2018.11.09

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

登別の蝦夷鹿① 猟友会支部長の美味しいジビエ

明治時代に北海道の開拓を支えたエゾシカの利活用を、 現代のやり方で。ジビエと向き合う不動産屋の一日を追った。

(株)伊奈不動産 エゾシカ活用事業部

不動産屋なのにエゾシカ活用とは、これ如何に

取材した日の猟場は、知り合いの牧場を含む里山。現場に到着すると、すぐに山の中腹にシカを発見。トランシーバーで後方から指示をし、見事な連携でシカを射止めた。

 明治維新後、北海道開拓使たちは開拓資金として外貨を得るためにエゾシカを獲り、缶詰や鹿革に加工し、ヨーロッパに輸出した歴史がある。しかし、明治12年とその前後の冬、北海道は大雪に見舞われ、数十万頭規模でエゾシカが餓死してしまい、絶滅が危ぶまれた。これがきっかけとなり、その後、約50年の間は、エゾシカ猟は禁止された。
 
 しかし、平成も過ぎてはや30年。気が付けばエゾシカは推定48万頭までに増えてしまい、獣害も方々で出ている。天敵のエゾオオカミを絶滅に追いやってしまった今、人間がエゾシカを捕獲して生態系を守らなければならないのが、北海道の実情である。
 
 だが、彼の地の人々はこの状況を憂うばかりではない。何とか資源として活用しようと考えているのだ。
 
 伊奈不動産エゾシカ活用事業部は、増えすぎてしまった鹿を捕獲し、安全で美味しいジビエとして処理。飲食店や精肉店に卸す事業。北海道猟友会の室蘭支部長である伊奈信也さんが、登別市から要請を受け、自身が代表を務める不動産屋の一事業部として一昨年に発足したものである。

 「この苛酷な北海道で生き残る賢さ、強さっていうのは、他の野生動物にはないですよね。高タンパクで低脂肪、鉄分豊富。しかも美味しい鹿肉。こんなにも良質な資源を、有効活用しない手はありませんよ」

二人並んだ写真、向かって右が猟師歴48年の伊奈さん。平日は本業の不動産の仕事をし、休日になると左の白川さんと二人で出猟する。白川さんは平日出猟し、獲物の運搬、 解体まで一人で行っている。

雪原に映えるランクル70は白川さんのもので、後方には獲物を運搬する為のウィンチが備わる、ハンティング仕様。

エゾシカ活用事業部は、肉屋や飲食店への肉の卸のほかに、加工した食品も手掛ける。スジ肉を中心にした缶詰は、カレー煮、味噌煮、大和煮の3種類展開。110g缶はひと缶460円で販売中。

シカ肉の美味しさを知ってもらうために

オスジカは単独行動、メスジカは群れる習性がある。仕留めたのがメスだったため、周りを捜索するも2頭目は見つけられず。70キロほどの巨体を二人で引きずり、車を目指す。撮影したのは1月下旬だが、ご覧の通り斜面には雪が少なく草が見え隠れ。シカがよく育つわけである。

 6時58分、日の出の里山に銃声が響き、前方の雌鹿が崩れ落ちた。
 
 ライフルの弾を放ったのは、エゾジカ活用事業部の業務を担う、伊奈さんのパートナー白川さん。元自衛官で、猟師歴25年のベテランだ。お二人は年間で約200頭のシカを仕留める。すべてはシカを適切に処理して、状態の良い肉として流通させるため、スピーディーに処理する必要があるので、自社で食肉処理施設も完備している。

 ほかの所では考えられないことだが、基本的にシカの絶命後30分以内に施設まで搬入し、処理をするように努めているという。また、それが叶わない場所に猟に出かけるときのために、一次処理を行える特殊車両も保有している。
 
 また、鹿を仕留める段階にもポリシーがある。それは必ずネックショットを狙うこと。これにより肉が傷つくのを最小限に抑えられ、頸動脈を破壊することで血がうまく抜けて、シカを苦しませないことにも繋がる。そして、あまり知られていないが、走り回ったシカは肉に血が回る為、味が落ちる。彼らはシカならいつ何時でも撃つという訳ではなく、良い肉を手に入れる為に、リラックスした状態のシカを撃つよう心掛けているのだ。

 「シカ肉は臭いとか、濃い味にしないと食べられないというイメージを持たれる方がいらっしゃいますが、それは適切に処理されていない肉しか知らないだけだと思います。私たちは、本来の鹿肉の美味しさが伝わるお肉を提供して、その偏見を無くしたいと思っています」
 
 平成26年、国はジビエの安全性を確保する為ガイドラインを制定。これにより、飲食店がジビエを提供する場合は、食肉処理業者から仕入れなければならなくなった。ジビエブームの昨今、伊奈不動産のように意識が高い処理業者が増えることで、一過性でなく正当にジビエが評価され、世に定着することを節に祈る。

冷凍車を改造した、日本に一台しかないであろう一次処理車は、冷蔵機能、獲物を吊るす為のハンガ ー、熱湯で殺菌するためのボイラーや流しを備える。荷台は2部屋に分かれていて、後方で腹を裂き胃袋や腸を出し、その後、前方で冷やすのである。

冬場は外気温が低いため出番が少ないが、夏に許可捕獲も行う伊奈さんにとっては必要不可欠な道具だという。

止め刺しに使うナイフ、革と肉の間に入り込み、革を剥ぐナイフ、腱を切るナイフ等、用途によってナイフを使い分ける。

内臓や足の腱など、商品にならないものは札幌のペットフードメーカーに提供して、無駄なく活用。革を剥いだ正体を見ると、相当脂肪を蓄えていたことがわかる。この状態で数日熟成し、肉に切り分けたら真空パックにして急速冷凍。肉は登別の精肉店や室蘭のレストランなどに卸しているが、その卸先も肉のことを正しく理解して、こだわって使ってくれる店だけと決めているそう。

『トラットリア クレド』は、オーガニック食材を使ったイタリア料理店。ここで供されるエゾジカ料理は絶品。北海道らしくハスカップのソースが添えられた一皿は、上品な赤身の味を楽しめる。

トラットリア クレド
http://www.at-ml.jp/70630

 

photo:Daisuke Akita
text:Junpei Suzuki

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