2018.02.14

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

火を愉しむ、雪丘工房のテーブルランタン

工房と呼ぶに相応しいマンションの一室で、行岡さんがひとりですべてを作っている。たくさんの工具が揃っているが、カッターやヤスリなどひとつひとつは決して特別なモノではないところに、却って行岡さんの腕の凄さがうかがえる。もちろん電動工具はいくつかあるが、多くは中古で手に入れたもの。ただしボール盤を2つドッキングさせてしまうなど、独自の改良が施されていたりもする。

美しい真鍮でつくられた可愛らしいオイルランタンは、風に強く、軽く、オイル漏れもないと、見た目も機能も他とは全く違う。今日も鎌倉に あるマンションの一室で、ひとつひとつ、丁寧に作られている。

欲しいランタンがなかったから、自分でつくってしまった

テーブルランタン /「家で使えるお洒落なランタンが欲しい」という奥様からの要望に応え、2年ほど前に生まれた。2つあるガラスのガードリングは自由に動かせるようになっている。高さ13㎝、重さ200g、容量45cc。価格は2万4200円。

アウトドア好きに、火が嫌いな人はいないだろう。大自然の中に身を置くと、火とはこれほど頼もしく、愛おしい存在であったかと思う。LEDが普及した今でもオイルランタンが一定の人々に絶大な支持を得ているのは、明るさだけではなく、火ならではの温もりが欲しいという人がまだまだ多いということだろう。
 
だがしかし、オイルランタンというヤツはなかなか面倒でもある。壊れやすく、漏れやすく、嵩張り、定期的にメンテナンスも必要。「手間がかかるから楽しい」というのもひとつの真実ではあるが、純粋に火を愉しみたいという人には少しだけ厄介でもある。
「とにかく、欲しいランタンが世の中になかったんです。何十年も待ったけど、ついに出てこなかった。だから自分で作ったんですよ」
 
小柄な真鍮製ランタンを自ら製作し、自身のウェブサイトでのみ販売する「雪丘工房」の行岡謙三さんは、海も山も近い鎌倉で生まれ育った。最初は海で、潜ったり釣りをしたりだったが、次第にステージは川に。そしてより手間がかかるフライの世界に入っていった。山に入るから、自然とキャンプも始めた。そこでランタンの、火を愉しむ魅力に目覚めた。だが既存のランタンにはどれも満足できなかったのだという。行岡さんが求めるのは、風に強くて燃料が漏れなくて、小さくて可愛らしいランタンだった。

どのタイプも、ボディは基本的に全て真鍮の板だけから生まれる。様々な要望によりバリエーションが少しずつ増えているが、どれも美しさと何ともいえない可愛らしさを併せ持つ。

「時間を忘れてずーっ と磨いちゃうんですよ。納得いくまでね。使い続けると真鍮ならではのエイジングがカッコイイっていう人もいるけれど、僕はピカピカに磨かれた状態が一番好きですね」と行岡さん。

「オイルカートリッジ」の爪部分は、よく見ると少しだけ先端が曲げられている。UCOのケースに固定するための細やかな工夫。

ランタンの芯まで手作り。グラスファイバーだけだと燃料を上手く吸ってくれないので、綿の糸と縒って【よって】いるのだ。

月に10個しか生まれない究極の″味の一品″

灯油ランタン / フレームの影をなくすため支柱をステンレス鋼線としている。左が収納時、右が使用時で、ケースカバーは風があるときに風防として使え、石の上でも置けるように可動式の足が備わっている。サイズは高さ9.5cm(収納時)、重さ85g、容量50cc。価格は2万4200円。

「もちろんそんな簡単には作れなかったですよ。でも僕はクルマの金型を作る仕事や電気工事なんかをしていたことがあったので、そのノウハウが生きたんですね。当時はサラリーマンでしたが、必死に考え続けて、30歳くらいの時、自分のためのランタンを一つ作ったんです」
 
