2019.01.22

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

セカンド"OHV"ジェネレーションの両極「BOTH SIDES」

油圧テレスコピック機構のフロントフォークを標準装備した、H-D史上初のHydra-Glide。一方、同じ心臓をスイングフレームに載せたDuo-Glide。当時の先鋭技術を投入したアルミヘッドエンジンを共有しながら、似て非なる風貌に進化した同族。パンヘッドの"両極"に存在する"49"と"58"の狂宴――。

富めるアメリカを疾走したKING OF THE ROADは反逆の象徴か「1949 H-D EL/HYDRA-GLIDE」

 「グライドフォークとリジッドフレームを備えたストックのハイドラのスタイルが好き。特にファーストイヤーの49年式は格別です。オリジナルのデザインを保持しながらドレスアップし、ゴージャスに乗るのが気分でしょう」。国内屈指の旧車コレクター安井 篤が思う、パンヘッドならではの魅力。

 1929年10月、NYウォール街を襲った史上最大規模の株式大暴落に端を発し、世界中に波及した悪夢の大恐慌と、第2次世界大戦という苦難の時代を乗り越えたアメリカは、いよいよ名実共に世界をリードする先進強大国へ飛躍する。

 戦後復興の影響でGDPも右肩上がりという世相も手伝い、人々はより良い衣食住を求め最新のクルマや家電、贅沢な趣向品に夢を膨らませた――。

 1948年から1965年という高度成長期の最中、H-Dカンパニーが世に送り出した第2次世代のOHVモデルといえば、"The World’s Finest Motorcycle"を高らかに宣言したミルウォーキーの意欲作パンヘッドだ。軽量コンパクトで機動力に富み、かつコストパフォーマンスも高い欧州2輪メーカーのプロダクツに対抗するべく、"世界一"の性能を標榜したH-D首脳陣は、米国4輪メーカーの雄GMが誇るCadillacやBuickといったトップグレードクラスに採用された油圧制御のタペットシステムを、世界に先駆けてモーターサイクルに取り入れる。この機構は米国Curtiss-Wright社が飛行機の星形多気筒エンジンのタペットシステムのメンテナンスフリーを叶えるために開発した先進技術だった。

 他方、先代のナックルヘッドでウィークポイントとされた鋳鉄製のヘッドもアルミ合金に刷新。この画期的な進化を実現させたアルミ鋳造・加工法は、当時圧倒的な工業力を誇ったナチスのテクノロジーを手本にした、といわれている。

 かくして1948年にデビューしたパンヘッドは基本設計はそのままじっくりと熟成を重ね、シャベルヘッドに次世代を託す1965年まで生産、18年というH-D屈指のロングセラーとして歴史に名を残しただけでなく、半世紀以上経過した今も世界中に熱狂的なファンを従えるヴィンテージモデルとして愛されている。

 各年式にファンを従える人気機種だが、「いかなる悪路も滑るように走る!」というキャッチコピーで、鮮烈なデビューを飾ったHydra-Glideは、その名の通り油圧式テレスコピックフォークを標準装備した初のH-Dとして知られるが、中でもファーストイヤーにあたる1949年式の人気は別格。今見ても一片の古臭さを感じさせないそのモダンなデザインは、現在H-Dが従える確固たるスタイルの雛形とも評されている。ここで紹介する49ELは、本誌でもお馴染みのアパレルブランド「FREE WHEELERS」のデザイナーにしてヴィンテージH-Dのコレクター安井 篤が所有する1台。

 「1949〜50年にかけて新車で販売された際、カスタムクロームを施された車体だと思います。サイレンサーは純正フィッシュテールから抜けの良い60s Superiorのセパレートタイプに換装しているが、これも当時のトレンド。見所はファクトリーペイントのBrilliant Blackを際立たす、さりげないクロームプレート。ファーストオーナーは非凡なセンスを持つ不良だったのかもしれません――」。

 グライドフォークにリジッドフレーム、前後16inchのタイヤセットをアイデンティティとするハイドラの初年度機。

 常日頃ヴィンテージH-Dを足にする安井曰く「ナックルは見た目も乗り味もプリミティブで無骨ですが、パンヘッドはそのルックスと同様にジェントルでマイルド。そこがパンヘッドの味です」。

