2018.04.12

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

北海道でしかできない物作り。鹿角シャンデリア『ディアホーンスミス』

枝分かれした勇ましいエゾジカの角。この形状をうまく利用し、シャンデリアやテーブルランプを作る山の上の工房。角が家具に変わる、その現場を訪ねた。

北海道が生んだ、ウェスタンアイテム

灯台やフレームの接点は、ねじで固定するため必然的に穴を開ける。そこを周りの角と同じ質感になるように、パテで埋めて塗装。すると、どこに穴が開いていたのかも分からないように。電気の配線も角の上を這わせ、樹脂で固定。本来上から見られることのないシャンデリアもご覧のとおり、上から見ても綺麗に仕上げられている。

帯広からウェスタンスタイルとアメリカンカジュアルを発信するショップ『ゴールドラッシュ』と、アウトドアファッションを提案するショップ『カリフォルニア ハーベスト』。森井英敏さんは、約25年前に、この2つの店を開いた、地元の洋服好きなら誰もが知る人物。そんな彼が6年前に始めたのが、鹿角を使ったインテリア事業。ブランド名の『ディアホーンスミス』は、そのままの鹿角職人という意味である。

「私は猟をやりませんが、店に立っていた頃から、地域柄ハンターのお客さんは沢山身近にいて、普通に生活していても鹿角に触れる機会はあったんです。それで、最初は角でアクセサリーを作れないかなと思って着手しました。そうしているうちに、かつてディスプレイの為に、メキシコから樹脂製の鹿角シャンデリアを輸入していたのを思い出し、これをエゾジカの角でやったらカッコいいだろうと、何年かの歳月をかけてプロトタイプが完成しました」
 
ディアホーンスミスでは、1930年代前後に活躍したカーボーイファニチャー職人、トーマス・モールスワースのモノづくりに敬意を表しながら、北海道でしか作れないプロダクトを生み出している。
 
工房は帯広市街地から車で30分ほどの小高い丘の上、森井さんの自宅の隣に建てられた、2階建てのログハウスである。林に囲まれたこの場所は、鹿の角という自然の恵みを加工し、新たな命を吹き込むのに相応しい場所に思えた。また、鹿角を削る時に出てしまう粉塵や騒音も、ここなら周りを気にせず、制作に打ち込めるという地の利もある。
 
鹿の角は、木や鉄、布、プラスチック等のように、簡単に加工して形を変えることはできない。鹿が生まれ育って培った、唯一無二の素材。なので、買い付けた大量の角の中でもシャンデリアに使えるのは半分以下(もちろん適さないものは他の製品に活用)。シャンデリアを組むのに、法則はなんとなくあるのだが、一本一本曲りが違うので個性を見極めなければならない。
 
エゾジカは本州に生息しているニホンジカに比べ、大きな角を持っているのが特徴。大きいモノでは三股に分かれ、長さが70㎝を超える個体もいる。つまり5年以上生きた勇敢で逞しい雄鹿であったということだ。シャンデリア1台あたり、鹿角約30本が使われているというので、雄々しい鹿15頭分の魂が詰まっているとも言えるだろう。……こんなことを言うと語弊があるが、完成したシャンデリアに只ならぬ存在感があるのは事実である。

「私のルーツは服の販売員なので、とにかくお客さんのことを考えたモノづくりを心掛けています。鹿の角の選定・加工から始まり、特注のフレームやチェーン。電装系の処理。個体差を無くし、重厚な雰囲気を作る為のペイント。手前味噌ですが、ここまで丁寧にやっている所は、世界的に見てもウチだけでしょう」

削りの加工や組み立て作業を行っている、スタッフの村上さん。ウールのハットにカーハートのウェア。この工房は服装自由、自分が楽しめる恰好で仕事をしてくれと言われているそう。

買い付けた鹿角を、サイズ別に保管しているストックルーム。地元のハンターから買い取る角は、年間1000本にも及ぶ。どの角をどう活かすのかは、森井さん自身も毎度試行錯誤。

