MOBILITY

2020.07.27

シトロエン・2CVはタイムマシン!? パリのモンマルトルの丘に登るだけで、周囲は古い街並みに変わる

1961年式の2CV AZLP 不透明なブルーのボディにフロントドアはリアヒンジ、クォ ーターウィンドウはないが、ボンネット上のプレスは最初期 の23筋から、1960年末~61年前半を境に5本に簡素 化された。ハンモックチェアに、アルミ製でエンジン点火 用クランク穴つきグリル、楕円のリアコンビランプなど、 過渡期といえ古典的なディティールを備える。

シトロエンが創業して100周年の節目。テストコースのあるラ・フェルテ・ヴィダムで開催される記念イベントを取材するため、旧コンセルヴァトワールことシトロエン・ヘリテイジで1961年式の2CV AZLP、空冷2気筒425㏄の13.5ps、遠心クラッチ仕様を借りた。

これは2CVが市販モデルとしてデビューした1949年から数えて、メカニズム的には第2世代にあたる。もちろん最初期の375㏄より力強いが、最後期の602㏄・29psの2CV 6とは比べるべくもないほど、プリミティブな仕様だ。
 
パリの街中を2CVで走るなんて、住んでいた頃は考えもしなかったが、時差ボケで目が覚めたついで、モンマルトルの丘に登ってみた。そして驚いた。見慣れた景色が2CVの車窓を通じて、本や映画で見た旧いパリになったような、そんな風に見えたのだ。予想もしなかったタイムマシン効果だ。
 
というのも速度感が、ただ遅いという絶対値的な話でなく、今日のクルマとは質ごと、まるで異なる。これについて説明してみよう。
 
何を急いでいるの? そんなクエスチョンマークを振りまく、そんなクルマ


 
2CV AZLPの遠心クラッチは、停止中に1速に入れる際にペダルでクラッチを切る動作、同じく発進の際に繋ぐ動作は必要としない。アクセルを踏めばダイレクトに繋がるが、1速が低くて10㎞/hほどで早々に吹け切る。

続く2速は定石通りクラッチペダルを踏み、シフトノブを中立から奧へ。市街地の制限50km/hには微妙に届かず、3速が要る。だが3速から4速へ繋ぐと、大きくトルクが落ち込む谷間がある。しかもシフトレバーを手前の3速から奥へ押し込むには、その微妙な手応えのあるゲートを探り当てなくてはならない。

しくじると、さっきまで陽気にポロポロっと謳っていたフラットツインの陽気なエキゾーストが、重たく鈍いトーンに変調してしまう。だからこそ操っている感覚がある。


 
こうした密な対話を経ながらハンモック・シートに揺られ、然るべき速度域を保つ。それだけで満たされる楽しさが2CVにはある。それは、何のコツもなく望む以上の速度を過剰に与えてくれる今のクルマでは感じられない。何を急いでいるのか?そんな巨大なクエスチョンマークを四方八方にふりまき問い質す、強烈なオーラだ。
 
4速全開でも70㎞/hほどの2CVAZLPで、下道だけ走って着いたラ・フェルテ・ヴィダムの会場には、もっと年式の旧い2CVがゴマンといた。旅や移動の目的とは当然、目的地で用を果たして無事に帰り着くことだが、移動時間そのものが目的になりうることを、シトロエン2CVは示し続ける。

写真、文:南陽一浩

TAG

RECOMMENDED


RELATED

RANKING