2018.04.18

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

カナダ最古の国立公園に佇む、Killarney Lodgeへようこそ

カヌーは各キャビンに1つずつ。反対側の岸まで漕いでピクニックをしたり、釣りをしたりとアクティビティはさまざま。ライフジャケットはメインビル近くの小屋で借りることができる。

まだ9月だというのにキンと冷えた空気が肌を刺す。薄れ始める朝もやの中、かさりという音に振り向くと、朝ごはんの真っ最中のリスと目が合った。アルゴンキンの森の日常風景って、こんな感じ。

“自然に還る森”アルゴンキン州立公園

食事だけに訪れる客も多く、ダイニングルームはいつでも 満席状態。メニューはだいたい季節のものと決まっている。

 カナダで最も古い州立公園にして国定史跡でもあるアルゴンキン州立公園。静岡県ほどの広さがあり多くの池や湖が点在する。カナダの首都オタワや第一の都市トロントからも車で3時間ほどと比較的近いため、今も昔も都会っ子たちが週末や休暇をのんびり過ごすリゾートとして人気がある。20世紀初頭まではトロントから汽車で来ることが可能で、大きなホテルがあり釣りやカヌー遊びを楽しむ紳士淑女でいつもにぎわっていたという。

 だが今ではホテルは解体され、公園内には3つのシンプルなロッジを残すばかり。人気がなくなったのではない。公園を自然の姿に還すためだ。なにしろ公園内にはかつて多くのオオカミが生息していたが、20世紀にはずいぶん数が減ってしまった。だからホテルの経営者が変わるタイミングでオンタリオ州が施設を買い取り、解体して元の森の姿に戻したのである。アルゴンキン州立公園は自然に還る。人間のレジャーではなくオオカミなどの野生動物たちを育む森に。
 
 そんな公園の環境を存分に楽しめるのが、キラーニーロッジ。公園内にたった3つ残った宿泊施設のうちのひとつだ。ちょうど公園の真ん中あたりに位置し、Lake of Two Rivers(ふたつの川の湖)と呼ばれるレイクサイドにたたずむ。設立は1938年。完全なる家族運営、手製のログハウスで、朝昼晩とサーブされる料理もすべておばあちゃんの手によるもの(設立当時)だ。今でもここへダイニングを目的に訪れる人も多く、レストランは宿泊客だけでないにぎわいを見せる。公園内には商業施設がほとんどないこともあるが、やはり伝統的に「ここの料理はおいしい!」と評判なのだ。
 
 敷地はちょうど半島のように湖にせり出した場所にあり、花々が咲き乱れるガーデンに赤い屋根のかわいらしいログハウスが湖岸に沿って建てられている。それぞれのキャビンにはカヌーがついており、部屋から直接湖へとアクセスできるので、宿泊客は24時間好きな時間にカヌーで漕ぎだすことができる。これぞまさに〝地の利〟。そう、まるでマイ・カヌーとばかりに気軽にカヌーに乗れるのが、こんな湖畔のロッジのいいところ。貸自転車かなにかのような感覚なのは驚きだが、アルゴンキン州立公園ではそんなの当たり前なのだ。カヌーがなければ始まらないのである。

手作り感のあるログハウスは一部屋ごとにデザインが違う。どれもシンプルだが温かみがあり、居心地のよさにうっかり部屋に閉じこもってしまいそう。

目の前の湖は「ふたつの川の湖」と不思議な名前。時折ビーバーがせっせと泳いで横切ったり、ルーンという水鳥がぷかぷか浮いていたりする。

自然の中にいさせてもらえる、それが幸せ

ダイニングルームと団らん用のキャビンも独立しているほか、インターネットが使える小屋もある。とはいえせっかくここまで来たのなら、デジタルデトックスといきたいところ。

 朝。時差ボケのせいか、ちょっと早くに目が覚める。森の中に建てられたログハウスの窓外はうっすらと白くけぶり、霧がたちこめているのがわかる。せっかくだから散歩でも……ベッドから抜け出してドアを開けると、さぁっと湿った冷気がすべりこんでくる。「寒い!」冬物のジャケットを羽織って外に出て、朝霧に濡れた落ち葉をふわふわと踏みながら目の前にある湖へ。

 ひたひたと静かに揺れる湖面にも霧がかかり、なんとも幻想的な風景が広がる。清澄な空気を胸いっぱいに吸い込むと、身体の奥のほうからエネルギーが湧き上がってくる。白み始めた空が赤みを増していくにしたがって霧もだんだん晴れてくる。今日はなにをしようかな。湖面に揺れるカヌーを眺めつつ、答えは決まっているのにまだ見ぬ1日に心を躍らせる。これだけは100年前から変わらない、アルゴンキンの朝。

ワンルーム、2ベッドルームなど間取りもいろいろ。 少し離れたところには3ベッドルームの家族向けキャビンもあり、キッチンがついている。

宿泊には3食の食事がついている。昼と夜のメニューは日替わりで、肉、魚から選ぶ。季節の新鮮な 食材を使い、ここでも自然の恵みに身体が喜ぶ。

カヌーを漕ぐのに自信がなければ宿の人にちょっと相談してみよう。スタッフが丁寧に教えてくれ るし、コツをつかめばすいすい進めるようになる。

人は昔から自然の中で遊ぶのが好きだった

 カナダ東部、首都オタワと北米4位の大都会トロントがあるオンタリオ州には、カナダの総人口の3分の1が住んでいる。そんなオンタリオ州で最古にして最大の州立公園が、アルゴンキン州立公園。広さは7630㎢、実に東京都の3倍以上の大きさの森、そして湖沼や河川、それにそこに棲むさまざまな動物たちと〝手つかず〟の大自然が広がる。
 
 だがアルゴンキン州立公園ははじめから〝手つかず〟だったわけではない。このエリア一帯が州立公園に制定されたのは1893年。材木を運ぶために公園まで列車が開通し、列車駅のすぐそばに鉄道会社によって大きなホテルが建設されると、トロントからたくさんのレジャー客が訪れるようになった。100年前の人々もまた、自然の中で遊ぶことを好んだのである。
 
 だが徐々に野生動物の数は減っていき、州政府はこれを反省。公園制定から約50年後の1954年、公園内をもとの自然の状態に戻すことを宣言し、現在にいたる。今や動植物の宝庫となっているアルゴンキン州立公園だが、実はこんな歴史があったのだ。

HUNT vol.9

現在あるコテージもいつかは自然の森に戻される。

アルゴンキン公園駅に停車する蒸気機関車。

ムースやアメリカクマなどの大型野生動物の宝庫。

カヌーは100年前から人気のアクティビティ。

これこそがカナダの原風景なのかもしれない。

案内所にはかつての様子がわかる興味深い展示が。

photo:Daisuke Akita/text: Shie Iwata
取材協力:オンタリオ州観光局

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