かつて日本では「ラブ・ストリーは突然に」なんて楽曲が大ヒットを記録したけれど、そう、まさにそんな一目惚れのような出来事が、彼の地カリフォルニアで突然起きたのだ。
僕らのハートを射抜いたのは、程よくやれた2ドアサルーンのボルボ242。LAセントラルへと向かい、サンフェルナンド界隈をドライブしていたところ、僕らは彼女を見つけた。ボルボらしいスクエアなボディラインは以前から好みだったが、彼女に惹かれた一番の理由はその座り具合と足もと。極限まで下げられた車高に、太いリム幅を持つスチールホイールは、これまでに見てきたボルボのスタンダードを覆すほどに艶っぽく魅力的で、僕らはすぐさまクルマを停め、彼女の前へと駆け寄った。
アメリカナイズされた北欧美人を前に、我々は何の断りもなく写真を撮り始めたのだが、よく見ればそのブルーのお肌は経年変化により多少やれてはいるが、ゆがみやサビもなく、新車からのストレートボディを維持している。見るほどに魅力的で、もう彼女を連れて帰りたいとさえ気持ちが高まっていると、程なくして奥からひとりの男性がこちらへと歩いてきた。どうやら彼女は彼のものらしい。
「いいだろ、俺のボルボ。セクシーそのものだ。もし興味があるなら中へと入っておいでよ」。一見強面だがその声は優しく、我々を迎え入れる姿勢が感じられた。言われるがままに奥の工場へと足を踏み入ると、彼は1本のホイールを抱えながら、先ほどの話を続ける。
「あのボルボがセクシーなわけはこのホイールだ。オールスティール! いまどきなんで重い鉄だよって思うかもしれないけれど、見た目をグッとクラシックにしてくれる。俺が作っているんだよ。サイズ、リム幅、PCD 、オフセット、どんな車種にでも合うように作るんだ」。
聞けばここはCorsa Velocitaという彼が経営する工場であり、鉄ホイールの製作を主に行っているという。確かにそのホイールは実に完成度も高く、往時のツーリングカーレースを思い起こさせてくれる。
「オマエはどんなクルマに乗っているんだ? あのボルボは譲れないけれど、オマエの愛車を彼女みたいにセクシーにしてやるよ!」




CORSA STEELIES
https://www.corsasteelies.com
Photo:Soichi Kageyama
Text:Kota Engaku
媒体:『VINTAGE LIFE』 Vol.21