2018.02.16

大人の趣味の為のライフスタイルマガジン「IN THE LIFE(イン・ザ・ライフ)」

憧れのヴィンテージレーサーと本気で付き合うバイクライフ

18歳でスプリットウィンドウのVWタイプⅠを買って以来、ヴィンテージVWの世界を中心に生きてきた空冷VWスペシャルショップ「One Low」のマサシさん。しかしこの頃は家に帰ると、とあるバイクにつきっきりだ。そのバイクの名はホンダCR110。15歳の時から夢見た、憧れの1台だ。

A Man with Vintage Style #01 Masashi Tasaki

 『Daytona』の連載コーナー「DCC」で、ケイアニイのVWタイプⅢの作業全般を担当していることでもお馴染み、空冷VWのスペシャルショップ「One Low」のマサシさん。18歳でヴィンテージVWのオーナーとなり、空冷VWの事ならチューニングもカスタムも、とことん究めてきたこの業界の達人だ。そんなマサシさんが「遂に夢が叶った」というマシンを手に入れた。普通ならそこでスペシャルなヴィテージVWを想像するが、これが意外なことに、その夢の1台はバイクだった。

 そのバイクは、マサシさんの自宅ガレージ……ではなく、ガレージに併設された"部屋"で保管されている。バイクの下には、敷物もオイルトレーも何も無し。つまりそれだけ、このバイクは完全にメンテナンスされ、常にクリーンアップされているということでもある。まるで美術工芸品か何かの様に扱われているこのバイクの名は、ホンダ「CR110カブ・レーシング」。あらゆる乗り物道楽を究めてきたマサシさんですら、"夢の一台"というほどのスペシャルマシンだ。

 1950年代後半からホンダは世界の2輪ロードレースへの参戦を開始し、ワークスマシンのRCシリーズを次々に開発。そのノウハウを市販車に投入したのがCRシリーズであり、このCR110もそうしたレースの血を引く1台だ。50㏄単気筒ながらDOHC4バルブヘッドを持ち、その精巧な作りから"精密機械"と評されたエンジンは、特徴的なカムカバー形状から"ミッキーマウス"という愛称も持つ。

 市販レーサーとはいえ、当時の販売価格は一般モデルの約3倍。公道走行可能なスクランブラータイプの初期型、そしてレーサータイプとなった中期、後期型の3タイプに大別できるが、その総生産台数は僅か246台ほど。現存数も少ないことから、CR110のオーナーになるには、お金だけでなく熱意と巡り合わせも必要になってくる。だからこそ、これは"夢の一台"たる存在なのだ。

 マサシさんがCR110を知ったのは15歳の時。現在共にOne Lowで働く、バイク好きのお兄さんの影響だった。それ以来「バイクはCR110以外興味ない」という生活を送り続け、たまたま初期型、中期型と順次入手する機会に恵まれた。しかしエンジンが焼き付いていたり部品が足りなかったりと、なかなか満足のいく個体とは出会えなかった。

 ようやく巡り会った3台目は、バイクとして熟成された後期型で、CR110を乗って楽しみたいマサシさんにとって、これぞという一台になった。また、CR110を追い求める過程で、ホンダのコレクションホールの展示車両を手掛けている、元ホンダ勤務のベテランメカニックとも懇意になり、この方に後期型のレストアを一任。ついに、乗って良し飾って良しの、マサシさんの夢の一台が完成したのだった。

 当時のカタログスペックは、最高出力8.5馬力/1万3,500rpm。後期型はそこに8速ミッションが組み合わされ、最高速度135キロ以上を謳っていた。果たしてレストアを終えたマサシさんのCR110は、鈴鹿のストレートで見事カタログ数値をマークしたという。全てオリジナルパーツに拘ってレストアをしたが、現代の精度で組み上げたエンジンは「9馬力くらい出てると思う」そうで、半世紀を経てCR110は本当の力を発揮するに至ったのだ。

仕事を離れ、ヴィンテージマシンを自宅でじっくりと愛でる日々

 滅多に市場に出ないパーツを必死でかき集めても、細かい仕様違いがあって合わなかったり、物の程度が悪かったりしてレストアは難儀を極めた。しかしそうした経験が、マサシさんのCR110を完璧にしていったのだ。

 後期型を手に入れる前に入手していた、中期型のフレーム。後期型はビス1本に至るまでピカピカのレストアを施したので、この中期型は当時の適度なヤレ感を残したままの、綺麗すぎない形で復活させたいとか。

 「CR110が完成したら、このツナギを着てサーキットを走りたかったんだ」と、見せてくれたのがコレ。このツナギはかつての名レーサー、生沢徹氏が着ていたその物で「これを着る為にダイエットを頑張った(笑)」そうだ。

 そもそもはお兄さんが生沢氏から直接譲って貰ったもので、長年コレクションになっていたが、CR110完成のタイミングで拝み倒し、マサシさんの物となった。これもヴィンテージ品なので、かなり手を入れてクリーニングしたそうだ。

マサシさん宅のガレージには、レストア作業が佳境に入ったスプリットウィンドウのVWタイプⅠも置かれている。これは仕事抜きでコツコツと仕上げた1台で、カスタムもチューニングも一切施さない、フルオリジナル仕様となる。

 ヴィンテージホンダの世界は奥深く、マサシさんは「俺なんてこの世界じゃ新参者だからさ(笑)。とにかくコレクションホールのメカニックの方には本当にお世話になりましたね」と謙遜するが、CR110に対する真摯な姿勢はひたすらに熱い。オイル染みどころかホコリ一つすら付いていないこの半世紀物のバイクを、"置物"ではなく"乗物"として扱っている事が何より格好いい。

 昨今のヴィンテージバイクは、その稀少性や価値にのみフォーカスされがちだ。しかしバイクの本当の価値とは何なのか? それをマサシさんは、誰よりも深く理解しているのだ。

Photo:Ken TAKAYANAGI
Text:Takayoshi SUZUKI
媒体:Daytona No.321掲載「特集:ヴィンテージのある生活」

[One Low]
 東京都西多摩郡瑞穂町箱根ヶ崎1050-3
 042-556-9416
 http://onelow.wixsite.com/one-low

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