『ディアホーンスミス』のクラシックなロゴマーク。

当初は服の倉庫兼事務所だったログハウスは、現在は作業場。ペイ ント担当の宮本さんはシカの頭蓋のオブジェを塗装中。美容室に納品予定だったので、オーダーの時に言われてこそないが、骨の黒ずみを自然な白さになるように調整。クライアントに合わせて雰囲気を変えるという、細やかな心配りが垣間見えたワンシーン。

夜を彩る雄々しき鹿へのレクイエム

カナダ製の味わい深い生地で作られたランプシェードに、ワイルドな鹿角がマッチしている大きめのテーブル・ランプ。こちらも受注生産品で、価格は送料別で¥129.600(羽はオプション)。

真摯に向き合って作られた製品が評判となり、最近ではアメリカを代表するファッションブランドの旗艦店にシャンデリアを納品するなど、全国で高い評価を得ている。
 
北海道では、害獣を有効活用する事業に自治体が補助金を出しており、森井さんも立ち上げの際に補助金を受けたという。ならば町おこしや社会貢献意識があったのか。そう問うと、意外な答えが返ってきた。

「補助金を受ける時は役所に害獣の利活用と散々言いましたが、私の場合は、それが本質ではありません。私はやりたい事、つくりたい製品が明確にあって、それに偶然補助金がついて今の商品を作っているだけなんです。他の多くの団体は、補助金が出るから何を作ろうと考えるわけです。ハンターから鹿角を買い、そのお金が弾代なり交通費になって、ハンターが育成されて、それが巡り巡って地域振興につながるなら御の字と個人的には思っています」
 
そう言いながらも、森井さんは北海道でしかできないモノづくりを信じて魂を込め、今日も製品を生み出している。

HUNT vol.11

工房内には、インスピレーション元にもなる古いウェスタンファニチャーの写真や、雑貨が雑然と置かれている。この空間で作業しているからこそ、コンセプトに沿った製品が出来るのだろう。

シャンデリアは小さいもので直径80cm、大きいものは1.5m。価格は約25万円~60万円。オーダーによっては2mを超えるものを作ることも。シャンデリアに向かない角はハンガーなど別のアイテムに。端材はボタンに。また、工房内には製品化しなかった試作品もちらほら。鹿角ルアーは、嘘か誠かアキアジ釣りで爆釣だそう。

森井さんが手がけた、帯広の名店

GOLD RUSH

 森井さんが25年前に始めた、老舗アメカジショップ。元は古着とヴィンテージを中心に取り扱っていたが、次第にウェスタン、バイカー、ワークをテーマとしたインポートウェアを販売するショップになった。また、ディアホーンスミスのオリジナル鹿革ウェアやバッグも展開。レザーシャツは、まるでガーゼのようにしなやかで軽い着心地が特徴。一つ一つ手で作られる鹿角のボタンも目を引くディティールだ。

address:北海道帯広市緑ケ丘1条2-7-1
tel:0155-25-5583
営業時間:12:00~20:00 木曜定休
http://www.mytokachi.jp/gold_rush/

CALIFORNIA HARVEST

 ゴールドラッシュをオープンさせた2年後に開いた店、カリフォルニアハーベストは、パタゴニアを中心に、十勝のフィールドを楽しめるアウトドウェアを展開。しかしながら、バブアーやバイブリーコート、ハバーザックなど、クラシックテイストなファッションブランドも取り扱っている。HUNTが気になったのは、インナーが取り外せるホワイツのスノーブーツ¥39,800。現在は日本に入ってきていないレア物だとか。

assress:北海道帯広市西1条南9-12-1
tel:0155-22-3638
営業時間:11:00~19:30 定休日なし

photo:Daisuke Akita/text:Junpei Suzuki
Deer Horn Smith's
tel.0155-61-3165
http://deerhornsmiths.com/

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