2017.12.18

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

野鳥研究家、室伏友三さんが実践する「森の暮らし」

山に囲まれたお宅のウッドデッキには、更に自ら植えた緑や、鳥の巣箱も設置。鳥にも植物にも知識が深く、環境について熱く語る室伏さん。PHOTO : Soichi Kageyama

室伏さんは、肩書きこそ野鳥研究家だが、そのハツラツとした雰囲気からは「研究家」の堅苦しさを感じさせない。御年65歳、日本鳥類保護連盟の理事を務める、アウトドアマンの哲学を持った山暮らしとは。

湯河原にある個人的自然保護区

PHOTO : Soichi Kageyama

 神奈川県湯河原町は海と山の緑と温泉に恵まれた場所。野鳥研究家の室伏友三さんはここで生まれ育ち、自然と触れ合ってきた。そんな町の森の中に室伏さんのお宅はある。まるでビオトープのような大きなガラス窓が特徴的なお宅は、アメリカの成功者が建てると言われるリンダルシーダーホームズである。

「親父はプランクトンの研究者で小田原市の職員だったんです。植物が好きだったんで植物採集についていったり、動物にも興味を持っていました」。

 その影響もあり、理科の先生となって野鳥研究に励んできた室伏さん。その後は湯河原町の議員も経て、現在の日本鳥類保護連盟の専務理事のポストに就いたのだそう。そう今に至るまでのお話を伺っていると……。「コケーッコケーッ」と、裏庭から鶏の声が聞こえてきた。

「卵を産んだんじゃないかな。カラスに食われる前に取っちゃわないと」。椅子から立ち上がり、鶏のところへ駆けつける室伏さん。「あったあった。これはコーチンの卵だね。コーチンも良い卵だけど、こっちの比内鶏の生んだ有精卵なんかはネットだと一個千円する高級品」。

 地鶏の王様名古屋コーチンと、天然記念物の比内鶏が放し飼いされている家で、大陸を横断する渡り鳥を研究する。ここにもワールドワイドな室伏さんらしさが表れているのかもしれない。

きりたんぽ鍋でも使われる秋田の鶏、比内鶏は放し飼いで良い肉質になっていそうだが、卵用に飼育。1羽のオスが数羽のメスを取り仕切っている。

自然と向き合う森の家

 案内された家の中は大人の秘密基地といった具合で、遊び道具からフィールドワークの愛用品、家族の写真が並んでいた。釣り、クライミング、カヌー、自転車……。アウトドアという言葉から連想されることを一通りやっている、根っからのアウトドアーズマンだからこそ、65歳にしてこの屈強な体つきなのだ。

 家具は大抵が木で統一され、至るところに鹿の角をディスプレイ。窓が大きくとられているのは、いつでも外の自然をを見れるようにとの意図だそう。土間の窓から外を眺めると、すぐ目の前にウッドデッキがあり、そこにあった水草の話になる。

「これは元々この地域にあった水草なんですよ。水草って水辺がないとすぐに無くなっちゃう。この地域は我々が子供の頃は田んぼだったんだけど、時代とともに少なくなってきててね。だから絶滅する前に全部種を取って育ててるんです。どこへでも持っていって植えられるように」

都市部にも多くの鳥がいる

 理科の先生が生徒に教えるように、室伏さんは丁寧に生態系の保護について解説してくれた。そして、鳥との付き合い方に話は移っていく。

「この家に何個か鳥の巣箱と、えさ台を設けてるんです。だけど、えさ台って今の時期は使えないんですよ。冬に餌が無くなった頃だけ使うのが本来なんですが、そこを間違ってしまう人がたまにいて。これは餌付けして人に慣れさせる為じゃなくて、野生の部分をそのままに、餌が足りない時に人間が補助する為に設置するものなんです。

 あと、雀はふつう屋根の隙間に巣を作るけど、今の家は屋根が薄くなってしまったんで、巣をつくれないんですよ。だから鳥の為に巣箱が必要なんです。かといって巣箱もあんまりかけ過ぎちゃダメなんですけどね。やっぱり10m、20m離してやらないと本来の縄張りというものがコントロールできないんですよ。生物が移動できる場所、エコロジカル・コリドー(生態的回廊)っていうんだけど、それを作ってあげないと、今の自然環境では生物が大変なんです。

 鳥の為の止まり木として使える場所を作ってあげたり、植物や水場がある鳥の為の楽園、バードピア作りを我々が率先してやっていかなければ鳥は生きられません。バードピアを家庭単位でポツンポツンと島状に作ることによって、鳥が移動していけるんです。

