんか——」

かくして今期のボンネビルには、安井 篤が乗る37と高嶺 剛の愛機39の2台のIndianがエントリーを果たした。

「Born-Freeからボンネビルまで、本当に時間がない中で高嶺さんはベストを尽くし2台を仕上げた。きっと寝る間も無かったと思います。8月に入るとCheetahの大沢君が渡米し、高嶺さんの店に泊まり込みでレースの準備をサポートしてくれたけど、それでも大変だったでしょう」

 レースチームの一員としてソルトフラッツへも同行した大沢俊之はこう振り返る。

「サポートという立場での初ボンネビルでしたが、メカとしてもひとりのバイク好きとしても素晴らしい経験をさせてもらいました。ふたりには感謝しかありませんし、自分も走りたいという新たな夢ができた」

 2017年のボンネビルに初参戦したTeam Bratstyle。750/M-VGクラスでのタイムアタックに挑んだ5日間で、37 Sport Scoutを8本走らせた安井のベストタイムは104.310mph。39 Sport Scoutで挑んだ高嶺のベストは104.73mphだった。104.310mphと記すのは容易。しかし750ccのフラットヘッドで167.85kmhと聞けば、まったくもって只事でないことが解るはずだ。

ボンネビルでタイムアタックするためのSCTAが発行するライセンスで、写真は安井 篤が実際に取得した実物(右)。走行後にパイロットに手渡された記録用紙。これは初陣で走った8本のベストタイム104.310mphの際のもので、ゼッケンナンバー750/M-VG 9666も確認できる(左)。

ソルトフラッツに潜むスピード神「1937 INDIAN SPORT SCOUT/BRATSTYLE USA」

バンピーな塩平原を戦前設計のバイクに乗り、時速150km超で走り抜けるという狂気。
極限状態で安井 篤が見たものとは──。

 タイヤの数や年式、メーカーを問わず、電気でもガソリンでもジェットエンジンでもエントリー可能なボンネビルには、ルーキー/ショート/ロングという長さの異なる3本のコースが用意されている。安井と高嶺は一番短い"ルーキー"でタイムアタックした。

 「ルーキーでは2マイル地点での到達速度を計測するのですが、750ccのフラットヘッドで3速しかないSport Scoutだと、これ以上長いコースは必要ないんです。慎重にミスなくシフトアップして身体を屈め風の抵抗を極力セーブし、あとはひたすら全開ですが、それでも2マイルの手前ですでに吹け切ってしまう」

 SCTAのスピードウィークに出走するヴィンテージバイクは、ほぼルーキーコースを走っていたという安井は、初めて走った塩平原の印象をこう話してくれた。

「もしかしたらソルトフラッツって平らなイメージがあるかもしれませんが、とんでもない! 路面のコンディションはレース前の天候に大きく左右されるんです。最悪の場合はイベント自体が中止になります。今年は開催されましたが、ベテランの意見ではかなり悪かったそうです」

 想像してほしい。リジッドフレームにガーダーフォークという戦前バイクで時速150km以上の巡航中、突如ギャップを拾ったらライダーはいかなる状態になるかを——。

「何本か走って徐々に慣れたけど、それでもソルトフラッツは思いの外にバンピーで怖かった。ただでさえ塩平原は照り返しも強く、高速走行中は前後左右の感覚が曖昧になるんですが、路面から巻き上げた塩がシールドに張り付いて視界を遮るんです。そんな状況でのタイムアタックは恐怖と快感が入り混じる奇妙な心境で。あの感覚って他ではまず得られないでしょう」

 仮に完璧な状態のレーサーを持ち込んだとしても、路面のコンディションや風向きや気温、湿度の影響で100%のポテンシャルが出るとは限らない。レーサーのポテンシャルと乗り手の技量は言うに及ばず、良いコンディションを引き寄せる"運"無くして、レコードブレイクは成し得ない。
 
「冗談抜きで命懸けのレースなので、ライセンスも必要だしレギュレーションも厳しい。エントリーするのに750ドルもかかる。ボンネビルは色んな意味で究極です」

 ビッグツインやHot-Radでも走りたいと夢を膨らます安井 。ソルトフラッツに潜むスピードの神に魅せられた男の挑戦は、まだ始まったばかりだ——。

Photographs:Ken Nagahara
Text:Gonz (満永毅)
媒体:ROLLER magazine vol.25

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