フライフィッシングのメッカの、頼れるプロショップ
「昔に比べて魚が少なくなったねぇ」。こんなため息交じりの釣り人の小言は、日本のみならずアメリカでも聞こえてくる。いくら秘密保持に定評のある釣り人という人種でさえ、インターネットで釣り情報を共有していて、なかなか穴場というものもなくなったし、テクニックや道具、秘密の仕掛けも知られてしまっている。
しかし人類の英知インターネットの情報をもってしても、魚は釣れないこともある。そんなネットの情報も自分も何もかも信じられなくなったとき、一番頼りになるのが釣り場の近くの釣具屋だ。長年来る日も来る日も地元のフィールドと共に営業してきたそれらの店は、悩める子羊たちに必ずいいアドバイスを与えてくれるし、釣り人が欲しているもの揃えてくれている。
今回は、フライのメッカ「キャッツキル」の中でも人気の川、デラウェアリバーとウィロームッククリーク沿いに、前々回の連載「フライフィッシャーマン・ダン」 がレコメンドしている2つの店があるというので、急遽訪ねてみる事にした。
ドライフライの専門店『The Delaware River Club』

デラウェア・リバーは全長674km、東海岸の5州をまたいで大西洋に流れる巨大な河川で、アメリカでトップ5に入る自然見溢れる川だとも言われている。
その上流域は川自体がペンシルバニア州とニューヨーク州を分かつ州境になっており、南西のペンシルバニア側に今回訪ねたフライ専門店「デラウェア・リバー・クラブ(以降DRC)」がある。敷地一帯は長閑なリバーサイドリゾートとなっていて、宿泊施設も併設。フィッシングガイドサービスやフライフィッシングスクールも開いているので、家族で行っても一日楽しく過ごすことができるのだ。本格的なフィッシングトリップの力にもなってくれるし、旅行ついでに道具を借りて、ガイドしてもらって釣りを楽しむこともできる。
フライショップの買い物できるスペース自体は30平米あるかないかという小さめの作りだが、釣り人が現地に来て欲しいものは必ずある!
あっ、ちなみにクラブという名前がついているものの、会員以外は入ることができないなんて事はなく、だれでも気軽に立ち寄ることができるからご安心を。


「私たちのミッションは、やってきた釣り人にアッパー・デラウェアを楽しんでもらう事。そのために自分達が教えられるスキルや情報は惜しみなくお伝えしますよ」
一目でみて最適なフライ選びができるようにショップオリジナルでフライのチャートをつくって配るなど、一見さんにだって優しく教えてくれるし、川がすぐ見える所に店があるので、天気や流れといったコンディションを見極めて的確なアドバイスをしてくれる。しかも、ブログで毎日の水温や川の様子をレポートしていて、おすすめのフライまで書いてくれているから本当に頭が下がる。
「デラウェア・リバーは野生のパワフルなトラウトが釣れる、恵まれた場所なんです。川幅が広くて流れが強い川だとウェットフライで釣ることが多いと思いますが、このあたりは羽虫が多いからドライフライを使ったエキサイティングな釣りが楽しめます。うまくいけば20インチ(約50cm)オーバーのブラウンやレインボーが上がることも!」



【Information】
The Delaware River Club
Address:1228 Winterdale Road Starlight, PA, U.S.A.
営業時間:8:00~18:00(月曜~日曜)
http://thedelawareriverclub.com/
創業90年の超老舗『Dette Flies』

ニューヨーク州のほぼ中央部に位置するキャッツキル。フライフィッシング好きならその名前を聞いたことがある人も多いだろう。 キャッツキルとはアメリカのフライフィッシング発祥の地とも言われているエリアで、なだらかな低山が集まった山地の総称である。19世紀にこの辺りでは、東海岸から入植したイギリス人がトラウトを放したり、貯水湖をつくったりして釣りを楽しみはじめ、次第にアメリカ独自の釣り方、現代に続くドライフライの歴史が刻まれ始めたのだ。
キッカケは1800年代の終わり頃、それまでフライフィッシングにはウェットフライしかなかったのだが、フライタイヤーのセオドア・ゴードンが「クイル・ゴードン」という史上初のドライフライを考案。これを皮切りに、アメリカにいる昆虫を模したドライフライをつかう、アメリカン・フライフィッシングの時代がやってきた。キャッツキルではゴードンに影響を受けた人々によって文化がうまれ、今なお多くのレジェンドフライフィッシャーやフライタイヤーを輩出中なのだ。


次に紹介するディティ・フライズは、キャッツキルの中心に流れるウィロームッククリーク沿いに建つフライショップ。レジェンドフライタイヤー夫婦が始めた同店の創業は1928年。家族経営のフライショップでは全米で一番長い歴史を持っているという。
せっかくなので、同店の歴史をご紹介しよう。
創業者のウォルト・ディティとその妻ウィニーは、1928年、趣味で作っていたフライを当時の家業として経営していたホテルで販売開始。葉巻を入れるためのボックスを利用して細々とフライを売っていただけだったそうだが、シーズン中は釣り人がよく利用するホテルだったので購入者が多く、その素晴らしい出来もあってすぐに評判を呼んだ。思わぬ盛況ぶりに、ディティ夫婦は僅か2年でフライフィッシングショップを開く決心をした。店を開いた後、戦争でフライフィッシングが下火になった時期はあったものの、事業は無事に存続。1950年代には彼らの娘メアリーもフライタイイングの道に進んだ。彼女も並々ならぬタイイングの名手で、ディティ・フライズは彼の地においても一目置かれる存在となり、今やメアリー・ディティは、最後の"キャッツキル・フライタイヤー"と言われていている。
閑話休題、話は現在へ。
ホテルの一角で始まったディティ・フライズの事業は、今年めでたく90周年を迎えた。生けるレジェンド、メアリーは数年前に経営からは引退してしまったらしいのだが、家族経営は今なお続いている。
「キャッツキルのフライフィッシング博物館にはディティ親子の作ったフライが展示されているんです。彼らが評価されているのは、フライの完成度や新しいスタイルのフライを作ったこともそうですが、何よりの功績は、フライ作りを世に広めたことにもあります」
とは店番を務めていたショップスタッフのマイクの言葉。どうやら昔はフライの作り方は基本的に門外不出なものだったけれど、ディティファミリーはタイイングを教えるセミナーを開き、その作り方を開示。結果フライフィッシングそのものを盛り上げる活動に一役買っていたのだという。
そんな彼らの意志はちゃんとファミリーに引き継がれていて、ショップのWEBなのにフライの巻き方をレクチャーするページもあったりする。

ここまで話しを聞いたなら、どれだけディティ・フライズがフライに力を注いでいるか、想像が難しくないはず。
現在店頭に並んでいるフライは店が腕を認めた19人のタイヤーがつくったもので、どれも上質なマテリアルで作られている。また、この店以外で聞いたことはないのだが、もし十分な数の魚を釣り上げぬまま壊れてしまうようなことがあれば無償で交換してくれるという、絶対の自信の元に成りたったサービスも展開。
さらに面白い試みでいうと、フライカスタムオーダーも受け付けていて、プロの腕で自分好みのフライを作ってもらえるらしい。
ドライフライに関して一家言も二家言もある釣具店。聖地キャッツキルに訪れた際は絶対に訪れるべきだ。



【Information】
DETTE FLIES
Address:13 Main Street, Livingston Manor, NY, U.S.A.
営業時間:8:00~18:00(月曜~日曜)
https://detteflies.com/