 それは都市部こそ有効なんですが、例えば六本木ヒルズ。あの高層ビルの敷地に30〜40種はいます。ハヤブサなんかの猛禽類も6種。猛禽類は高いビルが好きなんですが、コンクリートジャングルを彼らが好む岩場に置き換えるんでしょうね。建物の間に飛んでくる獲物を狙っているんです」

普段鳥を観察に行く際の装備。「ザックは国産であんまり気に入ったの無いんだ」とミステリーランチをチョイス。双眼鏡は、20倍のツァイスと30倍のライカ。双眼鏡口径が大きく、瞳の大きさが大きいから全然違うのだとか。

在来種の保存にも心血をそそぐ

 日本鳥類保護連盟の理事を務めるだけあって、自然のことになると殊に熱くなる室伏さん。その根本にあるのはただの動物愛護でなく、在来種の保全というのがあるそうで、害獣駆除の必要性も語っていた。

「今大変なんですよ。15年前に獲ったイノシシの骨と最近獲ったイノシシの骨を比べてみると一目瞭然。同じ年齢のイノシシなのに身体が大きくなってるんです。人間への警戒心が薄れて、人里近くまでやってきて、野菜も食べるから栄養状態が良くなったんでしょう。たった15年の間なのにね。それよりも問題になっているのは鹿。何でも食べちゃって、食い荒らしてしまう。この辺は丹沢よりもむしろ伊豆半島から移動してきた鹿が多いんですが、駆除しきれないんです。

 ハンターが高齢化しちゃって人数も少ないし、ハンターになるのにお金も掛るから獲る人もそんなに多くない。だけど、鹿肉は美味しいし、駆除収益も幾らか入るから、教え子で調理師になった子には自分で獲って、自分で解体して店出せばいいじゃないかって勧めているんです」

湯河原近辺の鹿のツノで、三箇所枝分かれしているもの。地域によってもっと大きくなるそうだが、この界隈の鹿はこれが最大だという。

 長年教鞭をとり、巣立っていった教え子の中には生物学を学んだり、教師の道に進んだ者もいると室伏さんは嬉しそうに話す。

「子供の頃にちゃんと教育をすれば大人になってから下手を起こさないでしょう。私は授業で解剖もしたし、標本作りも教えた。それで興味を持ったり、環境意識や生命の大切さを理解できたと思うんです。最近は理科で解剖の実験をする学校が少なくなっていると聞くけれど、それでは駄目でしょう。アメリカみたいに銃の使い方まで教えろとは言わないけど、物事を間違わないように正しく教えるべきですよね」

 教育者であったからこそ思うこともあり、昨今の教育事情にも疑問を投げかけていた。

研究対象は日本の鳥だけではないので書斎には海外の文献も多く並ぶ。和書と比べると昔の本でも色鮮やかな表紙で古さを感じさせない。

根っからのスバリストでもある

 閑話休題。アウトドア好きは総じてクルマ好きである。室伏さんのガレージには見える所から見えない所までカスタムされオリジナリティー溢れる3台が木漏れ日に照らされていた。

 常用で使い、カヌー等大きな荷物があるときに活躍するボルボ850Rステーションワゴン。小回りが利いて、時には鳥を追って川を渡ってしまえるスズキ ジムニー。そして異彩を放つスバル インプレッサ22B STi。これはスバルがレース絶頂期だったワークスマシンをモチーフに、98年、世界で400台だけ生産された超レアものだ。

「キング オブ インプレッサと呼ばれていて、イギリスでは一千万円の値がつく。日本でも五百万円はくだらない代物なんです」

 スバル好き憧れの名車を所有するだけあって室伏さんは大のスバリスト。

「昔、トヨタのトレノを買いに行ったんだけど、ちょうどその日はトヨタのディーラーが休みだったんです。じゃあってんでスバルに行ったらそっちは開いていて、そこでレオーネを買って、スバルに魅了されちゃったんです。その初代とその後2代目を買って、仲間と富士山とかにダートの練習しに行ってました。スバルは変わったクルマを作っていて好きなんですよね」

インプレッサの前はレオーネを乗りついでいたという室伏さん。ダンロップのダートタイヤに丸形のレーシングライト。ロールバーなしでスノーオフロードアタックもしていた頃の写真。

鳥はいわばコスモポリタン

 先に触れた通り、プランクトンの研究者を父に持つ室伏さん。そんな姿を見て育ち、どういう経緯で鳥に興味を持ったのだろうか。そんな何気ない問いかけにロマンチックで哲学のある答えが返ってきた。
 
「やっぱり動物が好きなんですよ。いわばオヤジは生物の原点を研究して、私は最も近代的な生物、進化の頂点を遂げている鳥とか獣を研究する。まあ、とは言っても結局原点は目に見えない小さな生物なわけで、それを忘れて鳥を研究したり追っかけることはできません」

