2019.06.06

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

見た目は旧車、中身は最新!! 「日米、改造電気旧車トレンド~ICON~」

ある人は言った「ヴィンテージカーに最新のテクノロジーを投入したい」。 ある人は言った「内燃機エンジン自動車に比べ、EVを作るということは至極簡単なことだ」。ならば、ヴィンテージモデルにEVをコンバートすれば良いではないか!

 現在のEV業界というものを俯瞰してみたときに、どちらかというと"これまでの内燃機エンジン自動車"に寄り添い、世界のすべての自動車がEVになるとは思いもしていない旧来のクルマ好き層と、EVをすでに、生活する上において必要なガジェットのひとつとして捉えて"EVが中心の世の中になる"とイメージしている新興層とに分かれていると思っている。

 かくいう私も、つい最近まで前者に近い考えだったが、もはやEV化の流れは誰にも止められないものだと気づいたし、自動車産業が大きなビジネスとなっている日本にとっては、いま波に乗らなければ、確実に後れをとってしまうことだろう。といった現状の中で、昨年の米SEMAショーに出展された「ICON」が作り上げたヴィンテージマーキュリーをベースとしたEVがユニークなので、それを題材に話を進めよう。

 先述した、いわゆる旧来のクルマ好きの多くは、旧車をベースに現行技術をコンバージョンすることを一度は夢に描いたことがあるだろう。例えばボディはAE86で、エンジンはV6ターボに乗せ換えるとか、バイクならばZ1にZRXの足まわりを組み込むとか、通常では絵空事のようなことであっても、世の中にはそれを実現してしまう人も、実はいるのだ。

 昨今では、クルマもバイクもメーカー自身がオマージュモデルを発表し、それらが人々に受け入れられているのも近しい事例ではないだろうか。ここで紹介する1949年式のマーキュリーは、見た目こそ当時のままのオリジナルを忠実に残しているものの、強力なEVとして作り上げられたコンバージョン車だ。

外装には手が加えられず以前工場で塗られたペイントがそのままの状態で残されているが、シャシーや足回りに関しては図面からオリジナル設計されている。70年前に作られたクルマに、最新のEVパワートレーンがスワップされたこのマーキュリーは、まさしくタイムマシンのような一台なのだ。

 カリフォルニア州に拠点を置くICONは、カスタムカービルダーであり、四輪駆動モデルをはじめヴィンテージタイプのモデルを次々と輩出してきた。その中の「DELELICT」と名付けられたモデルラインは、その言葉のごとく"放置されたもの"をベースとしており、発売から現在までの経年劣化した雰囲気はそのままに、現代のテクノロジーを用いた機関を組み込むというものなのだ。

 パワートレーンをEVとしたのは今回手掛けたマーキュリーが初の事例となった。当初マーキュリーに搭載されていたV8エンジンは撤廃され、ICONとEVソリューションブランドであるStealth EV社が共同で開発した2基のモーターが搭載されている。興味深いのはボンネットフードを開けると現れるこの心臓部が、まるでV8エンジンのようにレイアウトされていることだ。テスラの85kWhバッテリーと組み合わせられ、最高出力は約400馬力を誇るマッスルカーでありながら、航続距離に関しても150~200マイルと実用的な数値をたたき出している。

 元々給油口があった場所と、傾斜した格好で取り付けられたフロントナンバープレートの裏に、それぞれCHAdeMO 125Aとテスラ・スーパーチャージャーの充電プラグが備わり、わずか90分でフル充電することが可能となっている。

 ICONの代表でありこのマーキュリーを生み出したJonathan Wardは

「"現在量産されているEVのほとんどはクルマ好きの心を掻き立ててくるような魂が感じられないのはなぜだろうか?""EVコンバージョンキットのようなアフターパーツマーケット業界の進化が遅いのはなぜだ?""現代の性能や機能を備えたヴィンテージカーを作る際に、それらの問題を解決してくれるオピニオンリーダーが出てくるのか?"というようないくつかの疑問がわき出したのが、今回のプロジェクトの発端となった。マーキュリーを実際に製作してみて、EVの世界にはまだまだ可能性があり、これはまだ新時代の幕開けの序章に過ぎないと思う」

と話す。

 もちろんこだわりや苦労がたくさんあり、その努力たるや並大抵のものでは無いことも充分理解しているが、こういってはなんなのだが既存のクルマをベースにEVへと変更することは、思っていたほど高いハードルではないのかもしれない。

 日本EVクラブなどではこれまで数えきれないほどのEVを自主制作してきているし、昨今ではEV化するためのコンバージョンキットなども開発され始めている。その中にあってこのマーキュリーがすごいのは、外観こそ経年変化をしっかりと残したスタイリングではあるが、ゴム類からはじまり断熱材や消音材などインテリアのすべてを快適にリニューアルした上、EV化したことだ。これはオリジナルショーカーの製作に長けた、カスタムビルダーならではのスキルが感じられるものであり、プロフェッショナルのこだわりを感じさせるフィニッシュとなっている。

V8エンジンをモチーフに作り上げた心臓部はホットロッドを連想させる。中にはバッテリーやコントローラーシステムが収められている。

 ヴィンテージと呼ばれるものは年月によって生み出さされる味わいや深みを持っており、それが人々の脳に残された記憶をくすぐる。その部分をしっかりと残しつつ、乗車中はまったく無音ともいえるほどの静粛性を持ちながら、超強力な走りを堪能することができる。やはりこれはEVならでは可能とすることなのだ。

 このマーキュリーは昨年のSEMAショーで高い評価を得たのち、様々な国のメディアによって取り上げられた。もしかするとブームに火が付き、他国のカスタムビルダーも追随してくる可能性も大いにあり得る。

オリジナルを再現したコクピットの中央に収まるデジタルディスプレイには、オリジナルのアナログメーターをモチーフに表示される仕組みだ。

ICONの代表でありEVマーキュリーを作ったJonathan Ward。今回の車両でヴィンテージモデルとEVのコンバージョンの可能性を実証した。

 
 
Text:Dan Komatsu
媒体:『E MAGAZINE』 Vol.2
 
 

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