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2021.06.08

本物のねこ!?「動物彫刻家」はしもとみおさんの、"その子らしさ"を写し取る彫刻たち【ねこ】

今にも動き出しそうなリアルな動物彫刻を作り続ける、はしもとみおさん。ねこの肖像彫刻においても、彼らの息づかいや体温を感じるほど、生命感にあふれています。

近著『はしもとみお 猫を彫る』からも窺える、ねこへの特別な思いとともに、ねこの魅力について伺いました。

動物たちの美しい姿をありのままに彫刻で

彫刻と聞くと、美術館で見るような大理石やブロンズなどを素材とした、いわゆる"芸術作品"というイメージがありますが、はしもとみおさんが彫り出す木彫動物は、芸術作品のそれとは異なる、木の温もりと愛らしさ、そして生命感あふれる佇まいが魅力です。

犬やねこなど身近な動物からオラウータン、ラクダ、マントヒヒなど、個性豊かな動物たちが大集合した展覧会へ足を踏み入れれば、その生き生きとした動物たちの姿に思わず笑顔がこぼれ、そっと撫でたくなる愛嬌さがあります。

「動物を彫るとき、私の場合は現実に生きている動物や、たしかに生きていた動物たちの一番美しい姿を彫刻として残すことを目的に作っているので、動物たちにはみんな名前があるんです。

現在生きている子も亡くなってしまった子も、〇〇ちゃんって呼んでいます。だから彫刻も"作品"と思ってほしくなくて。それこそ動物園の動物に会いに行くような、親しみを持って接してもらえたらうれしいです」

現在、愛犬・月くんと共に三重県北部で豊かな自然と向き合いながら、自分が感動する瞬間を大切に、動物彫刻を作っているはしもとさんですが、最初から彫刻の道を目指していたわけではなかったと話します。

【写真43枚】"その子らしさ"を追究した彫刻たちを見る!

動物彫刻を作り続ける原動力

「とにかく小さな頃から動物が大好きで、動物に関わる仕事に就きたいと獣医になることを夢見ていました。美大に入ったのも美術をやろうと思ったわけではなくて、動物を再現して残すという意味で美術の技術が不可欠だと思い、デッサンや彫刻を学ぶために入りました。

だから現代アートとか芸術に全く興味がなくて(笑) むしろ動物園や飼育員との交流が多く、バックヤードまで入らせてもらうくらい動物にしか興味がないんです。動物たちを観察・研究してありのままに残す"肖像彫刻"という仕事は、研究職や博物学のような感覚に近いかも知れません」


動物たちに抱く憧れや優しさや愛情を、純粋に真っ直ぐに、少女のような無邪気さで語りつつも、肖像彫刻の仕事はドライな作業の連続で「衝動ではなく研究と観察力がすべて」とも話してくれたはしもとさん。彼女の動物彫刻家としてのモチベーションは一体どんなところにあるのでしょうか。

「実家で長年一緒に暮らしていたねこが逃げてしまったことや、大学一年のときに出会った一匹のねことの別れから、"もう一度あの子に逢いたい、あの子に触れたい"という思いが強くなって。拙い技術ながら大学でねこたちの彫刻を作ったんです。

でも実際に作り始めると上手く思い出せなくて、8年も一緒に暮らしたねこなのに……とてもショックでした。その時、失った命のカタチや今生きている動物たちの美しい姿をありのままに残したい。それには確かな観察力とカタチに残す技術を身につけなくてはと思ったんです。

生きていたねこの一番美しい姿を上手く残せなかったという、当時の後悔が今も私のモチベーションです」

そう話してくれたはしもとさんのねこに対する思い入れは、過去の後悔とは別に、敬慕にも似た特別な思いもあるようです。

【写真43枚】"その子らしさ"を追究する、はしもとさんの彫刻たち。

「ねこは犬や他の動物と違ってとてもカラフルな生きもの。彫刻はカラフルなものが難しいんです、色にとらわれて本当の立体感を見失ってしまうから。

だから白や黒などの単色から三毛、トラ、キジなど複数の色が混ざっているねこは、あらゆる面で鍛えてくれました。スケッチのモデルにも最適で、とにかくねこを描くだけでデッサン力や観察力が備わりました。

もちろん、技術的なことは大学で学びましたが、彫刻もデッサンもねこから学んだといってもいいくらい(笑) 私にとってねこは、先輩であり先生である、いう思いが強いですね」

秘密めいた部分を残す

はしもとさんの描くねこのスケッチには、なつき度というユニークな言葉が添えられていますが、これは彫刻を作るときに必要な記録なのだとか。

「スケッチは彫刻にするための設計図になるので、正しいカタチを記録することはもちろん大事ですが、どちらかといえばその子独自の後ろ姿や佇まいとか、"その子らしさ"を一番にスケッチしています。

なつき度は、彫刻を完成させたときにその子らしさを出すためのもの。懐こい子はちょっと媚びていたり撫でたくなる表情に、逆に懐かない子はどこか近寄りがたい雰囲気になります(笑)」


動物彫刻家としての原動力にもなっているねこ。はしもとさんにとってねこはどんな存在で、どんな魅力があるのか、あらためて伺いました。

「ねこは犬と違って自立しているので同居人という感じ。犬は一日たりとも離れることができないので保護者という感じですね。

ねこは適度な距離感を保ってくれるので、そこが心地良いなぁと。そしてねこの魅力は、その気まぐれさと秘密を常に持っている感じ。

彫刻にするときも全てを表現しないようにしています。どこか本心を隠しているような秘密めいた部分を残すことで、よりねこらしくなる。そんなところも含めてねこの彫刻に触れてほしいです」



協力:辰巳出版


ねこ no.110

文:馬場恵美子  写真:森田直樹、中川真理子

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