2018.04.02

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

野鳥研究家 室伏友三さん、リトアニアの文化と野鳥保護を語る

野鳥研究家の室伏さんは、2014年からリトアニアでもコアジサシの研究を行っている。 今年も20日間滞在してきたという、彼の地の魅力を語ってもらった。

昔日本にあった風景が残っている

東洋のシンドラーと言われることもある、杉原千畝(1900-1986)。

 いきなり年齢の話から入るのは失礼ではあるが、野鳥研究家の室伏さんは御歳68歳。一般的には高齢者と言われるお歳だが、全くそれを感じさせないほど、フィールドワークに、研究にと忙しい日々を過ごされており、海外にも頻繁に出掛けている。今回は、室伏さんが今最も親密なリトアニアについて語っていただくことにしよう。

 「初めてリトアニアに行ったのは3年ほど前です。杉原千畝(ちうね)の足跡をたどるため、バルト三国を一人で旅したんですよ」リトアニアは古くは旧ソ連に占領されていたが、現在はEUに加入。フィンランドから見るとバルト海を隔てた東側にある。杉原千畝は1939年、第二次世界大戦が始まる直前にリトアニアの日本領事館で領事代理となった。翌40年に亡命を希望し領事館まで押し寄せてきたユダヤ人に独断でビザを発給し、約6000人ともいわれる命を救った人物だ。室伏さんは彼の地にある杉原記念館などをめぐるうち、リトアニアには日本と同じ動植物が数多く生息することに気付いた。

 「日本は東の端、リトアニアは西の端だけど、同じユーラシア大陸周辺。そのためか、同じ種がたくさんいるんですよ。猪、スズメ、カラスとか。色の違いなんかはあるけれど、基本は同じ種なんです。僕は日本やオーストラリア、ニュージーランドなど、太平洋地域でコアジサシの研究を約30年やってきたので、今度はリトアニアまで視野を広げてやってみたらどうだろうと思いついたんです」
 
 陸を移動する動物より、鳥は空を飛ぶ分、行動範囲を把握するのは難しい。昔は鳥を捕まえて足にリングをはめ、その鳥をどこかで偶然見つけられれば、点と点を結んで移動線を導き出せるという原始的な方法が採られていたが、最近はジオロケーターという電子チップを足に取り付けることで、より正確な移動の経緯が割り出せるようになった。毎年同じ場所に帰ってくる鳥であれば、毎年同じ時期にそこにいれば、その鳥を捕獲できる可能性は比較的高いというわけだ。

必死で親を呼ぶ姿が可愛らしい、アシナガワシのヒナ。 ヨーロッパでは数が減少しつつあるが、リトアニアではまだかなりの数を確認することができる。

コアジサシは一般に巣らしい巣をつくらないため、卵を見つけるのはかなり難しい。ヨーロッパのコアジサシは1年に1度、1~2個ほどしか卵を産まない。

 室伏さんは、リトアニア大使館を通じてリトアニア教育大学にコアジサシの共同研究を行うことを働きかけた。2014年にはリトアニアで3羽のコアジサシにジオロケーターを取り付け、今年はそのうちの1羽を再捕獲。また新たに15羽にジオロケーターを取り付けた。
「日本で得たノウハウを上手く生かせているんじゃないかと思います。僕は今、世界中のコアジサシが同じ種なんじゃないかという仮説を立てているんです。これまではそれぞれの地でそれぞれの種がいると言われていたんですが、僕はコアジサシは世界中を行き来していて、交雑してるんじゃないかと思っているんです。リトアニアの活動が身を結べば、それを証明できるんじゃないかと期待しています」

 他にも、旅行会社のクラブツーリズムと共同でリトアニア観光ツアーのプログラムを組んだりと、室伏さんの活動の幅は研究だけに留まらない。
「なぜそこまでリトアニアにこだわるのかというと、単純に魅力的だからですよ。歴史的な建物と新しいビルがとても上手く馴染んでいて、とにかく街が美しい。自然との共生の仕方も素晴らしいし、景観を大切にしている。大量の雪解け水のおかげで、動物の餌となるプランクトンが大量に発生し、それが生態系を豊かにしている。渡り鳥がやってきたから農業を始めようという、昔は日本のどこにでもあった風景が残っているんです。一度訪れれば、きっと誰もが好きになると思いますよ」

