2018.11.27

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

建国史を内包するH-Dきっての問題作。

H-D狂の間で"1976"といえば、アメリカ建国200周年を記念するLiberty Editionだ。サイケデリックアートの旗手Peter Maxのグラフィックが見せ場となる76年式は、現在も根強い人気だがその翌年"1977"もH-D史に残るトピックスは続いた。FXSとXLCRという斬新なアップカマーが市場に投下される。H-DのチーフデザイナーWillie G Davidsonの意欲作として鳴り物入りでデビューしたこの2機種はミルウォーキーアイアンが誇るファクトリーカスタムと評され久しい。Low RiderとCafé Racerという傑作が生まれた同年、東海岸限定で極少数のみ販売された H-Dがあった。建国200周年を祝う愛国ムードの名残が残る1977年。The Confederate State of America=南部連合のシンボルであるレベルフラッグとその兵士たちのユニフォームカラーである灰色のエクステリアを備えた77年式。政治的配慮か、カンパニーはその存在を公にせず、オフィシャルな文献への記述もなし。創業からの歴代モデルがズラリと並ぶ本社のH-Dミュージアムにも決して展示されることのないConfederate Edition。南軍モデルが内包するアメリカの影とは――。

サザンクロスが意味するもの「1977 H-D FXE SUPER GLIDE」

1977年にセンセーショナルなデビューを果たしたFXS Low RiderとXLCR Café Racer。
その影でリリースされた知られざる631台の限定機。
当時228台のみ生産された不遇のFXE Confederate Edition Super "Grayback" Glideを、ここに紹介しよう。

細かい粒子のメタリックが効いたDuPont社のIce Blue Metallicは、Confederate Editionのみのリミテッドカラーで、当時の南軍兵士のユニフォームの配色に因んでいる。その制服をまとう南軍の兵士はGraybackと呼ばれた。

 1800年の半ば、アメリカ合衆国は急速な工業化で経済成長を果たし、先進的でリベラルな気風だった北部と、未だ奴隷制度に依存する大規模農業で生計を立てる保守層が政治の中枢を担う南部との間には、大きな溝が生まれていた。

 問題は経済格差だけではなく、人種や宗教を含み複雑かつ根深いものだった。1860年に北部を地盤とし、奴隷制拡大に反対する共和党のAbraham Lincolnが合衆国大統領選挙に当選したことで、南部の危機感は沸点に達する。かくして合衆国から脱退を宣言し、南部諸州によって1861年に創設されたのがConfederate State of America=連合軍だ。

 サウスカロライナを筆頭にミシシッピ、フロリダ、アラバマ、ジョージア、ルイジアナが脱退、さらにテキサス、バージニア、アーカンソー、テネシー、ノースカロライナ、さらにミズーリとケンタッキーの一部を加えた13州が南部連合軍とされる。レベルフラッグに配された13の星はこれに起因する。

 1861〜1865年にかけて、アメリカ合衆国の北部諸州と南部諸州との間で行われた内戦が、南北戦争だ。結果的に敗戦した南軍は1865年に消滅するが、政府の意向にNOを突きつけ、自らの主張に命を賭した先人のスピリットは、現在もサウスに生きる一部の保守層に息づいている。さらにその中のごく一部には過激な政治思想を唱えるレイシストが存在するのも事実。レベルフラッグはそんな一部の過激な思想のアイコンになっている節もある。ハーケンクロイツにも似た位置付けだろうか。

 アメリカを代表する2輪メーカーに発展を遂げたH-Dが、1977年に南部エリアで限定販売したConfederate Editionのシャベルヘッド。デュポン社がラインナップする部番44437"Ice Blue Metallic"で彩られたエクステリアに、H-D 純正部番61651-77&61650-77のレベルフラッグのタンクデカール、フロントフェンダーにはGeneral’s Sleeve Braid=軍服の袖に配された刺繍がモチーフとなる部番59100-77のデカールが誇らしげに貼られている。

 非公式データながら1977年に製造されたConfederate Editionは、FLHが44台、FXEが228台、XLHが299台、XLCHが45台、XLTが15台だと言われている。

 いまどきの企業に問われるコンプライアンス対策か、自社の公式アーカイブたる H-D博物館でもレベルフラッグが配されたこの限定車を見ることはない。1865年5月9日に終結したAmerican Civil Warだが、その火種はいまだくすぶり続けているのかもしれない。