もっと国外にも目を向けるべき

「私が鳥に魅力を感じている点は、四足の動物の行動範囲よりも、鳥は翼を持っていて世界中に飛んでいける、いわばコスモポリタンだっていうところです。コスモポリタンていうのは自分の生活、ライフスタイルにもぴったり合っているんです。そんなグローバルな鳥なんですが、日本は国内だけで研究しちゃっている人が多すぎるんです。

 井の中の蛙状態。国内で研究していて疑問があれば国外にも目を向けるべきだと思うし、今まではこうだろうとしか言われてなかったことが、だんだん国際共同研究を進めることによって、クエスチョンマークでしかなかったのが、解明されてくる。それはやっぱり研究者として大きな魅力だし、大切なことなんです」

海外等、遠くのフィールドへ行く際は大きな望遠レンズに加えてボディを二台を持っていく事もしばしば。「そこらの若い兄ちゃんには負けないよ」と機材の重さを全く気にしてないご様子でカメラを構える。

自ら筆を執り、地域に貢献

 学校の教員として34年務めた室伏さん。「自然も豊かでいい街なのに、温泉ばかりに頼っている町政では駄目だ!」との思いから町議会議員選挙に出馬をし、見事に当選。町の予算を使って、散策マップ作りと環境整備、温泉街に沿って流れる川沿いに湯河原で見える魚や鳥の説明する看板も製作した。

「いざ議員になってみると選挙の前と後でのその行動言動に大きな違和感を覚えるひとも多くて、でも私はせっせとフィールドガイドを作っていました。当時、『お前なんか給料泥棒だ!』と何度言ったことか(笑)今どきおいしい料理と温泉があっても、それだけじゃお客さんは来ないんですよ。

 だからもっと違う視点、観点から街をアピールしたい。だって日本の鳥約630種のうち湯河原は3割強も見れるんですよ。あくまでも自然を破壊するんでなく、ある程度のところまで手を入れて散策路を整備して、もっと鳥を知ってもらおうと。それでを自分で撮った写真と文章でフィールドガイドを作ったんです。僕が描けば業者やイラストレーターでお金がかかんないしね。こういうもので町を活性化しようと今までやってきたんです」

今度、新たに橋の脇に立てる看板用に魚の絵を執筆中。ただのスケッチではなくてトレース台も使った本格的な細密画。

このような線画はロットリングの高性能なテクニカルペンで描かれる。用途にあった太さが選べるうえ、インクも充填式でメンテナンスがし易いため、長年愛用しているという。

じっくり観察してから描くのがポリシー

 議会を離れ、財団の常任理事となった今でも、プライベートな時間を使ってフィールドマップの第四弾を製作しているそうで、書斎には国内外の資料や、絵を描くための愛用道具、写真や沢山のカメラがあった。基本的に自分で撮った写真を元に絵を描くそうだが、やはり自分で知って、動きがわからないと嘘っぽくなってしまうとのことで、鳥は双眼鏡で、魚やカエルも箱メガネでじっくり観察してから描かれる。

 デスクの隣には大きな防湿庫があり、現在から今までの歴代使ってきたカメラやレンズが納められていた。『最近作ったものがあって……。』と取り出してくれたのは何と、本物のライフルのバットストック(銃床)をアレンジして作られた物々しいガングリップ。いつもこれに300㎜の望遠レンズ(マニュアル)を付けてフィールドへ飛び出すのだそう。

「私はボディこそニコンのD3Sだけど、レンズはマニュアル派。オートは一本しか持っていないんです。だってカメラが撮ってくれるわけでしょ? 機械が勝手にやってくれると、自分の写真じゃないみたいでね。ガングリップはもともとニコンF用のレリーズが付いたものだったんだけど、今はモータードライブを使わないから、それをベースに、カリフォルニア州チュウラビスタ市警の対テロインストラクターをしている息子にバットストックを送らせて、それをボルトで取り付けたんです。こんな昔の長玉でもしっかりホールドができるし、これは非常に良いですよ! 海外に持っていくと止められちゃうけどね(笑)っていうか日本の街中でも不審がられるか」

 趣味と実益を兼ねた室伏さんらしいアレンジ。下手な戦場カメラマンより戦場カメラマン然とした、というか傭兵のような室伏さんがこのセットとミステリーランチのバックパックを背負って歩いたら、なかなか鬼気迫るものがある。

