2019.05.20

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

1,775ccの排気量と徹底した軽量化で、好タイムを叩き出す!

 1960年代、一部のクルマバカ達が、空冷VWに潜む高いポテンシャルに目をつけた。軽い車体、拡張性の高いエンジンに、豊富で安価なベースカー。手を加えれば小排気量のままでも驚くべきパワーを発揮する。思い思いのアプローチでさらなる軽量化とエンジンチューニングが施された空冷VWは、ドラッグレース最高峰の「NHRA」という舞台で瞬く間に大排気量のV8モンスター達を、駆逐していった。

 Inch Pincher、DDS、Anderson Bros.など、HOT RODとして暴れまわっていたVW GASSER達。しばらく後に生まれたソリッドアースカラーのスマートなCalifornia Lookとは違う、この時代のギラギラとしたアクの強い匂いを今に伝えているのが、ここで紹介する「Crazy Mouse」である。

 搭載されるエンジンは、ドラッグマシンとしては小さく思える1,775cc。あのInchPincherやInch Pincher Too!ほか、有名ドラッグレーサー達のシリンダーヘッドを担当していた『FF HEADS』フミオ・フカヤ氏の愛弟子であり元『FF ENTERPRISE JAPAN』代表、現『NANO SPEED』代表の長野氏が製作したものだ。

 この車高、華やかなレタリング、そしてInch Pincherの流れを受け継ぐ由緒正しいエンジンを積むということは、当時のVW GASSERを現代に再現するために、さぞや当時の資料を研究し尽くしたのだろう。しかし、オーナーの渡辺さんに聞いてみるとそうではないらしい。

 「VWに限らず60年代のGASSERは大好きなので、2014年にレタリングを入れる時は当時の資料を研究したんですけど、最終的にこうなったのは、たまたまなんですよ。このクルマを作ったのは、ステップアップした仲間達と同じクラスで一緒に走りたい!というのが始まりで、兄弟みんなでそのクルマを作って走らせられたら、素敵だなと思って。試行錯誤していろんな人に助けてもらったら、こうなりました」

 初めてのVWであるカルマンギアでドラッグレースを楽しんでいた渡辺さん。当初は仲間達とマイルドなストリートエンジンでエントリークラスに参戦していた。しかし仲間達が徐々にステップアップし、13秒台~14秒で争う上のクラスで走るようになった。自分も同じクラスで走りたかったが、その時積んでいた1,775ccでは到底14秒以下で走ることは難しい。たどり着いた答えが、自分たちの努力でできる軽量化を頑張れば、1,775ccでも14秒を切れるかもしれないというもの。

 カルマンギアより軽量化に有利な格安のフラットブラックのタイプ1を手に入れ、外見は後回しでボディの軽量化の作業を兄弟たちと行っていた。仕事が終わってから深夜までの作業を繰り返し、兄弟で作り上げたマシンがようやく形になった時、なんと喜び勇んでエンジンを回しすぎ、シリンダーヘッドを壊してしまった。

 このアクシデントにより、プロジェクトはエンジン製作資金が貯まるまでストップしてしまうが、ただでは転ばない渡辺さん、この期間に予定に無かったボディのペイントまで自分たちで行ってしまう。元々60年代のドラッグレースのスタイルが好きだったのもあり、ボディカラーはレタリングが映える濃いグリーンメタリックを選んだが、ここまで本格的に仕上げることは想像していなかったという。

 当時のGASSERを彷彿とさせるフラットブラックのインテリアも、それを目指して塗ったのではなく、ベースカーのまま残せたから、と。

 このVW GASSERの創生期を思わせる車高も、当初、下げて走ってたらまっすぐ走らず、『One Low』の田崎さんに相談したところ、フロントはストックの高さの方が良いということでアライメントを含めてお願いし、現在の車高になった。由緒正しいFF HEADS製のエンジンを選んだのも、栃木に住んでいた頃、近所だったからとお世話になっていたのが『FF ENTERPRISE JAPAN』だったから。1,775ccという排気量も、元々カルマンギアに積まれていたエンジンをベースに圧縮比とカムでパワーアップを目論んでいたためである。

