2018.11.08

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

ふくわか洞盆栽店

昭和初期建造の古い町家を利用した、京都の「ふくわか洞 盆栽店」。オーナーの工藤さんが丹精込めて育てた植物と、手作りのシンプルな鉢が軒先を彩る。ここでは植物とゆったりと向き合える、贅沢な時間が過ぎていく。

生きるために宿る植物の不思議な力

10年ほど前、川で拾った流木を粘土質の土で固定し、その上にコケ、ハゼ等の苗木を植えた、工藤さん初の盆栽。今では流木も腐り、コケが全体を覆う。毎年、工藤さんはこのハゼの色づき具合を目安に、京都の紅葉時期を計るそうだ。

 京都・北野天満宮の近く、閑静な住宅街の一角で「ふくわか洞 盆栽店」を営む、工藤誠さん。お店は昭和初期に建てられた、なんとも味わい深い古い町家だ。軒先には、工藤さんが手塩にかけた大小さまざまな盆栽が並ぶ。

 サラリーマンだった工藤さんがお店を始めたのは、転勤で京都に来たことが始まりだ。その時住んでいたシェアハウスの住人が茶道の先生で、稽古時に自ら育てた山野草を活けたいと、庭で植物を育てはじめたという。

 「一人では世話しきれないから、僕も手伝ううちに次第にはまっていきました。僕が育てたほうがよく咲いたんですよ(笑) それが楽しくて」

 いつしか植物の虜となり、当時、勤めていた会社を「植物に携わる仕事をしたい。植物と鉢を一緒に提供できるお店を開きたい」と退職。その時、手にした盆栽家・加藤文子さんの写真集も工藤さんをあと押ししたという。

「僕がやりたいと思っていたことをされていました。それで、僕にもできると思ったんです」

 その後、花屋で修行を積むも、自ら望む方向性とは異なり、独学で学ぶことを決意した工藤さん。鉢づくりに至っては、仕事が終わるとろくろの前に座り、納得するまで土をこね続けたそうだ。

「植物にとって鉢は家と同じ。植物を引き立てる、僕なりの鉢を作りたかったから」

金~日曜、祝日のみ営業。ワークショップを開催することもあるとか。
詳しくはhttp://fukuwakado.web.fc2.com/をチェック。

実は青森県出身の工藤さん。これほど植物にはまったのは、幼少期に過ごした田舎での暮らしが少なからず影響しているのでは、と話す。

道具への愛情もひとしお

道具にも強いこだわりを持つ工藤さん愛用しているのは、京都の老舗刃物ブランド「有次」の剪定鋏(右)と「安重」の鋏(左)。

 「ふくわか洞 盆栽店」の盆栽は、工藤さんが半年〜1年ほど育てたものだけを販売している。この期間は植物の様子を観察し、鉢全体に栄養が行き渡るように手入れを怠らない。そして、お店がオープンする金曜から日曜以外はろくろの前に座り、オリジナルの鉢を手びねりする。

 工藤さんが作り出す鉢は、どれも植物が引き立つシンプルな形が特徴だ。そこには日本の環境に適した、季節感のある樹木を植える。さらに、「自然と共存してきたからこその樹形を大切にしたい」と針金掛けは一切しない。これらは決して揺らぐことのない、工藤さんのこだわりだ。

 今は、植物を育てることが本当に楽しいと話す工藤さん。植物に携わるようになって、考え方、ライフスタイルもとてもシンプルになったそうだ。

「すぐに結果を求めなくなりましたね。植物って本当に時間をかけて、長く付き合うものだから。それから今は余計なものは持たず、本当に良いものを長く使いたいと思うようになりました。これらは植物が僕に教えてくれたことです」

 10年前に初めて作ったハゼの盆栽を、今でも大切に育てている工藤さん。

「人と一緒で、年月を経た植物には余裕を感じる」

という。工藤さん自身も最近では初の植木鉢展も開催するなど、植物だけに留まらず、そのフィールドは広がり続けている。

小さな鉢に広がる植物本来の姿

8月にきれいなピンク色の花が咲くチョウセンフジ。枯れた親木から株分けしたものだそうだが、きちんと手入れをすればこんなに元気に育つ。

神社などで見かけることが多い石化シノブは、株そのものが固まることから名づけられたシダ類の植物だ。自然そのものの樹形を尊重したいと、針金掛けはしない。

工藤さんの植物への思いを聞いていると、こんな小さな植物さえも愛おしく感じてくるから不思議だ。ここでは購入後のサポートもしっかりしているので、安心。

現在、ねこ2匹と同居中の工藤さん。お店に並ぶ植物は、基本的にねこが食べないものしか置いていないそう。「食べられたら売り物にならないですから(笑)」。

カメラ:Soichi Kageyama
テキスト:Natsue Ishikura

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