2018.04.19

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

トーマス・ブレークモアが愛した川「養沢川」とフライフィッシングの魅力

日本にフライフィッシングを広めたパイオニアの一人、ブレークモアが愛した養沢川「養沢毛鉤専用釣場」と、国内のバンブーロッドビルダーの草分けの一人となる、高田守康さんとのストーリー。

ブレークモアと毛鉤専用釣場

養沢毛鉤専用釣場の開設時期は3月1日~10月31日(ヤマメは9月30日まで)。料金は大人1 日券4500円、午後券 3000円。子供料金も有。

養沢川。多摩川の支流となる秋川のさらなる支流となるこの清流の上流域に、「養沢毛鉤専用釣場」というフィッシング・フィールドがある。
 
その名の通り、フライフィッシングやテンカラなどの毛鉤釣り師のための専用フィールドとなるこの“毛鉤専用釣場”のスタートは1955年。太平洋戦争が終結してわずか10年後のという時期に、フライフィッシングの文化を伝承しようとして誕生。現在まで多くのフライフィッシャーに愛され続けてきた。彼の地の発展は、米オクラホマ出身のトーマス・レスター・ブレークモアという存在抜きには語れない。
 
1915年にオクラホマ州サパルパに生まれ、幼少期は父親の影響でフィッシングや狩猟などを通して自然に親しんだ。そして、後に植村直巳氏の援助を行うなど、自然と冒険を愛する青年になった。
 
そんなブレークモアが初めて日本に訪れたのは1939年。世界時事問題研究会員として現在の東京大学に留学することになるが、太平洋戦争における日米の緊張の高まりの中、帰国。戦後となる1945年に再び来日し、翌年にはGHQの法務部に所属し戦後日本の民法刑事訴訟法の改正立法に携わった。3年後にGHQを離れた後は日本国内で法律家として活躍し、1988年に妻の療養ために日本を離れ、1994年に急性心不全でその生涯を終えた。
 
ブレークモアはGHQ時代に公式の視察として各地を回り、その際に鱒などの魚類や野生動物の生態などに理解を深めたという。養沢の地を最初に訪れたのも、この時期だったようだ。こういった経験により、国内の魚類に対する保護状況や乱獲に憂いていたという彼は、魚類の保護や研究、そして少年時代から親しんできたフライフィッシングの普及のために、自然渓流を生かした管理釣り場を作れないかと思い立つ。その地こそ、彼がたびたび訪れその美しさに魅かれていた、奥多摩に流れる養沢川だった。
 
この着想を得た彼は積極的に活動し、様々な個人や団体に呼びかけ、1955年に㈶五日市養鱒協会を発足した。そして、同年6月1日に、国内初とも言われる毛鉤専用フィールド「養沢毛鉤専用釣場」をオープンさせたのだった。この際、ブレークモアは自身の私財をトラウトなどの放流費用にあてたという。

フィールドの起点となる管理事務所で釣魚券を購入してから、フィッシングのスタートとなる。この管理事務所も落ち着いたスペースだ。

自然渓流の趣が残されたフィールドには、定期的にニジマスやヤマメが放流される他、元々自生している魚や、放流 後定着した魚の姿も。

管理事務所には、「養沢毛鉤専 用釣場」のオープン当時、ブレークモアが養沢川で愛犬とフライフィッシングを楽しんだ際の写真も残されている。

自然渓流の趣が残された4km

約4キロのフィールドは浅瀬から、プール、堰堤など釣り上がるにつれて様々な表情の変化が楽しめる。それほど深い場所はないが、釣り上る際はウェダーなどを着用した方がいいだろう。クアスティングする距離はそれほど長くないので、#4番程度のロッドがあれば十分に楽しむことができる。フライの他、テンカラ釣り師も訪れている。

日本国内にフライフィシングという自然と共に楽しむスポーツフィシングを広め、人の手の入っていないフィールドを創り上げたブレークモア。その想いは60年以上が経過した平成の世にも引き継がれ、社団法人として養沢地域全体で管理運営を行い、売り上げの一部は清流を守るための落葉樹の植林、環境整備などに利用されている。現在の「養沢毛鉤専用釣場」は養沢川の上流、エリアの管理事務所付近から上流に向かい養沢神社の手前付近までの約4キロの範囲。フィールド周辺の環境は整備されているものの、養沢川という自然渓流の趣が残され、様々な攻略方で楽しめる変化に富んだポイントが各所に点在しているのだ。
 
全てのエリアにわたりレインボートラウトとヤマメが定期的に放流去れている他、過去に放流され定着したブラウンや数は少ないものの、イワナやブルックの姿も見ることができるなど、魚種も豊富。また、釣り場内には、数か所の駐車場とトイレも設置して、路肩への駐車や環境破壊が起こらないように配慮している。このトーマス・レスター・ブレークモアが愛した養沢川を、テンポ良く釣り上がっていく、ひとりのフライフィッシャーマン。その手には、6フィート7インチのバンブーロッドが握られている。

