アメリカの自動車趣味の世界は多種多様であり、2,000ドルでサルベージしてきたビートルをコツコツと数年かけて再生させるプライベートレストアラーもいれば、巨万の富を武器にクルマをイチから作らせたり、ボロボロの車両をヴィンテージカー専門の工場にレストアさせる趣味人までいたりする。
この多様性はイベントでも見ることができ、ガラクタ同然の細かなパーツをブルーシートの上で販売するスワップミートもあれば、ペブルビーチなどに代表される、そのオリジナル度と稀少性を競うコンクール・デレガンスが開催されたりもする。
これは優劣の問題ではなく、個人の趣向性によるところが大きいが、投じた金額の大小が、少なからずクルマの遊び方にも反映されるのは残念ながらアメリカのみならず万国共通だ。
ゆえにそれぞれのグレードを相手する専門店というのも様々にあり、今回この項で紹介するショップはトップグレードの趣味人を担当しているといえるだろうか。その名はMM garage。カリフォニアはニューポートビーチにあるそのショールームは、大理石の床が敷き詰められ、多数の高価なヴィンテージカーが鎮座する。美術館や博物館さながらの格式高い雰囲気を醸し出し、ふらっと入る一見さんは相手にしないようにも思えるが、これが予想とは逆に友好的。
MM garageのオーナーのひとりであるモーリスさんは、粗末な衣服をまとう我々であっても決して嫌がることなく(笑)、真摯な対応で美しいショールームの中をくまなく案内してくれた。
「ここに展示されるヴィンテージカーたちは非常に珍しく高価なものばかりです。だから一見さんは勇気を持てず、ショールームの中に入ってきてくれません。けれど我々としては、買わずとも見てくれるだけでいいのです。クルマが好きな人たちと楽しい時間を共有したいだけなのですよ。そして彼らの中に良い思い出を植え付けることができれば本望です。我々、自動車趣味人はみんなが一緒で、幼少の頃にミニカーで遊んだ同志なのですから」
なるほど納得。彼の言葉を訊くと、冒頭で書いたように自動車趣味のグレード分けをした自分が恥ずかしくなる。事実としてのグレードはあるかもしれないが、心情的な見地で考えれば、趣味の世界に段階や優劣などは決して存在しないのだ。自分は何が好きで、何を信じているのか。相手がどう思うか、なんてことは全くもってどうでもいい話じゃないか。
眼前に佇む稀少なヴィンテージカーたちを前に、ぐるぐると思い巡る自動車趣味への考え方。頭でっかちだった自分を振り返り、また新たな気持ちでクルマへと向き合うと決めた実に思い出に残るMM garageへの訪問だった。ぜひともまたここを訪れたい。







MM garage
http://www.mmgarage.com
Photo:Soichi Kageyama
Text:Kota Engaku
媒体:『VINTAGE LIFE』 Vol.21