「息子に銃の基礎を教えたのも俺だからね」。そう豪語する通り、ファインダーを覗きこむ様は、照準器を見つめターゲットを狙うような鋭い眼差しだった。

バットストックを取り付けてホールドを高めたオリジナルのガングリップを装着した、ニコンのD3Sと300S。それぞれ500mmと300mmの望遠レンズを装着。この二台を持って山に入るには相当の体力が必要だ。

水辺と森の宝石

 町議会議員を務めた室伏さんは今度は公益財団法人、日本鳥類保護連盟(以下JSPB)の神奈川支部長に就任、そして昨年同財団の常任理事となった。

「今私が座ってるポストは、この前まで環境省の管理下だったんです。鳥も知らないフィールドも知らない、ちょっと外行くだけで『何が必要ですか?』なんて聞いて来る始末。ひどいカッコしてきて。まあしょうがないんですお役所だから。でもそれをやめようと働きかけました。行政マンがトップだったところに僕みたいなのが来たから、がらっと変わっちゃったんですよ。うちの財団はリニューアルしてちょうど一年経つんです」

水辺の宝石とまでいわれるカワセミだが、今はどこでも普通にみられるようになった。これも環境への適応か。

 JSPBは鳥を中心とした野生生物保護に関する知識を広め、自然環境と生物多様性の保全、野鳥と共存する社会の構築を目的としている財団。具体的には先のバードピア作りや野鳥の調査・研究、愛鳥週間の普及活動などだ。専務理事で業務執行理事となった室伏さんは、財団のマネジメントを担う事になり、早速、新たなプロジェクトを立ち上げた。

「3年前、バルト三国を巡る一人旅をしたんです。リトアニアに第二次大戦中にユダヤ人をホロコーストから守った杉原千畝さんっていう日本人がいて、その人に憧れていたので、一度記念館を見に行ってみようと。リトアニアで観光をしていて、ヴィリニュスの大聖堂の前で現地の学生に写真を撮ってくれと頼んだんです。それで何気なくその青年に何を学んでるかを聞いてみたら、偶然にも鳥類学だっていうんです。

 そんな運命的な出会いがあって、話を聞いてくうちにリトアニアにもコアジサシがいるとわかったんですよ。それまで日本とオーストラリアの間だけを横断する鳥と思われていたのに。そして昨年、理事になったこともありコアジサシの共同研究をリトアニア大使館伝いに申し出をして、ちょうどこの間、締結を結んできたとこなんです」

コアジサシに取り憑かれて

 JSPBが外国と共同事業をするのは初めてではなく、以前からオーストラリアとも手を取り合ってきた。これもまたコアジサシに関する研究なのだそう。しかし、なぜ何千種類もいるであろう鳥の中でもコアジサシなのだろうか。

「昔、長い間私はオシドリの研究をしてたんですよ。オシドリの興味深い所っていうのは日本からロシアの間を飛ぶ所にもあるんですが、コアジサシっていうのは、夏は日本にいて、冬は赤道を越えて地球の反対側まで飛んでっちゃうんです。小っちゃい鳥なんですけどとても飛翔力があるんですよ。普通じゃ考えられないでしょ。だから非常に面白くて、すっかり私は憑りつかれたので、これはもうやるしかないと」

長年鳥を撮影してきた室伏さん。その膨大なフィルムは今日の研究材料として役立つ。キヤノンのレンジファインダーカメラも書棚に置かれる。

「これまで東南アジアや日本に飛来するコアジサシはオーストラリアから来ていたと思われていたんですが、よく調べてみると、アメリカコアジサシとアラビアコアジサシというのもどうやら日本に来ているのではないかな、という推測に至ったんです。それでずっと撮り溜めている写真を改めて見たらおかしなのがいっぱい出てきた。コレは……と思っていたのがビンゴでしたね。アメリカも中近東のもみんな混じって飛来していたんです。

 おそらく20年以上も前から。今年は日本とリトアニアの両方で、飛来したコアジサシの足にICチップを取り付けたので、来年戻ってきたときに裏付けする結果が出ると思いますよ。昔のポジをデータに起こしているうちにこうした発見をすることもあるけど、鳥好きのオタッキーじゃなく、グローバルにいろんなものを考えて、フィールドワークをやっていかないとね。研究者だからって机に向かうばっかりでは何にもなんないから、やっぱりアウトドアーズマンよろしく体張っていかないとダメですね」

 そう言葉を締めくくった室伏さんは、湯河原に来たら温泉に入って行かないと駄目だと、我々を湯河原でも有数の源泉掛け流しの温泉旅館「大歓荘」へ案内してくれた。ワールドワイドに活動しながらも、ローカルをも大事にする熱い思い。そして熱い温泉が身に染みた。

NEWS of HUNT

ARCHIVES

RANKING

POPULAR TAG

NEWS

SEARCH