それはあまりにもよくできていた。同等性能以上の性能を持つランタンは他にないような気がした。そこで、世間はどう反応してくれるだろうかと気になった。そんな風にして「雪丘工房」のオイルランタンが販売されることになった。そのランタンは、一目見ただけで他とは全く違う。まず大きさ。「ポケットに入るサイズにしたかった」ので、缶コーヒーとほぼ同じサイズを目指した。そして可愛らしさにもこだわった。さらにオイルが漏れないこと、風に強いこと、堅牢なことも必須条件だった。あまりにも既存のランタンとは異なるため、結局ほぼすべてのパーツが手作りになってしまったという。ネジ一つに至るまで、行岡さんの手作りである。
「僕は全然専門家じゃないので、ひとつひとつ手探りですよ。だからその道のプロから見れば、笑われちゃうようなコトもあるんじゃないかと思うんですけどね」
 
だが少なくとも素人目には、雪丘工房のランタンには驚嘆させられるばかりだ。単なる真鍮の板からこれほど美しいランタンができるとはにわかには信じがたいが、その工程を見せていただくと工業製品ではなく芸術品であると思える。しかも見えないところまで徹底的に拘っているのだ。例えば真鍮を接着する銀のロウは、一般的に流通しているカドミウム入りを避けている。そのほうが安価で使いやすいが「おそらくほとんど害はないと思うのですが、それでも僕が作ったランタンに有害な物質が含まれるのはイヤなので」と、カドミウムフリーの銀ロウをわざわざ選んでいる。
「形を作って磨いていく段階で、なんとなく気に入らないモノもできちゃうんですよ。何とかしようと努力するんですが、やっぱりどうにも納得できなくて。そういうのは壊しちゃいますね。でもまあ、それって僕の気持ちだけで、他の人が見たら全く気付かないんです。僕でさえ他のランタンと混ざったらわかんないくらいなので(笑)」
 
せいぜい月に10個くらいしか作ることができないため、バックオーダーは増えるばかり。今注文すると10ヶ月待ちというから驚くほかないが、それでも待つ人が大勢いるのだから、それだけ他では代えがたい魅力を持っているという証拠である。

HUNT vol.11

オイルカートリッジ / UCOキャンドルランタンのケースに、ろうそくの代わりに入れられるタイプ。これひとつで約16時間燃焼してくれる。重さは47gで価格は5700円。他にエバニュー横開きやKAKURIなど三爪のタイプ、芯を2つに増やして明るさを増したツインタイプもラインナップされている。

ビートルタイプ / 量販店などでも販売されているタブタイプのキャンドルの代わりに使える同サイズのランタン。コンパクトサイズなのに漏斗を上部にセットできるという細やかさ。価格は5300円。UCOキャンドルランタンのマイクロタイプに対応したビートルL(6600円)もラインナップ。

シーカヤックやフライフィッシングなどアウトドア好きの行岡さん。丹沢などに出かけ釣りをすることも多いという。薄暗くなってくる夕方、ランタンに火を灯しながら釣りに興じるのが気持ちいいんですよね、と笑顔。

行岡さんはオーディオアンプのエンジニアでもあった。オイルランタンを販売し始めた当初はこの場所でアンプ修理業も行っていたが、ランタンづくりで忙しくなってしまったという。このスピーカ ーは行岡さんの自作。

ネジひとつに至るまで行岡さんがひとつずつ製作する。だからこそ自ずと少量生産となってしまうが、だからこそ「逆さにしても、気圧変化でも温度変化でも絶対に漏れません」とウェブサイトで断言できるほどの品質を保てるのだ。

何てことのない真鍮の板が形を変え、あの美しいランタンになるとは到底信じられないが、真実である。接着はロウ付けだが、その後に完璧な磨き作業を経ているため、完成品からその痕跡を見つけることは不可能だ。

愛車は250ccのオフロードバイク、ホンダXR BAJAで、20年以上、10万kmの付き合いになるという。長野県・川上村の廻り目平で林道を走り、ボルダリングを楽しむこともあるというから、相当アクティブである。

photo&text:Yoichi Sakagami
雪丘工房 http://www.green.dti.ne.jp/kenzou/

NEWS of HUNT

ARCHIVES

RANKING

POPULAR TAG

NEWS

SEARCH