2018.09.06

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

山暮らし研究所 ~小林節正さんと週末森の家~

ご存知「マウンテンリサーチ」は、"山暮らしの服"をメインテーマに掲げるブランドだ。デザイナー自ら製品のテストも兼ね、山暮らしを実践している。今回はそのフィールドに伺った。

「デッキ」と「薪棚」がコンセプト

今年リビングの上に誕生したドーム。温室キットに倣って作った。軍用のカモフラネットで日かげを確保する。

建築物でなく、構造物。そう話す通り薪を収納するため、テントを張るため、荷物を置くために建てられたマウンテンリサーチの研究施設。

ここは外にいるための施設

冬は極寒になるが、雪はあまり積もらない土地柄だそうで、屋根もフラットに。"薪棚に暮らす"というコンセプト通り、大量の薪が並ぶ。

場内を見下ろせるキッチンだが、外の景色を眺めるにはFRP貼りの戸板を開けなければならない。なぜならここは、中にいるより外にいるための施設だから。

総合研究から山研究へ

ダイニングの下の階、ボイラー室にも大量の薪が並び、強化プラスチックではなくオーセンティックな、木製のカナディアンカヌーが吊ってある。

 ジェネラルリサーチのデザイナーであった小林節正さんがその活動を打ち切り、新たに……リサーチプロジェクトを始動したのは2006年の事だ。

 「元々ジェネラルリサーチをやっている時は、どこかにあるであろう"とある場所"をイメージしてやってたんだけど、この先もファッションをやり続けるなら具体的な場所がないと困るなぁ……なんて思ってたんですよ。そして、その具体的な場所っていうのは日本であるべきだと思ったんです。

無理して外国っぽくしなくてすむ日本らしい所ってなんだろうって考えた時、やっぱり山でした。国土の多くが山林で占められてるわけで、比率として山に何かを求めていって当たり前の国土がある。日本らしさを突き詰めると自分には山しかなかった」

小林さんは当時を振り返ってそう語る。

 その頃に田渕義雄さんの本を読んだり、辻まことさんの本を読んだり、キャンプマニアに出会ったりしてキャンプにハマっていた小林さんは、自分で好き勝手できるプライベートキャンプ場を作って、そのフィールドを通してファッションの事を考えようとした。それがマウンテンリサーチの始まりでもあったのだ。

 「フィールドを通して山暮らしの服を考えるはずが、場所探しで難航して、結局洋服のスケジュールが先になっちゃったんですけどね。土地を探すにあたって、周りに人工物が見えないことと、人が来ない場所ということが絶対条件としてあって……。やっとのことで見つけたのが長野県(南佐久郡)川上村でした」。

 「自分たちの製品や、お手本にしてみようとしているサンプルを試す実験施設という考え方だったから、その点において、ここは洋服の絶対能力が試せる最高の場所ですよね。北海道の旭川の気温といつも大体一緒だから。さすがに旭川までテストに行けないのでちょうどいい。東京から直線で100キロしか離れていないのに冬はマイナス20℃にもなるし、家の近くに全面氷結する滝があって、そこではアイゼンを履いてアイスクライミングも出来る」。

 せっかく気に入って買ったテントだけど、土の上に張ると泥まみれでボロボロになる。ノースフェイスの2mドームテントを張るためにデッキを作ろうと構想を巡らせ、端っこに水回りを配置し、その上に屋根を付けて、どうせならその上にもう一つテントを張れるように……。結果、今の施設が出来上がったのだ。

 「ここは、皆で作ったマウンテンリサーチの実験所。ひとつの場所で動かず開墾していくスティルライフ的な実験を自分がこっちで実践。言わば"静"的な目線でね。会社のみんなには"動"的目線で、自分たちの製品を着て、年に1回一人ずつアメリカのアパラチアン・トレイルを1週間かけて歩いてもらってます。わいわいガヤガヤやる山の暮らしではなく、自己と向き合う山の毎日っていうのが共通項ですね」。

