築100年の日本家屋で、田舎暮らしを味わう
女性ひとりで古民家を再生した宿泊施設を運営していると聞いて、訪れたのは山梨県笛吹市芦川町で古民家宿LOOF。勝手にワイルドで屈強な女主人の姿を想像していたのだが、宿を営む保要佳江さんは写真のとおりの華奢で色白の美人である。
気づくとストーブに加えて囲炉裏の火も入り、室内の空気がゆっくりと暖まっていくのを感じる。
「最初は古民家の宿をやろうなんて思っていなかったんです」
赤くなった炭がパチパチと音を立てながら燃える囲炉裏越しに、保要さんはそう切り出した。東京で生まれ、物心つく前にご両親とともに山梨県の芦川町に移住してきたという保要さん。東京の大学に進学し、国際協力事業に興味をもち、まずは英語の勉強をとアイルランドに留学。帰国後に農村指導者育成の専門学でボランティアで活動をしながら、ゆくゆくは海外で働くことを思い描いていた。
ではなぜ故郷である芦川に戻り、古民家宿をやることになったのか? それは当時の友人から言われた「自分の身近なところを変えられないようじゃ、世界のことなんか変えられない」という一言だったという。
そこで一念発起。芦川を舞台に何ができるだろう? と考えた保要さんが一度完全にスケルトン状態にしてリノベーションしたという建物は、築100年の香りを漂わせながらも、センスよくモダナイズされたもの。広々としたワンルームの1階は、床板がしっかりと張り直されていて、ミシリとも音を立てない。居間のまわりを縁側が取り囲み、晴れた日はそこにいるだけで暖かい。無論水回りも一新され、キッチン、トイレ、バス(浴槽は古い檜風呂を再生したもの!)も綺麗で清潔。またロフト状になった2階には、寝室とくつろぎのスペースが広がる。





若い女性ならではの発想で古民家暮らしを快適に

周りを山々に囲まれた芦川。LOOFのすぐ近くに小学校があるが、保要さんが小学生の時は一学年8名いたものの、現在は小学校全部で4名のみ。どこからどう見ても、限界集落である。それゆえ近くにはコンビニはおろか小さな商店すらないが、LOOFにはWifiの用意も、Apple TVもある。夕食は保要さんが厳選した地元で採れた新鮮な食材を使った料理を堪能。山梨の名産であるワインも沢山揃っている。一方、朝食は自炊となるが、LOOFの様子をSNSにアップしてくれたお客さんには食材を無料で提供してくれる。チェックアウトまで基本的に宿には宿泊客しかいない状態となるものの、何か困ったことがあれば、囲炉裏に置かれたタブレットで保要さんにLINEすればいいという仕組み。
〝限界集落"〝古民家"と聞くと、なにやら苦労や我慢といったイメージを抱きがちだが、若さと女性ならではの発想が、誰でも楽しめる田舎の古民家暮らしを実現しているのである。
「私、不便なのって嫌いなんですよ」
そう言って保要さんは笑う。LOOFに漂う、田舎暮らしとも都会生活とも微妙な距離が保たれた居心地のよさは、芦川も、東京も、海外での暮らしも知る保要さんならではのバランス感覚から生まれているのだろう。20〜40代の男女や外国からの宿泊客が多いという事実がそれを証明している。
そして今、保要さんは今年4月のオープンに向け、近くの古民家を改装したLOOF2号館の準備にも取り掛かっている。「まだ働いてくれる人見つけてないんですけどね。家も間に合うのかな?」とマイペースだが、保要さんの挑戦は一歩ずつ着実に歩を進めている。
HUNT vol.11









古民家一棟貸し宿“LOOF”
address:山梨県笛吹市芦川町中芦川559-1
tel:080-3509-9938(8:00-21:00) mail:info@ashigawa.jp
http://loof-ashigawa.com/
photo:Yoichi Sakagami/text:Yoshio Fujiwara