2018.09.10

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

田中宏幸のMarine Fish Review「ヤセハリセンボンを知っていますか...

24日最初の1枚

ハリセンボンの仲間は現在、世界中では6属19種、日本では3属7種が知られていますが、その中でもこのヤセハリセンボンは、滅多に観ることのできない種類です。今回は昨年夏に目の前に現れた13cmの個体について、お話ししましょう。

 この魚に学名が付いたのは170年も前なのですが、滅多にその名前を聞きません。それはほとんど沿岸に近寄らない為、観察される事が稀だからです。棲息する正確な深度も生態もよくわかっていませんし、採集例もごく少ないのです。

 日本に棲むハリセンボン属の仲間にはほかに、ハリセンボン、ネズミフグ、ヒトヅラハリセンボンがあって、合計4種になります。ヤセハリセンボンはやや細長くて背面は青っぽく、背鰭に黒い斑点があり、尾の付け根に棘があるものの腹部には無い事が、他の3種との大きな区別点です。

 この魚は全世界の暖かい海(我が国では房総半島から南の海とされて来たが、2016年12月には能登沖でも捕獲された。東シナ海、南シナ海、フィリピン、インドネシア、アラフラ海、珊瑚海、ミクロネシア、ハワイ、西オーストラリア、南アフリカ、ブラジルなど)で見つかっていますが、図鑑に生態写真が載る事は滅多にありません。

 宮崎のダイヴァーで観たことのある人も、限られている様です。また食用としての価値は不明です。全長27cmになると言われます。

サンマリーナ宮崎の一部

発見と観察

 私が観察したのは、宮崎市内のサンマリーナ宮崎という小さなヨット・ハーバーでのことでした。宮崎市一ッ葉海岸は昔から松林が景勝地として知られ、かつては遊泳もできました。近年整備され "みやざき臨海公園"として人工ビーチやこのサンマリーナ宮崎が生まれ、特に夏には多くの人が訪れます。

 最近10年間、6月から11月までの半年間は天気さえ良ければほぼ毎朝、この湾内に棲む生きものの観察を続けてきました。毎年の様に新しい発見があり、それまで宮崎から記録の無かった種類もいくつか発見出来ました。このマリーナでは釣りも網で捕獲する事も、潜水やシュノーケリング、水泳でさえも禁じられています。ヨットやボートが停泊している浮き橋へ通じる通用門には、いつも鍵が掛かっており中には入れません。数年前に、当時の所長からは通用門内での観察の許可だけは得ていました。

 2017年の、サンマリーナ宮崎の海中も賑やかになって来た8月24日(木)、朝のマリーナの船着き場(浮き橋の外側)は、やや波が在るものの、浮き橋と岸壁との間は静かで透明度は1.5mほどとまずまずでした。左手の浜の方向に延びる浮き橋との間に、久しぶりに見つけたマツダイ及びアオリイカをじっくり撮影していると、浮き橋の下からやや小型の"ハリセンボン"が急に出て来て(7:03。写真1)、数年振りに見る魚で早速撮影に取りかかりました。しかしよく見ればからだがかなり青く、また背中に特徴的な模様がありません。7:19まで一眼レフで撮影を続け、マリーナを後にしました。

 早速Facebookで写真を挙げたところ、一人の友人から"これはヤセハリセンボンではないか!?"との指摘を受け、手持ちの日本の図鑑を見ましたが写真も図も無く、僅かにFishes of Yaku-shima Islandに学名だけが載って居るに過ぎませんでした。彼は"外洋に居る魚で沿岸に近付く事は稀だ"と付けたしました。

 すぐに宮崎大学農学部の岩槻幸雄教授ほかいろいろな方に写真を送ったところ、岩槻教授から誰よりも早く"ヤセハリセンボンでしょう"との回答があり、おまけに採集依頼まであったのです。"我が県からの採集記録個体が無い"とおっしゃるので驚くと同時に、標本が欲しいのだと思いました。

25日最初の1枚

 翌25日の朝も浮き橋を歩き様々な魚種を観察し終え、門から出ようとした際再びこの個体を見つけました(6:31)。採集の許可を得る為に急いで管理棟へ駆け込み、守衛に話すと当直の方が話を聴いてくれました。"所長の許可が無ければ採集は不可。8:00にならないと所長は来ない"との事でしたが、すぐにご自宅へ電話して下さいました。

 電話口で所長に直接説明すると"それでは採集を許可しましょう"。直ちに走って浮き橋へ戻りましたが、既にいませんでした。恐らく浜の方向へ向かって泳いで行ったのでしょう。しばらく探し回るも見つからず7:00頃、悔しい思いをしながらマリーナを退散する事にしました。

 礼を述べる為に管理棟に寄ると所長が来られていたので、経緯を詳しくお話ししました。同日再び出かけ、午後13:00~13:40まで網とバケツ持参で観察しましたが発見出来ませんでした。この日、神奈川県立博物館の瀬能宏博士からも"それは珍しいですね。採集出来ると良いですね"との返事をいただきました。

 翌26日(土)朝6:20から7:20まで探索するも空振りに終わりました。同日19:50から20:35までの夜間も観察しましたが、やはり姿を見せませんでした。この日は岩槻研究室から院生が一人来ていたので一緒に探しました。

 27日(日)は午前6:50に観察を開始し午前9:07まで探しましたが、この日もとうとう見つかりませんでした。ひょっとしたらもう外海に出たのでは? 誰かが網ですくったのではなかろうか? と気が気ではありませんでした。

PHOTOS&TEXT=HIROYUKI TANAKA
媒体:CORAL FREAKS 26

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