 資金の目処が付き、長野氏のノウハウが詰まったシリンダーヘッドを組み込んだことで、エンジンが完成。2009年秋、シェイクダウンの日がやってきた。仙台のジャパンドラッグレースウェイでの目標タイムは13秒台、13秒99でもいいからと兄弟達が見守る中、予想を大きく上回る13秒前半のタイムを叩き出した。

 まっすぐ走らず恐怖の直進安定性という課題は残ったが、兄弟達と作り上げたクルマで目標を達成するという願いは、予想外の好成績と共に叶った。その後、足周りの改善、FRPフェンダーの採用などさらなる進化をコツコツと繰り返し、ついにベストタイム12秒35という、驚異的なタイムで走るまでに進化する。

 以降5年間パフォーマンスアップのみを追求してきたが、2014年、仙台のジャパンドラッグレースウェイがその年で閉場するというニュースをきっかけに、後回しにしてきたエクステリアの仕上げを決意。ぼんやりと思い描いていた姿を現実にするために当時の時代背景を研究し、『MOON EYES』のWILD MAN石井氏に、レタリングとピンストライプを依頼した。

 ちなみにリアクォーターに描かれた「I/G」は、VW GASSER達が当時の最先端の技術を競っていた、H/Gの一つ下のクラスにあたる。リアフードに描かれるネズミとCrazy Mouseの名前は、シボレービッグブロックを示すRAT MOTORという通称にあやかったもの。

 世界中のVWコスプレイヤー達がeBayで探し回るようなマニアックなパーツなど一切無しで、Crazy Mouseがあの時代の空気を感じさせるのは、お手本もハイパフォーマンスパーツもあまり無い時代に様々なアプローチを繰り返し、手探りで進化させてきたVW GASSER達と、聞きかじりの知識や先入観に惑わされることなく兄弟と仲間達の絆の元、試行錯誤しながらも目標に向かって目の前の問題に立ち向かうという、渡辺兄弟のスピリッツがリンクした結果、というのは少し考え過ぎだろうか。

現在のメインステージであるツインリングもてぎ、staginglane.netが主催する「VW Drag In」での一コマ。隣にはPRA Stock Modified B(2リッター以下)のレコードホルダーの、HAULER MOTORS。

フラットブラックとアルミパネルで構成される、ワイルドなインテリア。ロールケージは、リアのトランスミッションまで繋がり、ドライバーの安全とパワートレーンを受け止める強度を確保している。DIESTのレーシングジャケットが、雰囲気を盛り上げる。

当時のGASSERも採用していた、MOONEYES製ガソリンタンクが備わるフロントセクションは、必要最低限の部分を残し、パネルが切り取られている。軽量化のため、配線も必要最低限なもののみで新たに引き直されている。

当時物のLEE FILTERとフロントクォーターのE ELCOデカールは、外観上確認できる数少ない当時物のアイテム。PRA、staginglane.netの車検パスの際に貼られる数々のデカールが、Crazy Mouseの積み重ねてきた歴史を物語る。

MOONEYES製オイルキャッチタンクとイエローのエキゾーストパイプが、VW GASSERとのリンクを感じさせる。90.5mmボアに、黄金比ともいえるin40mm、ex37mm、燃焼室と、各ポートの仕上げに『NANO SPEED』長野氏の膨大なノウハウが詰め込まれ、驚くべきパワーが絞り出される。

カメラマン:Kiyoshi WADA 和田清志
テキスト:Kouichi ENDO 遠藤幸一
媒体:LetsPlayVWs 52

NEWS of IN THE LIFE

ARCHIVES

RANKING

POPULAR TAG

NEWS

SEARCH