 出荷時のコンディションをほぼそのまま保持するこの49ELを目の当たりにすれば、H-Dカンパニーが生産した"Hydra-Glide"というプロダクツが、アメリカにおける50sインダストリアルデザインの最高峰に君臨するという事実を、身を持って理解するだろう。生産総数3,419台のうちの1台、49ELに見るパンの真髄。

チョッパーの対極に存在するハードコア・フルドレッサー「1959 H-D FLH/DUO-GLIDE」

この圧倒的な質量とボリューム感たるや! 『スター・ウォーズ』の世界から飛び出してきたかのような出で立ち。しかしその"核"には1959年式のDuo-Glideが存在する。

 国策により全国隅々まで高速道路が発達し、近代的なモーターリゼーションを迎えつつあった'60sのアメリカ。時代を見据えたH-Dの首脳陣たちは、来たるハイウェイ時代の幕開けを担う新機種として、誇るべきフラッグシップHydra-GlideをさらにアップデートさせたDuo-Glideを世に放つ。

 アップカマーの最大の見所はフレームだった。既存のリアリジッド式を刷新、新たにサスペンションとスイングアームを備えた次世代の高性能フレームを採用。ハイドラ時代に確立した油圧式テレスコピックタイプの通称Glide Forkとのコンビネーションで、悪路の追従性及び高速走行性能が飛躍的にアップ。同時にこれは長距離走行性能の向上にも繋がった。"King of the Highway"というH-Dの絶対的なイメージを世に確立した功労者はDuo-Glideである。

 ではあるけれども。非の打ち所がないスタイリッシュなデザインを誇るHydra-Glideの強大な存在感からか、現在の旧車シーンおけるDuo-Glideのポジションは今ひとつ冴えず。スイングアームを標準装備した本格ツアラーは、良くも悪くも旧車感が薄く、弟分のシャベルFLHと見比べてもアウトラインに大差はない。これはモーターサイクルとしての完成度が高い裏付けだが、ヴィンテージと呼ぶにはいささか近代的過ぎ。

 Duo-Glide は言わば"出木杉くん"なのだ。そもそも旧車狂と呼ばれるスキモノたちは、それが不便でも、スタイリッシュな方を迷わず選ぶマイノリティなのである。だがしかし。Duo-Glideの全てが"出来杉くん"かといえばさにあらず。この広い世界には当然例外が存在するが、その極め付けがご覧の59FLH。360度どこから見ても完全に狂っている。

 「アメリカのど真ん中にあるカンザス州の街・ウィチタのローカルが隠し持っていた車両で、ワンオーナーだった。エンジン&ミッション、骨格もオリジナルで、外装はご覧の通りオーナーの趣向がギッチリと反映されている(笑)。稀に見る'60sドレッサーだけど、この59FLHは異質。

 クルマのパーツやメタリックなフェイクレザーをペイントの代わりに使っているところなんて斬新でさえある。いわゆるGarbage Wagonというと黒人ノリだけど、このデュオのオーナーは白人だった。Chopperの対極にあるハードコアなフルドレッサーとして捉えても面白い。

 かのSmittyのRat Knuckleも、この手のGarbage Wagonの成れの果てなのかと思ってみたり──」とは、輸入を手掛けたHawgholic横溝 学の弁。

 ちなみに。この59FLHは今後フルオーバーホールを控えている。「パーツ点数が半端なく多くて先が思いやられる」と嘆く横溝である。

 とんでもない存在感を放つこのパンヘッドは、同時に乗り手も選ぶだろう。個人的主観になるが、この59を見たときに真っ先に浮かんだのはアウトローカントリーの旗手で、アウトローMCのメンバーでもあるDavid Allan Coeだった。

 もはや手の入るところが見当たらないほど徹底的にカスタムされた、ハードコアなデコ車。フューエルタンクは赤&白のピンラインのほかにも白い柄が入るが、なんとメタリックなビニールシートを切って貼り付けたもの。サドルバックやフェンダーにもこの稀な手法でデコレーションされる。リアバンパーにはフリーメーソンのシンボルマークのエンブレムも。

Photographs:Kentaro Yamada
Text:Gonz (満永毅)
媒体:ROLLER magazine vol.27

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