リトアニア名物のピンクスープ(冷製スープ)とギラ(夏によく合うさっぱりした飲み物)、ジャガイモ料理。日本人にも馴染み易い味が多いとか。

集団営巣地は、川の中州にあることが多い。捕獲したコアジサシはデータを詳細に取る。男性は室伏さんのご子息。親子で研究に参加した。

傷つけないように気を付けながら、ジオロケーターを足に装着する。一定時刻毎に記録される照度の変化から緯度経度を算出する仕組み。

リトアニアの国鳥でもあるシュバシコウは、日本のコウノトリと異なりクチバシが黒い。煙突や電柱など、あらゆる高いところに巣をつくる。

室伏さんが首都ビリュニスの大学で生物系の学生を対象に特別講義を行った際のポスター。約60人の学生を前に、日本周辺の鳥について講義したという。

リトアニア共和国大使と室伏さん、リトアニアを語る

エギディユス・メイルーナス駐日特命全権大使 ガリナ・メイルーニエネ大使夫人:来日されて2年というメイルーナス大使。「杉原千畝さんがリトアニアでユダヤ人を救ってから75年になります。その事実をもっと若い人にも知って欲しいと思います」リトアニアには高さ300m 以下の山しかないため、日本の山林が魅力的とのこと。奥様のガリナさんは大学時代に日本への留学経験があり、日本語が堪能。

●室伏さん
「僕がリトアニアを初めて訪れてから3年しか経っていませんが、リトアニアのことがすごく好きになりました。そして日本と共通している点がたくさんあると思っています。共通の動植物が多くて、自然が美しい。けれど日本は、開発のために自然をないがしろにしてしまっています。その点、リトアニアは本当に素晴らしい。何よりも自然を尊重していますよね」

●メイルーナスさん
「そうですね。リトアニア人は昔から自然を愛し、崇拝しています。自然に対する畏敬の念は心に深く根付いており、美しい自然のいくつかはユネスコ自然遺産に登録されています。その代表的なものがクルス砂州です。リトアニアを訪れた日本のみなさんは、リトアニアでカトリックが入ってくる以前に崇拝されていた多神教と、日本の神道に共通点を感じるとおっしゃいます」
メ「シュバシコウは子どもを連れてくる、縁起のいい鳥です。そして日本の鶴と同様、リトアニアの国鳥に指定されています。リトアニアでは、コウノトリの巣作りの手助けをしたりしています」

●室伏さん
「2014年からコアジサシの共同研究をしていますが、早くも成果が出ています。またメディアに取り上げられるようにもなりました。大使には多大なご尽力をいただいています。ありがとうございます」

メイルーナスさん「室伏さんを始め、協力していただいている皆さんには本当に感謝しています。発展して、もっと様々なプロジェクトが始まっていけばいいなと期待しています」

HUNT vol.9

室伏さんが感銘を受けたという、ネマン川の光景。標識は最低限、道やベンチなどの整備も最低限にとどめられ、自然環境を尊重した開発がなされている。

首都ビリュニスから日帰りで行けるガルヴェ湖に浮かぶトラカイ城。その美しさは観光客に人気。リトアニアには他にも様々な美しい景色がある。

リトアニアでは、このように太陽のような模様がある十字架をよく見かける。カトリック教ではあるが、自然崇拝の信仰と巧みに融合していることの表れ。

リトアニアは決して豊かな国ではないため、社会主義時代の建物も多く残されている。木造建築が多いのも特徴で、いい感じの味わいが醸し出されている。

大使館で見せていただいた、リトアニアの名産物たち。 リネン、琥珀、ハーブ酒、カシスワイン、ミネラルウ ォーター、蜂蜜入り紅茶、ハーブティーなど。

歴史的遺産を現代に残すため、環境に配慮するためのみならず、犯罪抑止効果もあるとして、リトアニアでは騎馬警官隊が今も活躍している。

協力:リトアニア共和国大使館
photo:Yuzo Murofushi/text:Yoichi Sakagami

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