山の中で暮らすための作業を覚える場所

実際に履いている作業靴の一部。アナルコマウンテニアーズのロゴがあしらわれたソレルのカリブーと、8年間使い込んできたル・シャモ―のゴム長。

屋内に設置されたクライミングウォールには、ルートが書き込めるように黒板塗装されていた。VOCKの木製ホールドで統一され、山の中に馴染んでいる。

 小林さんが山での生活に興味を持ったのは先のキャンプにハマったからという理由だけではなかった。

 「祖父が持っていた三重県鈴鹿山中の飯場というか山荘。冬には鹿やイノシシ狩りもしていたから狩猟犬も飼ってて。15年間毎年ずっとそこで遊んでたんですけど、その影響がすごくあったと思いますね。山奥にぽつんと1棟だけある飯場だったので、どうやって水や電気を引っ張っていたんだろうとか……。やっぱり身近にそういうケーススタディがないと想像つかないですよね」。

 目の前でそのような生活を見てきた経験もあり、何か作業がないと、本当にぼーっと過ごすだけで、そのうち通わなくなると懸念した小林さんは、何が何でも作業が伴う生活を選択した。

 「例えば薪ボイラーでお湯沸かすのなら、薪を割らないと暮らしていけないでしょ? プロパンひねるって選択肢があると絶対そっちを選んじゃうから。ここはゆったりする場所というよりも、体を必ず動かさないといけない場所なんです。道場というか。

建具は薄いFRPの板が一枚だし、壁も全部角材を積み上げてる構造だから隙間だらけ。風がバンバン入ってくるから冬はめちゃくちゃ寒い。ちょっと厳しいなって思っても、楽しんでそこにいられる仕掛けを作ってるんです。むしろ厳しい場所の方が都合がよかった。なぜならここは『オルタナティブに暮らすとは?』ということを考えるための実験場ですから(笑)」。

 基本的に週末3日間を川上村で過ごすため、その間東京の家ではほとんど電気を使っていない。川上村では電気をソーラーでまかなっているのだ。デッキ下の薪棚には大量の薪が置いてあるが、年を取ると手割りが出来なくなるだろうから、今のうちにと、薪割り機でなくすべて斧で手割りしているという。

「未来の話はよくわかんないけど、今は楽しんで省電力生活がしていたい。いつか電気なしで耐える生活が来た時のために、今のうちから訓練です(笑)。ソーラー蓄電池はコストがすごくかかるからまだ導入出来てないけど、いつか導入してウィークデーのいない時に貯めておいて、週末に使いきる。それが理想だね。それが出来ると、何となくこのストーリーも自分的に筋が通ります」。

「イタリアデザインは正直趣味じゃないんだけど……。でもこれだけは仕方なかった。日本のクッキングストーブは選択肢が少ないから」。デマニンコア社のクッキングストーブ・イタリア製。

U.Sアーミーのカラトリーは何十年も変わらない普遍的デザイン。キャンプへ行く時もカラビナに通したりするそうだが、家ではフックに吊り下げて。

絶対的静寂、支配する者なき山

アナルコカップスと米軍のスプーンでスープをいただく。どちらも使いやすさを追い求めた結果のシンプルなもので、純粋に美味しい食事と向き合える。

 土地を買い、開墾して8年、土が流れないようにと山の斜面に植えた芝。毎週のように手を入れて、少しずつ土が定着し始めた。

「ここに通って、何かを具体的に考えだすと、時間の経過に任せるしかない事が沢山ある事がわかります。植物や木材の馴染みもそうだし、村との馴染みも」。

 川上村に通い始めて3年ほどたったころに、田渕義雄さんと面識を持つようになり、今ではよく知恵を与えてもらっているそう。

「例えば、春に採れる白樺水の事は本で読んで知ることができるけど、じゃあ実際どこに瓶を据えてストローをどの角度で刺すとか、木は一本より株断ちしているものの方がよく出るとか、そういう細かい所は実際やっている人に聞くしかないですから。自分なりの非効率な作業があった上で教わると、今までのは何だったんだろうって目からうろこの瞬間がありますね」。

小林さんの山研究は続く。

ダイニングは誰が来てもどこに何があるかわかるよう、全部吊り下げられるか、バスケットの中に入れてある。既製のものが気に入らず、シンクはタライを加工したもの。

2007年にこの土地を手に入れ、週末の山暮らしが始まって6年を経た去年、やっと始まった野菜づくり。

奥さんが冷たい飲み物を乗せてきたお盆にもAの烙印が。山奥にでひっそりと営むアナキズムな暮らしに乾杯。

テキスト:Junpei Suzuki

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