美しい道具であると同時に工芸品

当日、高田さんが持参してくださったロッドは、3ピース6f7incの#4。リールはレナード。微妙なテーパー角が付けられ、真っ直ぐに削られたブランクにウレタンのドブ漬けというフィニッシュの美しさが、高田さんのロッドの魅力のひとつだ。

ロッド製作は緊張と楽しみ

彼の名は高田守康さん。ブレークモアが日本にフライフィッシングを広めたパイオニアのひとりなら、高田さんも国内のバンブーロッドビルダーのパイオニアのひとりだ。
 
高田さんは1980年代からバンブーロッドを製作し、その作品は自らが立ち上げた高田ロッドというブランドを通し、多くのバンブーロッド愛好家に親しまれている。
 
幼い頃から釣りを楽しみ、フライフィッシングに出会ったのは社会人になってからだったという高田さん。バンブーロッドの魅力に目覚めたのは、レナード39Lに出会ってからだという。そしてその出会いから、1年後には自作のバンブーロッドを製作していたそうだ。

「マッキーズクリークさんのところでブランクが売っていて、自作できるのかな?と思ったのが最初でしたね。ギャリソンの本(バンブーロッド製作の指南書)を持っていたので、それで色々と調べて数か月で完成しました。その後、マッキーさんとの付き合いで34歳の時に会社をやめて、竹竿一筋です」
 
それから30年余りも、バンブーロッドを自らの手で製作し続けている高田さん。その工房には工作機械と共に材料となる竹がストックされ、作業中のバンブーロッドのパーツやすでにウレタン塗装が行われ、後は銘を入れるだけのロッドなどがところ狭しと並べられている。
 
バンブーロッド製作の全工程をお一人で行っている高田さんにとって、楽しい時間はブランクなどを「削っている時」。逆に一番緊張するのは、全ての加工工程を終え丸ペンにインクを付け、銘を入れるその瞬間だという。オーダーの場合は、この銘入れを行うまでに約半年という期間を掛けることになる。

バンブーロッドの魅力は「掛けた時に、手に伝わってくる感触」だという高田さん。養沢川でもその感触を何度も味わうこととなった。

養沢川で出合った、レインボートラウト。放流のアベレージサイズだが、放流後に定着しこの場で産卵し育った魚も多いという。はたしてこのレインボーは。

全ての工程の中で「一番緊張する」というのが、銘入れの作業。丸ペンにロットリングのインクを付け、一本一本手書きで銘が入れられている。

高田ロッドの工房での高田守康さん。この工房の中で製作工程の全てを自らの手で作業を行い、高田ロッドのバンブーロッドが仕上げられていく。

時を超えて受け継がれていくもの

管理事務所内には、トーマス・レスター・ブレークモアが愛用したフライが飾られてい た。地域の方々に、ブレークモアという名前は今でも親しみを持たれている。

自らの手によるバンブーロッドを握り、養沢川を釣り上がっていく高田さん。ポイントによりフライを替え、状況によって時には素早く移動、時には少し粘りながらロッドを振りフライを流していく。そして、ロッドがしなる。
「バンブーロッドの魅力は魚をかけた時の手元にくる感触ですね。魚が引けばきれいに曲がってくれるし、魚がよれば立ってくれる」
 
独学でバンブーロッドビルディングを学び、試行錯誤しながらテーパーを研究し、できるだけまっすぐに見えるようにこだわって竹を削っていく。今まで何本も自らの手で製作してきたバンブーロッド。その中の一本で、しばし感触を楽しみつつ魚を寄せる。そして、リリース。
 
この日は神谷堰堤まで釣り上り、「養沢毛鉤専用釣場」でのひと時は終了。ブラウンパラシュートとニンフで、数匹のレインボーなどの魚体も見ることができた。

1950年生まれだという高田さんが5歳の時に整備された「養沢毛鉤専用釣場」。トーマス・レスター・ブレークモアという釣りや自然を愛した一人の男の想いは今も、地域の方々やフィッシャーマンに受け継がれている。その渓流の中で振られた高田さんが製作したバンブーロッドも、やはりフィッシャーマンによって受け継がれていく。

HUNT vol.11

東京都内とは思えない自然の中、バンブーロッドで魚と対峙する。フライフィッシングに対するブレークモアと高田さんの想いは、時代を超えてこの場で交錯する。

ブレークモアの記念碑。1995年にトーマス・ブレークモア記念社団が製作。彫刻家の安藤士氏の作となる。

本須バス停付近にある養沢の管理事務所。管理釣り場とはいえ、ここの魚はなかなか釣られてくれない。

管理事務所には、当時の養沢川の写真なども飾られている他、ブレークモアの資料なども保管されていた。

養沢毛鉤専用釣場 tel.042-596-5108 http://yozawa.jp
高田ロッド tel.042-462-1010 http://takada-rod.com/

photo:Daisuke Akita/text:Hiroyuki Kondoh

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