2019.02.01

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

プロトタイプ1937年の開発過程で確立されたビートルの基本性能。

VW トレッフェン・メキシコには、ドイツ本国のVW がウルフスブルグで運営しているテーマパーク「アウトシュタット」全面サポートの元、プロトタイプのVW30 がはるばる送り込まれた。我々は幸運にも、このVW30 のステアリングを託されることになった。

 ドイツの国家プロジェクトとして、国民車・フォルクスワーゲンの開発を進めていたポルシェ博士は、V1、V2、V3のプロトタイプを経て、1937年、さらに改良を加えたプロトタイプ「VW30」を完成させる。ポルシェ博士の設計図を元に車両の製作を行ったのはダイムラー・ベンツであった。

 当時30台製作されたVW30は、ヒトラーの親衛隊によって過酷なテストドライブに掛けられることになる。テスト走行は延べ230万㎞を超えるという想像を絶するもので、技術的な問題点が徹底的に洗い出され、蓄積されたデータは次に開発されるプロトタイプVW38へ生かされることになる。当時製作されたプロトタイプは、試験走行が完了したのちに全て廃棄処分されている。

 メキシコのVWトレッフェンで独自取材が叶ったVW30。現車はVW自身が、アーカイブとして残されていたオリジナルの設計図を元に、細部まで忠実に再現したレプリカである。2003年に2台製作されたうちの1台で、現車は普段、ウルフスブルグのアウトシュタットに展示されている。そして、もう1台はベルギー、ブリュッセルにあるVWインポーター、D’Ieteren本社にある自社ミュージアムで大切に保管されている。

 レプリカとはいうものの、VW自身がオリジナルを忠実に製作した、会社の宝ともいえる貴重なプロトタイプモデルのVW30。今回弊誌『LET'S PLAY VWs』は幸運にもそのVW30のキーを預かり、ステアリングを託されることになった。ドライブが許されるのは短時間かつVWトレッフェン会場構内のみ、という極めて限定的なものであったが、筆者にとってはもう充分以上であった。

 五感を研ぎ澄ませながら、スーサイドドアを開け、VW30の運転席へ乗り込むことにした。シートはスプリングも無く、シートフレームにシート素材を張ることによって座面テンションを得る極めてシンプルな作りだが、沈み込みも無く意外な程快適だ。着座位置はビートルと比べると明らかに低いものの、床から生えるABCペダル、シフターとウィンドシールドとの距離感、窓ごしに広がる光景はビートルと極めて似ている。しかしバックミラー越しに広がる後方視界は全く異なった。

 VW30にはスクウェアなリアウィンドウが備わるものの、その視界はリアセクション全体を覆い被さるエンジンリッドに入るスリット越しで、ほとんど無いに等しい。恐る恐るスターターボタンを押してみると985cc、23.5馬力の空冷4気筒エンジンは何の儀式も必要なく簡単にスタートした。背後から聞こえるエンジンサウンドも、25/36馬力エンジンに共通する滑らかで心地よい音が響き渡る。

 シフターを1速に入れ、VW30を発進させてみる。もしあなたが空冷VWをドライブしたことがあれば、何の迷いも無くVW30を発進させることができるだろう。もちろんシフトチェンジはノンシンクロなので、慎重に行わなければならない。特に2速へのシフトアップはダブルクラッチで回転を合わせながら丁寧なシフティングが必要だ。しかしそれはスプリットウィンドウでも同じことだ。

 985ccのエンジンは、心なしか普段筆者がドライブしている36馬力エンジンよりもレスポンスが俊敏なように感じるのは、ピストンサイズが小さいことに起因するのだろうか、それとも気のせいだろうか。排気量が小さいことでアンダーパワーに感じることも無く、エンジンの素性が変わっている印象はほとんど感じることは無かった。

 路面から伝わる感触はビートルに比べて、ダイレクト感が強いように感じる。これはおそらくビートルよりも細い4.50-4.75 16インチのせいだろう。それにしても今回のVW30試乗で、ポルシェ博士がビートルの基本性能を戦前にほぼ確立していたことを、改めて実感することができた。その時代を卓越した技術力の高さは驚愕的なものであったというほかに表現が見つからない。

 ポルシェ博士がビートル開発の初期に製作した、V1からVW30までのプロトタイプの大きな特徴は、エンジンリッドデザインにある。リアウィンドウは備わるもののこれをエンジンリッドが覆い、視界はリッドに入るスリット越しであったのだ。やはり後方視界に問題があり、VW38でおなじみのスプリットウィンドウに発展した。

 搭載されるエンジンは985ccの23.5馬力。プロトタイプV1〜3の段階では、コストの問題で空冷2気筒エンジンが検討されていたが、やはりパワーの問題で4気筒が採用されることになった。

極めてシンプルなインテリア回り。ダッシュのデザインは形状こそ異なるものの、基本的なレイアウトはVW38以降のスプリットにも共通する項目が多い。計器類は速度計のみで、これに警告灯とセマフォー、ヘッドライトのスイッチが備わる。シートにはリクライニングはもちろん折りたたみ機構も無く、リアへはフレームを丸ごとスイングさせてアクセスする。

ウルフスブルグにある「オートミュージアム・フォルクスワーゲン」には、再現されたVW30ボディの木型が大切に保管展示されている。

フロントフードを開けるとガソリンタンク、スペアタイヤが収まり、これ以外のトランクスペースはほとんど無い。

カメラ&テキスト:Shin WATANABE 渡辺慎介
媒体:LetsPlayVWs 49

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