FLのフレームとXLのフロントエンドを組み合わせたスポーティーなビッグツインFX Super Glideは、1971年にデビューしたH-D初のファクトリーカスタム。H-D史に残るエポックメイカーの開発には御大Willie G.も名を連ねている。参考までに。77年にカンパニーがラインナップしたレギュラーカラーはBirch White / Vivid Black / Vivid Blue / Charcoal Silver / Vivid Brown / Midnight Blue Metallic / Arctic White / Bright Blueと多彩だった。

勝ち取るべき権利の象徴もしくは奴隷制度のアイコン「1977 H-D XLH SPORT STER」

暮れなずむ夕暮れのベイサイドに佇むXLH。
アイアンバレルのスポーツスターにはデュポンのアイスブルーとサザンクロスがよく似合う──。
バンカラ東京がサルベージした南軍モデル、ここに降臨!

1977年のワンイヤーモデルHarley "Grayback" Davidsonの中、最大数である299台が生産されたXLH。排気量1,000ccのユニットエンジンは、ビッグツインモデルでは成し得ないスポーティなライドフィールを真骨頂とした。

南部のバイカーに訴求するためのThe Great American Freedom Machine。

 生産総数631台といわれる南軍モデルは、1977年にラインナップした機種がベースとなるカスタムカラーモデルゆえ、ツアラーからスーパーグライド、スポーツモデルのXLまでが存在した。意外にも631台のうち過半数となる約360台がXL系で、ここで紹介するXLHはビッグツインからスポーツスターを含む全てのHarley "Grayback" Davidsonの中で最大数である299台が生産された。

 また排気量1,000ccのユニットエンジンは同一ながら、よりホットなXLCHは45台、ツーリングパッケージのXLTは15台リリースされたといわれている。ちなみに1977年にデビューした空前絶後のスポーツスターでH-D史上初のカフェレーサーXLCRは1,923台、翌1978年に1,201台、最終1979年に9台が総数だ。XLCRといえば滅多に見ることのないレアブリードの印象が強いが、このイメージを持って比較すれば631台のConfederate Editionがどれほど希少か、実感できるはずだ。

 南軍モデルが生まれた背景には、当時のアメリカの世相が強く関連している。1976年は全ての国民が建国200年記念を祝福ムードに浸り、愛国心で舞い上がり、製造業者もそんな風潮に同調していった。そんな最中にH-Dは言わずと知れたLiberty Editionを発表。FORDはトリコロールのPintoをリリースした。

 当時の音楽シーンもしかりで、Lynyrd SkynyrdやAllman Brothers Bandを頂点とするサザンロックが隆盛を極めた。彼らは自身のルーツやアイデンティティの象徴として、ステージに大きな南軍旗を掲げた。骨太なロックバンドの大躍進により、それまで時代に取り残された感の否めなかった南部は脚光を浴びるようになった。

 1969年からの大手機械メーカーAMFとの不遇の業務提携の最中、そんな世相を敏感に感じ取ったH-Dカンパニーが、南部のバイカーに強く訴求する"The Great American Freedom Machine"として、レベルフラッグという強い意味を持つモチーフを用いたConfederate Editionをリリース—当時のカンパニーの真意は定かではない。しかし時代背景を読めばそんな推測が浮かぶ。

 レベルフラッグは今も論争の火種である。南部の住民にとってそれは威圧的な連邦政府から自州の権利と独立の戦いを象徴するプライドに他ならない。その一方アフリカン・アメリカンの多くはいまだこの旗を奴隷制度や人種差別の想起させる忌まわしい象徴と捉えている。

 旗のみを見れば、かの時代の古ぼけたアイコンに過ぎない。しかし1860年に南部でレベルフラッグが掲げられた経緯と、プレジデント・トランプ率いるアメリカ合衆国が抱える社会的問題がいまだリンクする以上、ノスタルジックでは済まされない非常にデリケートなモチーフだと言わざるを得ない。島国で生まれ育った日本人には理解し難い問題だが、アメリカという国の構造を理解する上では避けられないトピックである。

前項で紹介したFXEと同様、非常に優れたコンディションを誇るXLH。これが40年以上前に生産された車両といわれても、にわかには信じられない。、古めかしさも感じさせない秀逸なデザインはマスターピースと評するに相応しい。

カメラ:Kentaro Yamada
テキスト:Gonz
媒体:ROLLER 27

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